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リンカーネイトリンカーネイトリンカーネイト  作者: にがつのふつか
第五章 『ワールドエンドプレイヤーズ』
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『ディーヴィエイテッド。』



国王(ラオ)の勅命を受けて、

急遽編成された護衛部隊を率いているのは、

クアイ将軍の直属の騎士団に所属する、

ソンウと云う若い男だった。


イファル王家の紋章入りの、

プレートメイルを装備した背の高い(ソンウ)は、

深い森での行動に慣れていない、

急拵えの護衛部隊の後方を心配する様に、

森に入ってからの何時間かの間に幾度も振り返っては、

進軍の様子を不安そうに確認していた。


「探知班!

目的地までの進行方向に間違いは無いか!?」


彼は自分自身を鼓舞する様に、

そうやって大きな声を出して訊いた。


「間違いありません!」


探知役の魔法兵が、同じ様に大きな声で返事をした。


ソンウは片手を上げて合図を送ると、

そのまま前進する様に部隊に声を掛けた。


(参ったな。

損な役回りを引き受けちまった。

分かるよ。

今、都が緊張状態にあることは。

だから人手を割けないってのも重々承知だ。

だけど、

最低限の人員、それも新兵が多い。

幾らこの辺りに危険な魔物が居ないからって。

そもそも森の底に向かってる俺達が、

今から会いに行くのは魔族なんだろ?

これじゃあんまりだ。

大体あの探知役の奴、

先刻から間違いありませんとしか言わないけど、

本当に合ってるのか?

もう何時間も森の中を進んでるんだぞ?

俺は帰り道なんて、

()うに分からなくなってるぞ)


ソンウは汗を拭いながら、

心の中で()()()()()()()

肌寒い季節に近づいては来たが、

今日はやたらと日射しが厳しいなと彼は思っていた。


(クアイ様に呼び出された時に、

嫌な予感がしてたんだ。

俺はあの方の事は尊敬しているが、

無理なものは無理と断るべきだった)


そしてソンウは、

クアイの部屋で、

彼と喋っている時に、

彼の隣に居たシャオの姿を思い浮かべた。


(……シャオ様の前で見栄を張っちまったんだ。

いつ御会いしたって美しい方だ……。

別に褒美が特別に出る訳でも無いが、

俺は浮かれていた。

そんなつもりじゃ無いだろうけど、

シャオ様を連れて来るなんて、

クアイ将軍も人が悪い。

断れる訳無いじゃないか)


あの美しいシャオに微笑みかけられて、

喜ばない男なんてこの世に存在する訳が無い。


「ソンウ殿。御武運を祈ります」


妖精の様な可憐な姿は、

発光している様にも見える神々しさがあった。


(俺なんかの名前を知ってくれていた)


ソンウはそんな事を考えながら、

辛い行軍に因り、

薄暗くなっていく気持ちを、

何とか奮い起たせていた。


◆◆


「隊長。一旦、休憩を挟んだ方が……」


ちょうど休む事の出来そうな、

小さな水場の近くを通りかかった時、

副隊長の男に声を掛けられて、

ソンウは慌てて正気に戻り、

部隊に向かって号令を出した。


「まったく無茶な命令ですよね。

幾ら人手不足って云ったって」


副隊長の男が()()()()()


「そんな事言うもんじゃない。

勅命だぞ?騎士にとっては名誉な事さ」


先程まで自分も全く同じ事を考えていたが、

部下の手前、ソンウは尤もらしい事で彼を諭した。


「そうは言っても相手は魔族ですよね?

俺達、本当に生きて帰れるんですかね?」


「魔物なんかとは違うんだ。

急に襲いかかって来る様な事は無いだろ。

それに騎士団を殺したなんて事になれば、

窮地に立たされる羽目になるのは解るだろう」


「隊長は魔族を見たことが?」


「いや、無いよ。

だけど、この森に住む魔族が悪さをした話なんて、

聞いた事あるか?

将軍も言っていたが、穏健派と云うか、

少し変わり者らしいんだ」


「穏健派と言いますと?」


「人間や魔族と関わるのが厭で、

こんな辺鄙な場所を、

根城に選んでいるらしいからな。

多分、俺達が思っているよりかは、

心の優しい奴なのかも知れないぞ?」


半ば自分に言い聞かせている様だなと、

ソンウは自分の言葉の意味を考えて思った。


「それにな。十年くらい前を思い出してみろよ?

イファルには、そう多くは居なかったが、

昔話に出てくる様な凶悪な魔族ってのは、

未だ世界のあちこちに居たもんだろ?

中央の魔女に大勢退治されてからは、

魔族の連中も数は減ってるし、

だいぶ大人しくなってるんだと思うぞ。

あの頃に比べりゃマシだろう」


「そうなんですかね?」


「じゃなけりゃ、

こんな即席の部隊で、

魔族のところに行かされる俺達が報われない」


「心の優しい魔族なんて本当に居るんですかね?」


「さあな。ヤバそうだったら、

さっさと都に逃げ帰るさ」


◆◆◆


ソンウと副隊長の男が会話をしている場所から、

ほんの少しだけ距離を置いて、

その魔族は静かに息を潜めていた。


今にも大きな溜め息を吐いてしまいそうなのを、

グッと堪えながら。


自分の思惑とは違い、

根城に向かって来ていたのは、

イファルの兵士達だったのだ。


(賞金稼ぎの冒険者の類いじゃなかった。

一体、何の用だ?

まさか、本当にオレを討伐しに来たのか?)


魔族はそう考えると、

少しだけ気持ちが苛立ってきた。


ここ数百年は大人しくしていたとは云え、

人間に害悪を与えた憶えが全く無いと言えば嘘になる。


森の底で暮らし、

外界との交流を絶っている自分には分からないが、

情勢の様なものが変動して、

魔族を駆逐する事になっていったのかも知れない。


それならそれでも、自分は構わないのだが。


しかし、

彼が苛立ってしまう要因があった。


魔力を消して潜んでいるとは云え、

話し声が聞こえてきそうな、

こんな近くにまで接近しても誰も気づいておらず、

探知役の魔法がザルである事は明らかだったし、

見たところ、

どう考えても寄せ集めの様な兵士が十数人居るだけで、

彼が軽く撫でてやった程度でも、

全員の息の根を、

すぐにでも停めてやれそうだった事だ。


侮られているのか、

彼はそう考えずにいられなかった。


人間達が、

一体どういうつもりなのかは分からないが、

自分の住む森に人間が入って荒れる事も不快に感じ、

このまま見過ごしてやるわけにはいかないと思い、

彼は人間達に声を掛ける事に決めた。


──危なくなれば、

逃げると言っていたが、

オレから逃げ切れると思っているのだろうか?

この人間達は、

魔族を見た事が無いのだろうか?


彼の脳裏には、

そんな懸念が過っていた。


◆◆◆◆


探知役の男は、

魔力を消しているとは云え、

上級の魔族が近接している事に全く気づいておらず、

呑気に煙草を吹かしていた。


男の魔法の精度は、

お粗末だったが真面目な人柄ではあった。


休息を取っているとは云え、

周囲に気を配り、

異変は無いか男なりに注視していたつもりだった。


だからこそ、

自分達が休憩を取っている水場の、

ほんの目と鼻の先の木々の茂みから、

潜んでいた魔族が姿を現すと、

男はこれ以上無いくらいの悲鳴を上げ、

剰りの悲鳴の五月蝿さに、

魔族が顔をしかめる仕草をしたのを見た時には、

生きた心地がまるでしなかったと後に語っている。


「怯えるな。オレからは何もしない。

無論、お前達次第だがな

この森に何の用だ?

用件の有る相手はオレか?」


魔族はゆっくりと、

(何せ彼は喋る事が久しぶりだった為)

相手がきちんと聞き取れる様に、

一つ一つの言葉を正確に、

注意を払いながら発音したつもりだった。


しかし、

彼は知らなかった。

その丁寧な発音が人間達に、

ディーヴィエイテッドを異質なものであると認識させ、

より恐怖に満ちた感情を芽生えさせている事を。


それだけではなく、

魔族由来の禍々しい魔力は、

今や抑えられる事なく発現されていて、

その場に居た部隊の全員が、

先程までの和やかな空気から打って代わり、

明確な死のイメージを抱かずにはいられなかった。


彼は生活の形態により記録こそ少ないが、

古文書に名前を残す、

強い魔力を持って天災級の魔法を操る、

人間達にとって畏怖すべき存在の、

上級に位置付けられた魔族なのだ。


「オレの名前はディーヴィエイテッド。

お前達の中の責任者はどいつだ?

オレはソイツと話をするつもりだ。

繰り返しになるが、

危害を与えるつもりは無い。

お前達が何もしなかったらの話だが」 


◆◆◆◆◆


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