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リンカーネイトリンカーネイトリンカーネイト  作者: にがつのふつか
第五章 『ワールドエンドプレイヤーズ』
183/237

『その精霊は語る。』

※不定期に更新しています!



魔法剣、魔法書、或いは魔法の絨毯などの中には、

意思を持つものが存在する事は広く知られているが、

それでも、

こんなにも流暢に喋り出す事があるとは、

その場に居る人間達は、

誰一人として思ってもみなかった。


「喋り過ぎだ……」


ソンウは手にした魔法具の剰りに軽快な口調に驚き、

素朴な疑問が思わず飛び出してきてしまった。


それと同時に余計な事を言ってしまった、

とも思っていた。

この喋る存在は、

自分の関わってはいけない何かなのでは無いかと、

ソンウは多大に警戒せずには居られなかった。


未知は確かな恐怖でしかなかったのだ。


「『何だと?

それが(やつがれ)に対する意見か助言にしては、

些か言葉足らずであると云えるし、

僕としては君の言う喋り過ぎ、

それが果たしてどこまでなら、

喋り過ぎる事が無かったのかと云うところを、

明確にして欲しいとも思えるのだ』」


(だ……、駄目だ……。

駄目なヤツだコレは……。

魔族も恐ろしいがコッチのは本当に駄目だ……。

触れてはいけなかったものなんじゃないか?

あの娘(スイ)、何てものを持たせてくれたんだ。

ひょっとしたら、

俺は今日にでも死んでしまうのではないだろうか?)


マオライの存在は、

ソンウの何か根幹的なものを揺さぶって、

彼に底知れない恐怖を与えてしまっていた。


「『君の発言は少しく無礼に感じてしまうのだ。

(やつがれ)は八千代の時を生きる精霊だ。

もう少し敬意を持って接してもらいたいのだ』」


「せ……、精霊?」


「『その通り。

まさかとは思うが、

この石ころが喋り出したと思っていたのか?』」


「あまりに突然の事で俺にはよくわからないよ」 


「『ふん。まあ良いのだ。

術師(スイ)(ルーファン)を離れられない。

その為に僕は、

君達を守護するように言われているのだ。

スイも言葉足らずなところがある。

説明を一言付け加えておいてやれば、

君がそんなに驚く事も、

或いは無かったかも知れないのだ』」 


(あの娘の使役する精霊……。

やっぱり恐ろしい魔法使いだった。

精霊使いはイファルにも何人も居る。

だけど、

俺は術師以外に口を利く精霊なんて聞いた事が無いぞ)


「案ずるな」


不安で仕方ないと云った表情を浮かべるソンウに、

そうやって声を掛けたのは、

意外にもディーヴィエイテッドだった。


「よく喋るヤツだが、

契約を結んだ術師の意向で此処へ来たんだ、

お前達に害を与えるつもりは無いだろう。

殊更に今日はよく喋るがな」


「この精霊と貴方は知り合いなのか?」


「顔見知りでも無ければ、

お前と同じくらいには驚いている」 


「『君達には聞こえないだけで、

精霊と云うのは概ねよく喋るものなのだ』」


「マオライ。護衛だと?

オレがこの人間達を殺すとでも思ったか?」


「『僕は君が無益な殺生を、

しない性質(タチ)だと認識しているのだ』」


「ならば何故、術師はお前を此処に送り込んだんだ?

大体、お前と契約出来る様な魔法使いが、

今の世に本当にいるのか?甚だ疑問だ」


「『スイかイファル王が直接来る事が出来れば、

本来はそうしていたのだ。

だが訳あって都を離れられられない。

この者達はあくまで代理の者なのだ。

君の様な強い魔族に出会せば畏縮してしまい、

本来の用向きを果たせない可能性があるのだ。

だから僕が中を取り持つ役目で此処へ来たのだ』」


「一体何が言いたいのか、

オレにはさっぱり分からない。

勅令だか何だか知らんが、

オレはこの森で静かに暮らしたい。

厄介事は御免だ」


「『そう云う訳にもいかないのだ。

僕の契約している術師を含むイファルの面々、

ひいては世界全体が、

在らぬ方向へと向かってしまわないように、

誰もが、今、正にこの瞬間も懸命に踠いている。

因みに、

ここで言う世界には勿論、

(ディーヴィエイテッド)も含まれているのだ。

()()()()()()()()()()については、

知らない訳では無いだろう?

知らないどころか、

深く抉り込む様にして、

君はそれに関わっていたものだと、

僕は認識しているし、

静観や或いは傍観を決め込むには、

君の立ち位置と云うものは、

剰りに重要なものだと周囲には思われているのだ』」


「くだらん」


ディーヴィエイテッドは吐き捨てる様に言った。


本当に退屈そうに。


「勝手にオレの立ち位置を決めつけるな。

それに要点を述べろ。

お前の口上癖はもはや病気だ」


「『君はせっかちだな。

僕なんかは久し振りに他人と話す喜びを、

こんなにも享受していると云うのに。

結論を急ぐ様なら、

イファルの(ルーファン)へ赴くと良いと思うのだ。

この者達(人間)と一緒に』」


「ふざけるな。

何故オレが都へ行かねばいけないんだ」


「『結論を急ぐのだろう?

どうも僕の話は長くなってしまうからなのだ』」


ディーヴィエイテッドは呆れた顔をして、

整えたばかりの髪を忌々しそうにガリガリと掻いた。


「『どうするかは君の自由だとは思うのだ。

ただ、

大き過ぎる問題に、

君の愛して止まないこの森の底が、

呑み込まれてしまっては、

平穏もへったくれも無いと僕は思うのだ』」


「まさかとは思うがな、

この森を脅かすような事を、

わざと企んでいるのではないだろうな?」


「『それは流石に非人道的であると思うのだ。

君一人を動かすのに、

この森をどうこうする事はないだろう。

森に暮らすのは君だけではない。

僕は可能性の話をしているのだ』」


「どちらにしても面倒だ」


「『君ともあろう者が、

住み処を追われてしまう光景などは、

さぞや滑稽なものに映ると思うのだ。

それも、

君の嫌悪する厄介事に巻き込まれてだと尚更だ』」


「馬鹿らしい。こんな辺境の森、

オレ以外に一体誰が欲しがると云うんだ?」


「『過去に世界は、

その面積の半分を焼かれてしまったのだ。

争いの炎と云うものは、

焼く場所なんて選んではいない』」


「いい迷惑だ。

結局また人間同士の問題だろう?

女神を取り合って世界を荒廃させて、

また似たような状況を作り出している。

オレから言わせれば欲張り過ぎだ。

他者の物を奪って幸福を得たとして、

それが一体何になる?」


「『君は魔族にしては……、失敬。

魔族の中で、

僕が知る限り他に類を見ない優れた人格者だ』」


「いいかマオライ?

オレは()()()()()()そうやって生きてきた。

これから先もそうするつもりだ。

手は貸さんが、

火の粉を振り払うくらいの事はする。

とっとと帰ってラオにそう伝えろ」


精霊と魔族の交渉は、

誰がどう見ても難航している。


「『そうか。

それなら正直なところ僕は君を愚かだと思うが、

君がそうしたいならそうすれば良いと、

僕は思うのだ』」


「挑発なら乗らんぞ」


「『せっかちな君に合わせて、

率直に感想を言っただけなのだ』」


「好きに思え。じゃあな」


ディーヴィエイテッドはそう言い残すと、

その次の瞬間には森の奥へと姿を消してしまっていた。


「……失敗した、決裂しちまった」


「『それは間違っている。

それに、その言い方では責任を問われる』」


「でも帰っちまったんだぞ?」


「『彼は何が有ろうとこの森から出て行かない。

それが解っただけと云う事なのだ』」


(ソンウ)には屁理屈にしか聞こえないけどな」


「『しかし事実だ。

彼には、

協力を申し出ると云う手段では駄目だったのだ』」


「それ以外に何をどうするって云うんだよ?

脅しが利くような相手じゃないだろう?」


「『当たり前なのだ』」


「はぁ……。とりあえず都に戻るか……」


「『不安そうに見えるが、案ずる事は無いのだ。

()()()()()()()()()()

それだけで充分なのだ』」


「どういう意味だ?」


「『ディーヴィエイテッドは頭の切れる魔族だ。

ここから先どうすべきなのかは、

彼に任せておけば大丈夫なのだ。

僕と彼の間柄を僕は言っていないので、

スイが知っていたとは思えないが、

僕は只の用心棒のつもりではないのだ。

メッセンジャーとしての役割は果たしたのだ。

用件は済んだ。帰るのだ』」


「……一体何がなんだか俺にはサッパリだ」


「『時に物事と云うものは、

誰にも知り得ない形で静かに動き出す事もあるのだ』」


締めくくる様な言い方で、

精霊はそう言った後も、

(ルーファン)への帰路の最中の間、

とにかく喋り続けた。


先程に比べれば他愛の無い世間話の様な会話を、

心底草臥れた表情のソンウは、

部隊を引き連れながら、

適当に相槌を打ってやり過ごすしかなかった。


◆◆


♪『フォニィ』

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