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リンカーネイトリンカーネイトリンカーネイト  作者: にがつのふつか
第五章 『ワールドエンドプレイヤーズ』
185/237

『凸凹凸。』

※不定期更新中です!




この少女(スイ)は単なる命知らずや、

頭の足りない様な人物では無いのだろうと、

ディーヴィエイテッドは考えた。


礼儀は無いに等しいが、

彼女の聡明そうな立ち振舞いや、

一切の曇り無い美しい表情が、

妙な説得力を帯びながら、

彼にそう思わせた。


あんな規格外のヤツ(マオライ)と、

子供の時から一緒だからだろうな」


「どういう意味?」


スイは表情を崩さずに首を少しだけ傾げて、

ディーヴィエイテッドに訊ねた。


「言葉の額面通りだ。

頭のネジが飛んでるヤツと云う意味だ」


「馬鹿にしてるのかな?」


少女はその鋭い目付きで、

自分の瞳をジッと覗き込んで来た。


「はははッ! そういう意味では無い」


───興味が湧いてきた。


ディーヴィエイテッドは素直にそう感じた。

おそらくマオライの影響と思われるが、

スイの話す言葉の端々には、

僅かにだが確かに魔力が込められている。


それは他者に干渉を加える類いの魔法であり、

やろうと思えば、

容易く精神や肉体を支配する事も出来るのだろう。


しかし、スイにはその意思は無い。

精霊の魔力が勝手に溢れ出しているだけなのだと、

ディーヴィエイテッドは推測した。


「魔力の制御は難しいか?」


「うん。とても難しい。

わたしが下手だから」


「それではいざという時に困るだろう。

魔力不足を気にして全力では戦えない筈だ」


「そうだね。常にお腹も空くし」


「その消費の具合では、

尋常では無い量の食事が必要だろう?」


「君の言う通り。わたしは物凄く大食いだよ。

自分でも恥ずかしくなるくらいに」


「勿体無い。

明確な無駄遣いだ。

魔力の消費を補うモノを何か用意出来んのか?」


「一体何をどうすれば良いのかが解らないんだ」


「おい。ラオ(イファル王)

お前は、この娘の状況を知っているのか?」


「……そりゃ知らない訳が無いだろ」


「と云うことは、ポーション(回復薬)や、

魔法具(マジックアイテム)の類いでは、

どうにもならんのだろうな」


「何故判るんだい?」


お前(ラオ)が気づいていて尚、

状況が改善せんのなら、

当然そう思うだろう。

この国にはモノなど掃いて棄てる程に溢れている」


「そんな事も無いけどさ……」


(スイ)

お前は基本的に、

魔力を抑えていると云う解釈で良いんだな?」


「そんなに格好良いものかは分からないけど、

魔力が余計に漏れていってしまわない様にはしてるよ」


「ふむ」


ディーヴィエイテッドはそう言って頷くと、

特に何か口にする事も無く、

しばらくの間黙り込んでしまった。


◆◆


「ちょちょちょ!? スイ! 無茶すんなよーー!」


ユンタがそう言って、

スイの上着の袖を引っ張って自分の方に引き寄せた。


その様子と表情は、

完全に動転してしまい困惑した様子だった。


「え?何が?」


スイはきょとんとした表情で、

不思議そうにユンタに訊き返した。


「何がってーー……。 コイツ(ディーヴィエイテッド)

見りゃ判んでしょーー!?

マジでヤバいヤツだから!

もう下手に喋んない方が良いって!」


「そうかな?確かに怖いくらいに強さを感じるけど、

とても冷静じゃなかったかな?

それに、戦う気は無さそうだよ?」


「バカバカバカ!? 相手は魔族だよ!?

急に気が変わるかも知んないじゃん!?」


「そんなの、わたし達だって一緒じゃない?」


「あーー! もーー!!」


ユンタはいつもの調子のつもりだったが、

身体はまるで言うことを聞かずに震えている。


スイとディーヴィエイテッドが会話をしている間中、

全身の毛は逆立つ様にして危険を知らせ、

スイを護る為に、

二人の間に割って入らなければならないと、

考えていたのに、

恐怖で身体を動かす事が一切出来なかった。


当然、クアイとシャオも同じだった筈だ。


いつもならば、

何よりもスイを優先させるべきだと考えていたのに、

事実は、深い陰を落とす様に暗い後悔を残す、

とても口惜しいものだった。


(クソッッッ!! ビビんなウチ(ユンタ)!!

スイを護んなきゃ!!)


ユンタはスイの手を取って、

自分の身体で庇う様な体勢で、

震えながらも、

ディーヴィエイテッドの前に立ちはだかった。


ユンタのその行動から間を置かずに、

クアイとシャオも同じく、

呪縛を解かれた様にして、

ようやくその場から離れ、

スイのもとへと駆け寄る事が出来た。


「スイ……! すみません……!!

(シャオ)とした事がとんだ不覚を……!!

貴女を護ると言い続けているのに……!!

不甲斐無い私をどうか許してください……!!」


シャオとクアイの眼からは、

絶え間無く大粒の涙が溢れ出し、

親娘揃って声を震わせていた。


「いや……。大袈裟だよシャオ。

クアイおじさんも。

この人(ディーヴィエイテッド)は恐ろしい人だけど、

悪人じゃ無さそうだよ?」


「呑気な事をーー!!」


「悪人では無いにしてもです!

私達も会話を聞いていれば、

そのくらいの事は判っています!!

だけど……、

どうしてでしょう、

眼を離した隙に、あっという間に、

スイに二度と逢えなくなってしまうんじゃないかと、

そればかりが頭を過るんです!!」


「スイちゃん……。上位の魔族と云う存在を、

(クアイ)も目にしたのは初めてなんだよ。

君の言う通り、

敵意は無いのかも知れない。

だけど幾ら君が心を許したとしても、

余りに存在が異質過ぎるんだよ。

我々でどうにか出来る相手じゃない」


ディーヴィエイテッドは、

クアイとシャオの言葉を黙って聞いてはいたが、

その顔にはうんざりとした様な表情を浮かべていた。


◆◆


「涙ぐましいな。

だが俺を獣か何かと勘違いするな。

人の話をちゃんと聞け。

俺は面倒になる事を避ける為に此処に来た」


「つってもさーー」


ユンタは警戒を解けなかったが、

異様なまでの威圧感を除けば、

スイの言う通り、

ディーヴィエイテッドが悪人でない事は理解出来た。


「俺の魔力が大きく感じるのは単純に種族の差だ。

魔族とはそういう生き物だ。

仮に戦闘になったとして、

魔力の差だけで勝敗が全て決まる訳では無い。

物事はそんなに単純では無い」


ディーヴィエイテッドは本心からそう言っていた。

別に慰める訳でも、励ます訳でも無く、

彼はただ事実を述べていた。


「その通りなんだな!!」


緊張が緩みかける兆しを、

ズタズタに切り裂かんばかりに、

その声は、

ひたすらに大きかった。


◆◆◆


「イ……、イツカ……」


イツカが王宮は退屈だと言い出した為に、

ラオは小遣いをやるから、

城下町で遊んで来いと言っておいた。


クジン以上に、

対人の態度に問題が有るイツカが、

留守で良かったと安堵していたのが間違いだった。


彼女はいつも、

唐突に突然に事を起こすのだ。


「ん……? あーー!! 魔族だ!!

魔族がいるんだな!!!

皆!! 何してるんだ!?

敵襲なんだな!!!」


(やっちまった……。穏やかな雰囲気だったのに……)


尤もディーヴィエイテッドは、

手を貸すとは一言も言っていないのだが。


「何だ? また喧しいのが来たな。

小娘、安心しろ。

俺は今から帰るところだ」


「嘘つけ!! 

魔族がそうやって嘘を吐いて油断させる事なんて、

イツカにはお見通しなんだな!!」


「そうか。落ち着け。

お前が今までどんな魔族を見て来たのかは知らんが、

俺は違う。それにもう帰る」


「えー。ちょっと待ってよ、

(ディーヴィエイテッド)は、わたし(スイ)に、

何か助言でもしてくれるのかと思っていたのに」


「フッ……! 命乞いか……!

見苦しいぞ魔族!!」


「何故そうなる?」


「命乞いをするにしても、

わたしの用件を先に済ませて欲しい」


「いつ誰が命乞いをした?

それに、助言をするなんて言ってないだろう?」


「何て思わせ振りなヤツなんだ!!

やっぱり悪い魔族だ!! 敵だ!!」


「話を聞け」


一瞬にして、その場の空気は一変してしまっていた。

全てが杞憂だったのでは無いかと、

誰もが心の奥底で考えてしまう程に。


◆◆◆◆



♪シンガーズハイ『ノールス』


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