『記載された禁忌。』
順番を間違えて投稿してます!
次話が前話の続きになりますので、
そちらを先にどうぞ!
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「イェン。
お前は一体どこでそれを?
何を聞かされて何を知っている?」
ラオは慎重に言葉を選んでいる様子だった。
「六割くらいは僕の推測と云うか、
妄想に近いものではありますが。
陛下の反応からするに、
あながち外れと云う事も無さそうですね」
「……あとの四割は?」
「現代の技術が確立する以前の旧い時代の、
『原初の魔法』を記録されたと云われる、
最古の魔法書を以前に見る機会がありまして。
その中に異世界からの転移、
或いは転生に関する魔法についての記述がありました」
「おいおい嘘でしょ……。
僕が知ってるそれは、
読む事はおろか頁を開く事も、
その存在に考えを及ぼす事さえ、
禁忌とされる門外不出の魔法書だぞ?
アレは決して触れてはならないものだ」
「ええ。
しかし、禁忌とされたのは、
現代に至るまでの過程によってです。
二千年以上生きているとされる貴方ならば、
古の昔に、
その内容に目を通した事があるのでは?」
「……魔法の蒐集に随分と熱を上げている様だけどね。
君に答える義理は無いな」
「ですが貴方には国王としての義務があります。
戦力不足を補う為に僕が進言するのは、
異世界から、
転移者を召喚する魔法を使う事です。
転移者たちには例外や差違は在りますが、
概ね高い能力をその身に宿して、
この世界にやって来ます。
或いはこの世界で、
その能力を目覚めさせる事に長けている。
一体、
どういう理屈で何が作用するのかは、
解りませんが、
偶然では無いと僕は考えています」
「……転移者を召喚しまくって、
軍隊でも作れっていうことか」
「そうです。
副次的な恩恵として、
女神の痕跡も発生するかも知れません」
「良い事を教えてやるけどね、
物事はそんなに単純じゃないんだぜ?」
「禁忌とされるには、
何かしらの危険が伴うからでしょうか?」
「その通りだよ。
僕達は全知全能じゃない。
願い事の全てを、
叶えてしまおうと思わない方が良いんだ」
「それならば何故、
この世界は女神の力を崇めて、
その全てを欲しているのでしょうか?
伝承に遺される女神の魔法は、
明らかに、
貴方の言う禁忌の領域ではないですか?」
「……だから、
物事はそんなに単純に出来てないんだよ。
もしもお前が、
原初の魔法に何か浪漫の様なものでも、
抱いているのだとしたら、
それを知ろうとする事は辞めておいた方が良い。
仮に僕が、
その転移魔法を使って、
転移者を召喚出来るのだとしたら、
何故やらないと思う?
……もうこの話は終わりだ。
もっと現実的に物事を捉えようか。
出来る事を可能な限り実現出来るように」
「魔法使いらしからぬ発言ですね」
「魔法使いだからだ」
「……まあ、良いです。
僕としては、あの魔法書の内容に、
嘘が無いと云う事も知れたので、
今のところ満足です」
「は?お前、あの魔法書を読んだんだろ?」
「見ましたよ。
ですけど、
あまりにとんでもない内容だったので。
出鱈目の書かれた偽りの魔法書なんて、
掃いて捨てる程有りますから」
「お前……。
魔法書の真贋を確かめる為に、
僕を試す様なことをしやがったな?」
「はい。
陛下は一度も、
魔法書の内容を否定されませんでしたので」
「呆れた餓鬼だ……」
「失礼があったなら申し訳ないです。
以前も言いましたけど、
僕は魔法の根源たる何かに、
いつしか触れてみたいと、
常々考えているので。
少々、強引で頭でっかちな事は自覚しております」
「……お前は長生きしないだろうな」
◆◆
「話がズレたね。
興味を持っちゃったヤツも、
いるかもだけど魔法書の件は忘れてくれ」
「興味深い」
「ダメだっつってんの」
「それに、イェンの言っている事もあながち、
おかしな事でも無いだろう?
禁忌だろうが何だろうが、
使えるなら使うべきではないのか?
躊躇しながら勝てる相手か?」
「アホか。
煽ってるつもり?
戦力を補う策を僕も何も考えてない訳じゃない。
……それに、
スイの独り行動を許可する為に、
ヤバめの手を使うつもりは無いからな」
「えー」
「我慢してくれよ?」
「策とは何だ?具体的に教えてくれ」
「お前ら……。
一応だけどさ、国王だからな?
……まあ、良いか。
まだ使者を送る段取りをしてる段階で、
何一つ確定してないんだけどさ、
魔族に同盟の協定を持ち掛けるつもりだ」
「魔族だと?」
「どうだ?満足か?」
「陛下……! 一応、国の機密事項ですので……」
「何だよ?この国のトップは僕だろ?
機密も何も、僕の好きにさせろよ」
「しかしですね……」
慌てるクアイの姿を見て、
ようやくラオは調子を取り戻した様に、
いつも通りの軽妙な口調になっていた。
「それで、段取りの進捗は?」
「イファルの領内、
或いは近郊の諸国に根城を構えてる、
コンタクトの取れそうな連中を、
リストアップしてる最中だ」
「……俺の記憶が確かなら、
中央諸国の国々と魔族は過去の歴史上では、
敵対する事が多かったと思うがな」
「その通り。
実際に侵略や支配なんてのは、
僕らと魔族の間で長年繰り返されてきた事だ」
「ならば魔族が、
イファルに手を貸す事など有り得るのか?
ソーサリースフィアで使い走りにしていた、
金で動く様な雑魚では役に立たんし、
そもそもの話、
連中には負けるであろう此方に付くメリットが無い。
放っておいた方が敵対している人間を、
駆逐されて助かるかも知れないではないか」
「ま。そういう見方もある。
知ってるだろうけど、
それに奴らは冷酷で狡猾だ。
土壇場で裏切る可能性も、
多い方から数えた方が早いかも知れない。
人間の道理の同盟なんて、
結んだところで大した意味を為さないだろうね」
「ならば時間の無駄だろう」
「そうかもしれない。
だけど、そうは思わないから、
僕は今、魔族も味方につけようとして動いている」
「そう考える根拠は?」
「魔族ってのはさ、
似たような事を言うけど、
大体がクソだ。
人間に寄り添おうとしてくる奴も居るけど、
それも結局のところ、
裏が有るし、自分の利益にならなきゃ、
幾らでも嘘を吐いて切り捨ててくる。
同じ言語で会話は出来るけど、
こっちの話なんて、
本当はまるで聞いちゃいない。
だけど、
長年生きて、
お目にかかった事なんて、
本当に数える程も無いけど、
稀に話が通じる奴らが、
居ない訳でも無いんだよね。
それでも、
人格的に褒められる様なもんじゃないけど、
状況さえ整えてやれば、
耳を全く貸さないって事は無いだろうね。
今、
リストアップしてる時点で、
此方からのコンタクトが取れそうな奴らは、
その、稀に居る話が通じそうな連中って訳だよ」
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