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リンカーネイトリンカーネイトリンカーネイト  作者: にがつのふつか
第五章 『ワールドエンドプレイヤーズ』
186/237

『氷使い。』


※不定期に更新しています!




(やはり俺はさっさと帰るべきだった)


ディーヴィエイテッドは後悔していた。

自分の直感に正直になるべきだったと。


「あのさ、そんな露骨に厭そうな顔をしないでよ」


スイのそれはディーヴィエイテッドの心情など、

まるで察する様子も無い軽い口調だった。


「君は魔族だ。

わたし達よりも魔力の扱いには長けているんでしょ?

何か秘訣があるなら教えて欲しい」


「魔族だからだ」


「どういう事?」


「俺は別に二段階に変身しない。

このままの姿が本性だが、

人間に似ている姿をしているだけで、

お前達とは違う生物だ。

体内の器官にはお前達が持ち合わせない、

特殊な構造をしている臓器もある。

魔力に長けた生物特有の、

循環や発散を効率的に制御する高性能のものがな」


「だから人間には無理だって事?」


「まあ、平たく云えばそうだ。

だが、研鑽し続ければ叶わない問題でも無い。励め」


「なんだ。期待しちゃって損したな」


「すごい言い種だな。

……まあ、助言と云う程では無いが、

俺が感じた傾向と対策は有る」


「どんな事?」


「魔力の総量を増やす事と契約の見直しだな」


「研鑽。具体的には?」


「成長に伴って、

放っておいてもまだ多少は増えるだろう」


「わたしは子供じゃないんだけど」


「最後まで聞け。それは判っている。

俺が言いたいのは身体では無く才覚の話だ。

鍛えるつもりなら、

魔力の全放出と、

ゼロになった魔力の再蓄積の繰り返しだ。

限界を一度越えれば解る様になる事はある」


「教科書通りって感じだね」


「教えてやったのに何故残念そうなんだ。

手っ取り早い方法を選ぶなら、

魔力量を底上げする魔法具(マジックアイテム)を使う事だな」


「そういう道具って希少価値が高いんでしょ?」


「国王にでも買ってもらえ」


「あとさ、契約の見直しっていうのは?」


「言葉の通りだ。マオライ以外にも、

何体か強い精霊と契約をしているな?

お前の性質か知らんが、

魔法を使う時以外にも、

精霊との接続を切る事が出来ないのだろう?」


「よくわかったね」


「魔力量を増やせとは言ったが、

お前の魔力量は少なくない。むしろ多い。

だが足りてない。

ならば多くの精霊との契約を続けない事だ。

魔力の制御が上達したところで、

接続が切れないのなら焼け石に水だ。

マオライと契約を交わせる程なんだ。

お前は選択肢を絞った方が強い」


「契約を破棄」


「魔族の意見だがな」


「現実的ではあるのかな」


「どちらを選ぶかは、お前の自由だ。

個人的に言わせてもらえば、

魔力を抑えて、チマチマと魔法を使うストレスよりも、

解放された力で戦う方を選ぶ。俺ならな」


「ふむ」


「魔法の本質は自由だ。

縛り付けられる事なんて少ない方が良い」


「はは。君とは話が合いそう。

うん、わかったよ。

ありがとう。まだ決める事は出来ないかもだけど、

参考にさせてもらう」


「そうか」


ディーヴィエイテッドは、

少しだけ微笑んだ様な表情を浮かべるスイを見て、

自分はこんなにも人間と会話をした事は無かったなと、

そうやって思い出せる限りの記憶はまるで、

何も言わず通り過ぎて行くようだった。


(我ながら、いらん節介だったな)


そんな時に、

二人の会話をそれまで黙って聞いていたイツカが、

ディーヴィエイテッドに指先を突き出し、

問い詰める様に、

いつもの調子で、

歯切れ良く咆哮した。


「何を言ってるのかチンプンカンプンだ!!」


「何故だ? 今よりも解り易い説明は出来ん」


「フッ………! 

魔族の妄言なんかにイツカは踊らされないのだ!!」


「魔族に何か恨みでも有るようだが、

関係の無い俺を巻き込むな」


「スイ!!

魔族と仲良くしたらいけないのだ!!」


「イツカ。人の話はちゃんと聞かなくちゃダメだよ。

彼は敵意なんか無かったでしょ?」


「いーや!! アメビックスだって、

最初はそうだったに違いないのだ!!

魔族は狡くて卑怯なのだ!!」


「アメビックス? おい娘。

お前、アメビックスを知ってるのか?」


「フッ………! 知ってるも何も、

この正義の使者イツカが倒してやったのだ!!」


「お前が? 人間が単体で魔族を?

あの陰湿で小賢しいアメビックスを?

くくくッ。傑作だな」


「何がおかしいのだ!?」


「すまんな。

あの気取り屋が人間に敗れるサマは、

さぞかし見物だっただろうと思ってな」


「やっぱり仲間だったのか!?」


「そこまでの繋がりは無い。顔見知り程度だ。

それに俺はアイツの事は好かん。

無作為に人間に干渉していらん事ばかりする」


「アイツはラロカ(南方の国)の皆を苦しめていた!」


「ふん。

大方、ロクでもない事でも企んでいたんだろう」


わたし(スイ)達は、

その魔族が人体実験をしていたって聞いたよ」


「悪趣味極まりない。それに知らんのか?

アイツは転移魔法の研究をずっとしている。

異世界へ送る人体実験(モルモット)に、

ラロカの人間を使っていたんだろう」


「異世界へ行く転移魔法。

アメビックスはそれが使えるの?」


「執着するヤツだ。使えたとしても不思議では無いな。

俺でさえ考えれば疑問に思う。

禁呪ではあるが異世界の人間を、

こちらの世界に召喚する魔法の詳細は解明している。

それなのに、

こちらから向こうへ行く方法は、

まるで記録を塗り潰された様に不明とされている。

構築する術式が異なるのか、

応用を利かせたくらいでは発動せんらしい」


「でも、実は既にそれが可能とされている」


「俺も付き合いが有るわけでは無いからな。

詳しくは知らん」


「すごく興味深い」


「興味。異世界にか?」


「うん。わたしのお母さんが異世界から来た人だから」


「ちなみにイツカも日本から来たんだな!!」


「何だ、お前達二人とも転移者か。

通りで魔力が高い筈だ。

転移者特有の天恵者(チート)か」


「ううん。イツカはチートだし転移者だけど、

わたしは違う」


「母親だけが転移者なのか?」


「うん。コトハって名前なんだけど知ってる?」


「……中央諸国でその名前を知らんヤツがいるのか?」


「そんなに有名なんだ」


「中央の魔女は、

一人で魔族を何人も葬った人間の魔法使いだぞ」


「その呼び名は好きじゃない」


「俺は面識が無い。

通称で呼ぶのも然程おかしな事では無いだろう。

癇に障ったのなら謝るが」


「わたしは魔族と会話したのは初めてだけど、

君は少し変わっているね。良い意味で」


「お前もだ。スイ。

人間にしては面白い」


なんとなく、

場が和やかな雰囲気で築かれようとしているのは、

ディーヴィエイテッドの配慮だったのかも知れない。


それに因って訪れた緩和は、

誰にも気づかれない様にして、

彼の背後に忍び寄る悪意がある事を、

ほんの一瞬だが、

察知させる事を遅らせた。 


憎悪と悪意で研がれた様な、

禍々しく鋭い氷の剣を具現化させた氷撃魔法が、

ディーヴィエイテッドの背中から腹部までを、

あっという間に貫通させ、

凄まじい血飛沫を噴き出させた後に、

彼は口から塊の様な量の血を吐いた。


ディーヴィエイテッドに魔法が着弾する寸前に、

彼に攻撃を仕掛けた相手に向けて、

スイは雷の攻撃魔法を放っていたが、

彼女の感知速度よりも、

相手の方が僅かにだが迅かった。


「ディーヴィエイテッド!!」


スイは出来る限りの大きな声を放って、

返事代わりに片手を上げた彼の意識が、

未だ有る事を確認すると、

次の攻撃魔法の詠唱を直ぐに始めた。


スイの詠唱を合図にクアイが防壁魔法を発動させて、

ディーヴィエイテッドの身体を護り、

シャオはスイの攻撃魔法に追随する様に、

拳を振り上げながら跳躍して駆けた。


鮮やかで見事な連携だった。

しかし、

その一連の流れは既に読まれていたかのように、

スイの攻撃魔法は相手に当たらず、

シャオの脚を凍てついた氷が、

蜘蛛の巣の様に絡め捕り、

彼女の動きを完全に停めてしまっていた。


───ャギンッッッ!!!


シンヒが魔力を具現化させた武器()を、

敵に向けるのと同時に、

クジンも魔力を込めた指先で、

その相手の首先を捉えていた。


「……何のつもりだ。説明してもらおうか?」


クジンは、自分とシンヒに挟まれる形で、

隣に控えていたイェンに向かってそう言った。


「馬鹿だねぇ。とは思ってたけど、

状況読めなくなっちまったのかねぇ?

この人らを敵に回して、

此処からどうやって切り抜けるつもりなのか、

出来るもんなら教えて欲しいねぇ」


シンヒが銃をイェンの()()()()に突きつけると、

指で引鉄に触れて見せた。


「皆さん。ごめんなさいねぇ。

ササッと始末しますんで、

どうか堪忍してくださいな。

ただ、

この馬鹿の言い分を一応聴いておいてからでも、

宜しいでしょうかねぇ?

もし気に入らなければ、

すぐにでもブチ殺して差し上げますがねぇ」


シンヒがおどけた様にそうやって言う姿は、

いつもの調子に見えたが、

イェンの行動は剰りにも突飛だった。


誰もが、

イェンの気が触れてしまって、

おかしくなってしまったのだと、

考えずにはいられなかった。


状況は一変した。


それは止める間も暇も無く、

とんでもなく悪い方向へと、

勝手に向かって行こうとしている様に思えた。


「シンヒさん。この距離からでは、

貴女の魔法じゃ僕を殺すのは無理です。

それは中~長距離に特化した射撃魔法ですから、

こんなにも至近距離じゃ、

余程集中しないと魔力が分散しちゃうでしょう。

脅しのつもりで距離を詰めたんでしょうけど、

僕が貴女の魔法の特性を知らないとでも?

僕が一体何年、

貴女達の使い走りをやってると思ってるんですか?

今、貴女は冷静を保っている様にも見えますけど、

内心、どうやって立ち振る舞うべきが最善なのかを、

ずっと頭の中で探り続けている。

お世辞にも集中力が欠けていないとは、

僕には思えません。

一撃で殺れないとなると、

死ぬのは貴女の方です」


「イェン。黙れ。

シンヒがしくじっても俺が殺す」


「頭に血が昇りやすいクジンさんが、

未だ仕掛けて来ないのは想定外でした。

イツカさん(魔書使い)との戦闘で、

だいぶ学習したみたいですね」


「そんなに死にたかったか」


「待ちなクジン! どう考えても罠さね。

イェン、あんた一体、何を企んでたんだろうねぇ?」


「まあ、それを教える義務は僕には無いですね」


「じゃあ、あんたはあたしたらの敵だって事だねぇ?」


「遅かれ早かれですね」


「こんな大それた事をやるからにゃ、

何か算段が有るんだろうねぇ?」


「さあ。どうでしょう。

それを確かめたいなら僕を撃てば良いかと」


「見え透いた挑発はやめな」


「下らない問答ですね。

見え透いた時間稼ぎは、

止めておいた方が良いと思いますよ」


「本当にあたしらじゃ、あんたを殺れないとでも?」


「そうですね。残念ながら」


「そうかい!」


シンヒは引鉄を引き、

躊躇無く射撃魔法を放とうとした。


イェンの言う通り、

この距離では威力は充分では無いかも知れない。

シンヒはそう思ったが、

クジンと挟み撃ちにしている上に、

手練れが揃ったこの状況で、

イェンが助かる道は無いと考えた。


──兎に角、

裏切ったと捉えられないように、

イェンは此処で始末しなければならない。

罠だと判っていてもだ。

同盟とは云っても、

出自の怪しい自分とクジンは、

切っ掛けさえ有れば切り捨てられてもおかしくは無い。

しかし、

戦力不足を問題にしているくらいだから、

そんなに事は簡単に進まないだろうが、

今後の事も含めて、今出来る最良の行動はコレだ。


シンヒは自分に言い聞かせる様に、

頭の中で同じ言葉を繰り返し、

クジンに目で合図を送った。


しかし、

魔法は発動せずに、

イェンの身体から突き出た何本もの巨大な氷柱に、

クジンとシンヒは全身を貫かれ、

血を噴き出しながら、その場に崩れ落ちていった。


引鉄に掛けられた指は、

幾重にも張られた分厚い氷で凍てつき、

シンヒの持った武器の銃口も、

同じ様に氷で塞がれてしまっていた。


───『極凍呪詛(アンカーブド)


邪悪なまでに凍てついた冷気が、

イェンの周囲全てに放たれ、

イファル城の謁見の間を瞬く間に凍りつかせた。


「魔力の制御。

そこの間抜け(ディーヴィエイテッド)は、

偉そうに講釈を垂れていましたが、

微細な魔力を練って慎重に張り巡らせていた事に、

気づけなかったみたいですね。

塵も積もれば何とやらで、

制御の方法と云うのは、

こういうやり方も有るんです」


◆◆

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