『焦燥や翳りや事実云々。』
しまったーーー!!!
昨日の投稿、
一話飛ばして間違えて更新してる!
『情勢は緊張している。』
↓
『焦燥や翳りや事実云々。』
↓
『記載された禁忌。』
の順番の筈でした!
あいやー!
とりあえず今日も一話載せます!
◆
「いやいやいや……、
ちょっと待て待て待て……?」
ラオは血相を変えて、
思わず立ち上がって、
上ずった声をあげる程に取り乱していた。
一人で南方へ行く、
スイによる突然の発言、
それがラオを慌てさせる発端の言葉だった。
「一人? スイが一人で?
え? 何で?
おいおいおい……、
何を言ってんだよ……?
一旦落ち着こ?な?
先刻、
シンヒが丁寧に説明してくれただろ?
あれ?
ユンタのところに行ってたから、
聞こえてなかったか……?」
「大体わかりますよ。
だから、わたしが一人で行く事にしたんです」
「……すまない。言っている真意がよくわからない……」
「真意も何も、言葉の通りです。
大勢で行動するのがマズければ、
数を減らすしか無いし、
少なければ少ないほど良いかも知れません。
わたしは探知や感知の類は、
精霊たちが居るから得意です。
隠密的な行動を取るなら、
ロロの方が向いてるけど、
人材的にちょうど良いのは、
実はわたしなんじゃないかなと思うんです」
「……う、うーん。
そりゃ、スイの言いたい事は、
何となくは分かってやりたいけどさ……」
「それに、
先刻も言ったけど、わたしは多分、
ラオ様が思っているよりも冷静ですよ?
……コトハさんに、
どうしても逢いたいから無茶を言ってるって、
そうやって思われるだろうから、
とても、そうは見えないかも知れないですけど」
「……うん。まぁ……、そうだね」
「実際に、わたしの主観じゃ、
そうなっちゃうかも知れないから、
ユンタに相談したんです」
「ユンタも賛成してた……?」
「とても客観的に判断してもらいました」
「いやいやいや……、駄目だ駄目だ。
とてもじゃないけど、そんな事、
僕は了承出来ないぞ?」
「大丈夫ですよ」
「駄目だって!? あのな、
聖域教会の連中は莫迦じゃない。
連中のネットワークを潰して回ってる最中と云えど、
彼奴らの眼や耳は、
僕達の想像の範疇を超える程によく利くんだ。
何百年もの間、
連中が世界でデカい顔をし続けられた事を考えれば、
それは判るだろ?」
「一人で行動すれば、
それがバレて襲われるという事ですか?」
「まあ、そうだ。
お前は確かに強い。
司教級の相手が来たとしても、
多分、お前が勝つだろう。
だけど、
多勢に執拗に狙われ続けるとしたら話は別だ。
……それとも、何か策があるのか?」
「なんとなくなんだけど」
「うん?」
「わたしが一人で居たら、
コトハさんが迎えに来てくれそうな気がするんです」
「……え? そ……、それだけ?」
「それだけです。
多勢だろうが何だろうが、
コトハさんなら負ける訳が無い。
ラオ様もそれは解るでしょ?」
「いやいやいや……」
「で……、でもそれじゃ!
コトハさんが来るまで、
スイちゃんが囮みたいになっちゃわないッスか……?
危ないッスよ!?
せめて、自分も一緒に行くッスよ!?」
「いいの?
本音を言うとさ、
ロロが来てくれたら凄く助かる」
「スイ! 待て!! もう少しだけだ!
もう少しだけで良いから、僕に時間をくれ!!」
「そ……、そうですよ!! スイ!!
行くなら、私も一緒ですからね!?」
「シャオ! お前も駄目だ!!
良いから、少し落ち着け!!」
「おかしいな。意外と冷静なんだけどな。
伝わらないもんだな」
スイは本当に不思議そうに首を傾げていた。
「ふん。だから俺は、
初めからそうしろと言っていたんだ。
しかしだ、
スイ。
お前、まさか歩いて行くつもりではないだろうな?」
「え?駄目かな?」
「馬鹿か。飛翔魔法でも使わないと時間の無駄だ。
何日かかると思っているんだ」
「わたしは飛翔魔法は使えないから」
「陛下の様子を見て判らないか?
実際のところ、
そう何日も猶予は無いのだろう。
考えてもみろ。
周りの国への体裁を調えたいだけで、
こんなにも反対すると思うか?
そうではなくて、
戦力を分散させる事への危惧があるからだろう?」
「……そうだね。クジンの言う通りだ」
クジンに鋭い声で訊ねられ、
ラオは短く答えた。
「やはりな。
……まあ誰がどう考えても、
そうだろうがな。
今や、
この国は聖域教会と真っ向から対立している。
同盟国として名乗りを挙げた他の国と比べれば、
圧倒的に大国として名高いイファルだ。
ウクルクが最初に襲撃を受けたのも、
イファル侵略への手始めの布石のつもりだろう。
ウクルクとイファルの交流は根深い。
転移門が幾つも在る筈だ。
だが、
敵の狙いは間違無くイファルだ」
「わたしにもそれくらいは分かるよ」
「だからラロカへ向かうなら、
手短に済ませろ。
使者の件でもよく解っただろう?
奴らは間違いなく、
近いうちに、
形振り構わず攻め込んで来るぞ。
魍魎を失ったとは云え、
未だ奴らの戦力は遥かに此方を上回っている」
「ほら。
やっぱり転移門を使わせてもらった方が、
話が早く済みますよ?」
「クジン……。
頼むからスイをこれ以上煽らないでくれ……」
「煽ってなどいない。事実だけを言っている」
ラオは頭を抱えたまま、
そのまま口を開く事無く黙ってしまった。
「陛下、少し休まれた方が……」
クアイが心配そうにラオに声をかけたが、
ラオは返事をせずに、
そのまま何事か考え続けている様子だった。
◆◆
「正直、クジンさんの意見は極論過ぎて、
僕は賛成しかねますけどね」
「極論だと?俺は事実を述べただけだ」
「でも実際のところ、
この同盟の利害が一致しないと、
僕達のやってる事も無駄足どころか、
割に合わなくなっちゃいません?」
「どういう意味だ?
仮にそうだとしたら、どうだと云うんだ?」
「報酬で貰える筈だった、
教会が保有している痕跡や、
女神に関する情報が手に入らないばかりか、
僕達の内部情報は、
一部漏洩してしまってますよ?」
「ま。そりゃ問題だね。
特にクジンは手の内を見せ過ぎちゃったからね」
シンヒが、からかうような口調で茶化した。
「黙れシンヒ」
「クジンさんの様なタイプの、
能力の開示は致命的ですからね」
「五月蝿い。
能力を知られたとしても、
対応させなければ良いだけだ」
「イツカさんに手も足も出なかったじゃないですか」
「……イェン。お前何が言いたい?
俺に喧嘩を売っているつもりか?」
「そういう訳ではないですけど。
僕達がマズい状況に陥っているって話のつもりです」
◆◆◆
「イェンの言う通りだとあたしも思うね。
今、同盟を解消したって良いことなんて、
なんにも有りゃしないさ。
一応、
始教皇と、あたしらの組織のトップは、
知らない仲じゃ無い。
巧いこと立ち回んなきゃ、
干されて、狙い撃ちにされちゃうだろうねえ」
「そういえばさ、
ソーサリースフィアのトップって誰なの?
わたしでも分かる様な、
有名な魔法使いだったりするのかな?
それに、
聖域教会の始教皇と知り合いって言っていたけど、
この争いに関して、本当にノータッチなのかな?」
「まあ、ぶっちゃけて言うと、
連絡役のイェンは別として、
メンバー同士でも顔と名前が一致しないなんて事、
ざらにあるからねえ。
……イファルと同盟を組む件に関しちゃ、
報告して、特に反対もされなかったけどねえ、
風向き次第じゃ、
どっちに転ぶかなんてわからないね」
「つまり、トップの人が、
君たちを切り捨てる可能性もあると?」
「シビアな組織だからねえ。
利益にならなきゃ充分有り得る話だね。
そう云う訳だから、
今、同盟を解消したんじゃ、
あたしら本当に根無し草になる気がするんだよねえ。
もしも、
切り捨てられた日にゃ、
イファルの後ろ楯無しじゃ、
流石にマズいと思わないかねえ?」
シンヒの言葉に、
クジンは何も返答しなかったが、
シンヒの意見に賛同出来るところが有るのか、
反論をする事は無かった。
「スイの言う通り、
中央の魔女が、
もし此方に向かって来てんなら、
それを待つ方が得策だと、
あたしは思うけどねえ」
「えー……、待つのかぁ……」
スイが残念そうに言った。
「……。まあ、それだけじゃ無いんじゃないかと、
僕は思いますけどね」
「どういう意味?」
「今、問題視されているのは、
戦力不足についての懸念です。
今や世界のあちこちから、
名乗りを挙げる実力者は、
チラホラ居るとは思いますけど、
数で云えば聖域教会には及ばないでしょう。
もっと効率的に、
戦力を集める事が出来たら良いんではないかと」
「具体的ては?」
「イファル王。
僕は期待と個人的な興味を持って、
お訊ねしますけど、
貴方なら知っている事が有るのではないかと、
思っています」
「……イェン。……まさかとは思うんだけどな」
「その、まさかです。
異世界から転移者を召喚する魔法。
魔法大国イファルの王である、
貴方なら、その術を知らない訳が無いと、
僕は考えています」
◆◆◆◆




