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リンカーネイトリンカーネイトリンカーネイト  作者: にがつのふつか
第五章 『ワールドエンドプレイヤーズ』
180/237

『誰も立ち寄らない森で。』

※不定期に更新してます!


前話から場面が変わり、

投稿順の間違いのくだりがありましたので、

ん? と思うかもしれませんが、

本日更新分です!





平凡な生活を送る事を望む、

その()にとっては、

重大な変化をもたらす事になる、

とある日の午後。

彼は昼食を終えて少しばかり仮眠を取り、

そろそろ溜まってきていた雑務でも、

ゆっくりと片づけ始めようかと考えていた。


それは誰に頼まれた訳でも無いが、

長い時を生きる彼が、

なんとなく思いついて、

その後、習慣の様にずっと続けている作業の一部だ。


いつか誰かが、

自分の作業を引き継ぐ日が訪れるかも知れない。

彼はそう考えていて、

出来るだけ丁寧に、

事を片づけていく事を信条としていた。


彼の根城である深い洞窟の一室。

執務室として使っている部屋で、

未だ頭を軽く鈍らせて、

身体を痺れさせてゆく様な眠気を払う為に、

時間を掛けながら、

幾つもの書類の束の角をきちんと揃えて、

整頓している最中の事だった。


洞窟の外に、

幾つかの気配を感じた。


それは彼のよく知る辺りを徘徊する獣達や、

顔見知りの魔物の類いではなかった。


彼はとても素早く、

人数と正確な位置を探知し、

パーティーを組んだ一団だと思われる、

その気配が自分の根城に向かっていると想定した場合、

此処に辿り着くまでの、

()()()()の時間を割り出していた。


───やれやれ。


彼は突然の来客を、

心から面倒に思い、

手に持った書類の端をクリップで丁寧に留め終わると、

ゆっくりと立ち上がって、

クローゼットの在る部屋へと向かった。


大儀そうに、

脂の乗った髪を搔き、

調整でもする様に、

頭部に生えた二本の角を触った。


彼はこの森に古くから住む魔族だった。


イファルの王都から随分と離れた、

国境付近の深い森。


人間の暮らす街からの距離も充分に離れていて、

林業を生業とする連中もわざわざ立ち入らない。

『森の底』と呼ばれる区域、

彼にとっては比較的穏やかな環境で、

(それは彼がこの土地を根城に選んだ理由の一つだった)

凶悪な魔物が居る訳でも無く、

珍しい鉱石や薬草も今は採取され尽くした土地には、

魔族である彼が居城を構えている事以外は、

人間達が無闇に訪れて、

事を起こす必要の無い場所である筈だった。


事実、

ここ百年近く彼は自分の暮らす土地で、

人間達に出会した事など無かった。


──何の用だろうか?


自分が感知した存在が、

人間達である事は間違いなかった。


人間。


魔族といえど、

理由も無く討伐される云われは無いし、

イファルの王は自分の様な存在には寛大だった筈だが、

と彼は考えていた。


──面倒だ。


彼は大きな溜め息を吐くと、

作業着代わりに着ていた古い服を脱いだ後、

丁寧にシワを伸ばしてハンガーに掛け、

クローゼットの中から取り出した、

比較的綺麗な一張羅に袖を通すと、

何十年ぶりかに履いた新しい靴に、

汚れや染みが無いかくまなく点検して、

鏡の前で髪を整えた。


(何処か他所の国の冒険者が、

此処を嗅ぎ付けて、やって来たのかも知れない)


面倒だとは思いながら、

彼は身支度を調え終わると、

洞窟の外へ抜ける廊下を歩き出した。


わざわざ彼が小綺麗な服に着替えたのは、

魔族と云えば野蛮極まり無い、

半ば魔物や魔獣の様なモノであると、

決めつけている人間がいるからであり、

知性が無いと思われるのが癪だったからである。


しかし、

何人か昔の顔馴染み達が脳裏を過り、

その中にはとても残忍で、

自分以外の者を苦しめる事を、

至上の喜びだと考えている人物が居た事を思い出し、

そう思われたとしても仕方がないとは、

彼も諦めに近い形で納得はしていた。


(まあ、いくら同族のそういうところを嫌がったって、

オレだって同じ穴の狢だ。

人間からしたら代わり映えするわけが無い)


それでも彼は、

出来るだけ理知的に振る舞うつもりだった。


それは人間達に恐怖を与えない為ではなく、

自分の考え方と折り合いつける為の他ならなかった。


廊下を歩きながら、

色々と考えている最中に、

人間と久しぶりに接する事について、

彼は悪い予感を感じていたし、

その悪い予感は大体、

いつも当たる事を彼は知っていた。


軽く咳払いをして、

声を出そうとしたが、

喉に毛玉でも絡まった様に、

上手く発声する事が出来なかった。


何せ声を出した事など、

もう憶えていない程に昔の事だったのだ。


洞窟の入り口を抜けると、

思わず顔をしかめたくなる程に強い太陽の光が、

彼に向かって勢い良く降り注いだ。


魔族だからと云って、

光が苦手などと云う事は一切無いのだが。


ふと視線を感じて、

そちらを見ると、

彼の背丈の半分にも満たない、

小鬼(ゴブリン)が数匹、

不安そうな顔をして佇んでいるのが見えた。


彼の根城の近くに、

小規模な巣を構えているゴブリン達だ。


人間達の突然の襲来に怯え、

彼に助けを求めにやってきたようだった。


**、(心配いらないから、)****(巣に戻ってろ)


彼がゴブリン達にそう告げると、

未だ不安そうな顔のゴブリン達は、

何度も振り返りながら、

彼の忠告通り、自分達の巣へと帰って行った。


彼が農耕や、

栽培に関する知識を与えてやったゴブリン達は、

人里を狙う事も人間を襲う事もしない。


この森に人間が近寄る面倒事を避ける為に、

長い年月を掛けて彼はゴブリン達に、

そういった教育を施していた。


(よもや、

ゴブリン達を狙ってる訳じゃないだろうけどな。

情などは湧いた事は無いが、

それなりに時間を掛けて色々と教えてやった連中だ。

奴らがまた人間に狩られる様な事になるのは、

不愉快だし、面白くない)


彼はゴブリン達を見送った後に、

何度目か分からない大きな溜め息をもう一度吐くと、

真っ直ぐと自分の根城に向かって慎重に、

或いは無遠慮に、

(彼にはその違いは判らなかったが)

進んで来ようとする人間達の元へと向かった。


彼の足音が、深い森の底で、

様々な音に紛れている。


◆◆

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