表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リンカーネイトリンカーネイトリンカーネイト  作者: にがつのふつか
第五章 『ワールドエンドプレイヤーズ』
184/237

『その少女。』


※不定期に更新しております!



「オレが気に喰わないのはな、

用件の有るヤツが直接出向いて来ないところだ」


ディーヴィエイテッドの言葉は刺々しく、

ストレートに要求を突きつけながらも、

しっかりと嫌味を込めた愚痴の様な口調だった。


「しかも、それに合わせて脅迫めいた交渉だ。

どう考えても、やり方が汚ない」


「そんなに怒るなよ。それに脅迫はしてない」


宥める様にラオが言った。


「お陰で森を出てくる羽目になった。厄介だ」


「乗り気じゃなかったって話だけど、

わざわざ来てくれたって事は了承してくれたんだろ?」


森へ送った使者達が、

都へ戻って来てから、

殆ど間を空けずに彼は王宮に姿を現した。


「一体何故そうなるんだ?

オレはお前に抗議しに来ただけだ」


「それにしちゃ随分綺麗な服装(ナリ)だ」


「魔族が汚れた服を着ていたら、

剰りにも尤もらしく見えるだろうが」


「ま、そりゃ確かにそうだね」


ラオとディーヴィエイテッドのやり取りを、

周囲の面々は身体を強張らせながら見届けていた。


突然現れた上位の魔族。

それまでに各々が対峙した相手の中で、

頭一つ抜きん出た実力者である事は、

ディーヴィエイテッドが冷静を取り繕い、

魔力を抑えているにしても、

それは明白な事実だった。


普段は傍若無人な態度を取るクジンでさえ、

ディーヴィエイテッドの挙動を見るたびに、

冷や汗が身体から噴き出て止まなかった。


ディーヴィエイテッドが、

もし何かの拍子に敵意を向けて、

こちらに攻撃を仕掛けてくれば、

この場に居る者達は瞬きをする暇も無く、

あっという間に殺されてしまうだろう。


古から存在する神や精霊と同格、

或いはそれ以上に強い魔力を持つ、

上位魔族と云う存在。


数多の魔物や魔獣を束ねる者や、

天災と見紛う様な、

破壊的な威力を誇る魔法を操る者も少なくない。


その規格外の実力は、

魔法使いであれば、

誰しもが畏怖の念を抱かずにはいられない筈だと、

その場に居る全員が考えていた。


ただ一人、

()()()()()()


ディーヴィエイテッドが現れた瞬間には、

流石に少しだけ驚いた様子だったが、

スイの興味は直ぐに、

産まれて初めて目にした上位魔族の姿と、

彼の扱う魔法へと移り変わっていた。


彼は招かれた客人の様に、

とても静かに王宮に現れた。

派手な魔力の放出をせず、

感知をさせる暇も与えずに。


ディーヴィエイテッドは上機嫌ではなかったが、

それでも好戦的な様子ではなく、

口は悪いが言葉を選んでいる雰囲気はあった。


その様子が余計に、

彼の持つ圧倒的な魔力に裏付けされた、

強烈に張り詰めた緊張感を、

周囲に与えずにはいられない事に、

彼自身は深く考えてはいなかったが。


無論、

スイもディーヴィエイテッドの魔力に圧倒され、

ひりついた感触が身体に突き刺さる様に感じていたが、

どことなくディーヴィエイテッドには、

親しみ易い雰囲気が有る様にも思えていた。


しかし、

思っている事は口にせずに、

その場ではただ黙っていた。


ラオがスイの様子を察して、

「相手は上位魔族だ。迂闊に刺激しないように」と、

彼女に釘を刺す様にして注意を促していたからだ。


感情の起伏に乏しい彼女の普段の表情から、

初対面のディーヴィエイテッドには、

スイの心情を読み取る事は出来なかった。


「それに、まさかとは思うが、

此処に居るのが主戦力だとは言わないだろうな?」


「よく見てみろよ?最高だろう?」


「俺は森の外へ随分出ていないし、

詳しい状況はわからんが俺が知っている頃に比べて、

聖域教会の軍勢は、

増える事はあっても減る事は無いだろう?」


「まあ、そうだね」


「そうか。

ならば俺が加勢したところで勝ち目は無いな」


「やっぱり君でもそう思う?」


「数の暴力の前では、

個人の強さは問題では無い。

どう考えても頭数が足らん」


「ごもっともだね」


「此処に居る連中も弱くは無い。

各々、名の通った実力者だろう。

だが、俺とまともに戦えるヤツは少ない。

魔法の戦いで、大体の場合魔族は人間を圧倒する。

それなのに魔族が何故、

世界の覇権を掌握していないと思う?」


「喧嘩をする相手を見極めろって事か」


「そうだ。今からでも遅く無いかは知らんが、

無駄な争いはしない方が賢明だろうな」


「そんな事、僕が理解出来ないとでも?」


「理解出来ても実践出来るかは別だ。

とにかく、俺は手は貸さん」


「うーん……」


「この話は終わりだな。

もう森へ人間を寄越すな。俺もそこそこ忙しい」


「単純に疑問なんだけどさ、

森で一体何してんの?」


「くだらん世間話ならせん」


「まあ、いいじゃん。教えてよ」


「誰も立ち入らん手入れされてない森だ。

快適に過ごそうと思えば仕事は幾らでもある」


◆◆


ラオは少しでも自分を引き留めて、

話を好転させる為の何かを産み出す為に、

思考を張り巡らせているのだろう。


ディーヴィエイテッドはそう考えて、

溜め息を吐いた。


(煩わしい。面倒事を避けているつもりだったが、

俺は既に巻き込まれている気がする)


やはり、

有無を言わさずにさっさと退散する事にしようと、

そう思ったが、

どうしても気になる事が一つ浮かんできていた。


それを確認してからでも遅くはないか、

とディーヴィエイテッドは考えた。


「俺も聞きたい事がある。

言葉の精霊(マオライ)と契約をしているのは、

この中の誰かか?」


「わたしだよ」


ディーヴィエイテッドの問いに、

スイが即座に返答し、

ディーヴィエイテッドは彼女の方に身体を向けた。


(俺には人間の年齢は外見でわからんが、

どう見てもまだ子供にしか見えん)


とは云え、

スイが高い魔力を持っている事は判っていた。

それに他の面々に比べて、

緊張している様子も薄く、

かなりの手練れなのだろうと推測出来た。


「どうやってヤツと契約した?」


「わからない。子供の時から一緒に居たから」


「嘘を言っていないのは判る。

だが、精霊術師と精霊と云うものは契約によって、

関係性を結びつけられるものだ。

たとえマオライがどんなに変わり者だとしても、

それが揺らぐ事は無い」


「君はマオライと友達なの?」


「かなり広い定義で言えば、そうかも知れん」


「長生きをしてるんだね」


「そうだ。お前よりも随分な。

それより質問の答えを教えて欲しいんだが」


「答えも何も、わたしが言った事が全部だよ。

気づいたら一緒に居た。それだけだよ」


「お前も精霊使いなら、

ヤツの存在の異質さには気づいているだろう?」


「他の精霊に比べて、よく喋るところとか?」


「まあ、それも含めてだ。

不滅に近い精霊と云えど、万能では無い。

人語を介す精霊は多くは無い。

それも精霊魔法のスキルを持っていない者にも、

声を届けられるヤツなんて俺はマオライ以外に知らん」


「そうなんだ。マオライって凄いんだね」


「そうなんだって。反応が薄いな?」


「だって子供の時から一緒なんだよ?

今更そんな事言われてもよく分からないよ」


「……まあいい。アイツが気に入る様な術師だ。

お前は相当に精霊魔法のスキルに長けているようだな」


「ありがとう。でも、

どうしてわざわざそんな事を訊くんだろう?」


「ただの興味本位だ。

アイツを使役する術師を生きているうちに、

また拝めるとは思わなかったからな」


「使役。

どうも、そういう言い方は好きになれないよ。

それにマオライの事を知ってるなら、

彼の性格は分かるでしょ?

わたしとマオライはそんな関係にはならないと思う」


「精霊魔法の術式の形式の話だ。

アイツは人間の(しもべ)になるようなタマではない」


「それに、わたしにはそんな趣味は無い」


───随分と軽い口を叩くものだ。


ディーヴィエイテッドはそう思いながら、

自分よりも遥かに小柄なスイを、

頭上から見下ろしていた。


◆◆◆


♪百鬼あやめ『かわ余』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ