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リンカーネイトリンカーネイトリンカーネイト  作者: にがつのふつか
第五章 『ワールドエンドプレイヤーズ』
177/237

『情勢は緊張している。』


※不定期に更新しています!



「……転移門を使わせてくれないって何でですか?

……約束と違う。

一体どういう事なんでしょうか?」


問い詰める為に放たれた、

言葉の節々には、ひりついた刺が立ち、

美しい顔は無表情のままだったが、

微かに曇って見えていた。


スイは誰がどう見ても、

明らかに不機嫌だった。


ウクルクからイファルへ戻り、

その足で再びラロカへ向かおうとした矢先、

ラオ(イファル王)から待ったがかけられた為だ。


「落ち着いてくれよ、スイ。

使わせないと言ってるんじゃない、

ちょっと時間をくれと頼んでるんだ」


ラオは努めて冷静な口調で、

そう告げたつもりだったが、

内心は決して穏やかでは無かった。


「わたしには同じ事を言ってる様に聞こえます。

そして、その言い方じゃ納得する事が出来ません。

何か事情があるなら、

教えて欲しい。

そうしてくれたら、

わたしも納得出来るかも知れない。

(ラオ)さま、

わたしに何か隠していませんか?」


スイも、極めて冷静に伝えたつもりだったが、

今にも着火して破裂してしまいそうな機嫌の悪さは、

顕著に彼女の表情に浮かび上がり、

それを解りやすい形で周囲に悟らせていた。


「……そうやって()()()()()

綺麗な顔が勿体ないぞ?

……わかった、ありのままを教える。

一応僕も言いづらい事を言ってるんだと思って、

配慮して聞いてくれ。

南方で一つの街が占拠された。

聖域教会の南方支部の拠点のような街だ。

そこが陥落した」


「それが何か問題に?」


「まあ……、

聖域教会と戦うつもりの各諸国(僕たち)からすれば、

有難い話ではある。

だけどね、問題が一つ出来上がってしまった。

それも、マジで大きな問題だ」


ラオはそこで、

こめかみ辺りに手を遣る仕草をした。


「その街には転移門が有る。

当然、聖域教会の管轄だ。

だけど、問題はそこじゃない。

今や、

どの国も転移門を欲しがっている。

聖域教会の支配から解かれた国々は、

教会の管轄だった転移門を、

自分達の領地のものだと次々に主張しまくってる」


「じゃあ、そこの転移門も?」


「拠点にしている街だから信者もとても多い。

だから未だ、

そこにはしっかりと聖域教会が根を張っているから、

今は誰のものと云う訳でも無い。

だけど誰もが、

いつしかは自分達のものになると思っている。

なのに、

そこに突然、

何者かが割って入って来て、横取りされちまった」


「横取りしたのは誰なんですか?」


「……聞いて驚くなよ?

最初に報告を受けた時には、

僕は自分の読みの甘さを呪ったよ。

彼女達の行動に、

もう少し眼を遣っておくべきだった。

街を襲った一群の統率者は、

『指切り姫』と名乗ったそうだ」


「え?ヤエファが?」


「ヤエファがだ。

イファルを出て何処へ向かったのか知らないけど、

その街に義妹達を引き連れて突然現れて、

あっという間に街を占拠してしまったらしい。

鬼火の妹がイファルと協力関係にあるのは、

周知されてしまってたからなぁ。

……僕が自慢したからなんだけど」


「……。一体どうしたんだろう?」


「わからないな。

……それで、同盟を組む予定だった南方の国や、

他の国からも抗議の連絡が鳴り止まないって寸法だ。

同盟を申し出たイファルが、

同盟で無く、

自分達を支配下に置くために、

よからぬ事を謀っている、

だから、

先んじて抜け駆けをしたんだってな。

非常にマズい。

そういう訳で、

今の状況じゃ、

イファルからの使者を南方に送るのは難しい」


「えー」


「頼むよスイ、ただでさえ僕の面子は潰れかかってる」


「くだらん」


それまで黙っていた、

クジンが唐突に口を挟んだ。


「聖域教会の喰い物にされていた弱者が、

形勢が逆転した途端に都合良く、

自己の利益の為に不平不満を並べたとて、

そんなもの無視すれば良い。

仮にも此処は大国イファルだろう?

聖域教会を倒した後に、

そんな連中に足元を掬われない為にも、

どちらが上なのかをハッキリさせておくべきだ」


「簡単に言ってくれるよ……」


「スイ。飛翔魔法は使えないのか?

(ゲート)が使えないなら、

自分の足で行けば良い」


「ちょ……、ちょっと待て!

勝手に決められたら困る!

此処の王は(ラオ)なんだぜ!?」


「陛下、確かに俺達(ソーサリースフィア)は、

イファルと同盟を組むと約束をしたが、

貴方の言いなりになるとは言っていないし、

俺に命令する権限の有る上司は世界に一人だけだ。

ましてや、

国同士のゴタゴタなんぞ俺には興味が無い。

だが、

肩を並べて同盟を組む者同士として、

腑抜けた姿勢ばかり見せられいては、

俺としては些か不安になるんでな」


「……随分と好き放題言ってくれるな?」


ラオは声を低くし、

クジンを睨みつける様な視線を彼に送った。

普段、飄々としていて、

掴み所の無い雰囲気を醸し出しているラオが、

あまり見せる事は無い、

本当に珍しい表情だった。


「当然だ。

国と国との下らん問題に巻き込まれて堪るか。

俺は魔法使いだぞ?」


「……。国家に所属しない、

()()()の魔法使いの集団が、

無法者の集まりだってんなら、

それはそれで問題なんだぜ?」


「それが脅しなら、

俺には通用しないから止めておいた方が良い。

俺たちの事が気に喰わないなら同盟は解消だ」


「ストーーーップ!!

あのさーー……、何イラついてんのさ?

内輪揉めしてる場合じゃなくね?」


ユンタが二人の間に割って入り、

呆れた様子で言った。


しかし、

そのユンタも、

いつもと変わらない調子には見せているが、

身体中の隅々の、

至るところにまで魔力は漲らされていて、

何か有れば二人を叩きのめすのも辞さない様子だった。


ゆらゆらとさせている、

ツヤの良い尾の毛は、

一つ残らず逆立っている様にも見えた。


彼女も明らかに不機嫌だった。


「んで? 次は指切り姫(ヤエファ)の討伐?」


ユンタの声には抑揚が無かった。


「……流石にそれは避けたい」


「つーーことは、その話も出てるって事だね」


「……大人しくはしていたけど、

数十年前までの彼女の悪名を考慮すれば、

そういう考えを持つ者が出てくるのも、

致し方が無い事は分かって欲しいな。

それに怒らないでくれよ?

君の妹分だ、

この話を聞いて、

良い気分がしないのは承知している。

だけど、

ありのままを伝えると、

今はそういう状況だ」


「……ま、いーーや」


「ユンタ。僕は最悪の結果にならないように、

尽力するつもりだからさ。信じて欲しい」


「別に疑ってねーーよ。

それにヤエファが蒔いた種だろ?

もう餓鬼じゃねーーんだ。

そん時ゃ自分でケジメとんだろ」


ユンタは、キッパリと言い切ると、

踵を返して謁見の間を出て行った。


「ユンタ。待って」


スイが、ユンタの後を追って行き、

小さな声でユンタに何かを囁くと、

ユンタは顔俯けて、少し悲しげな表情を浮かながら、

スイの言葉に黙って耳を傾けている様子だった。


「な……、何か、皆イライラしてるッス……」


◆◆


不安そうな顔をしたロロに、

シンヒが声をかけた。


「まあ無理もないだろうねぇ。

中々、思惑通りに事が進まない時ってのは、

頭で分かっていたって、

大なり小なりのストレスを感じるもんさね」


「フッ……!

まだまだ皆、未熟なんだな!

その点イツカは冷静沈着だ」


「そうなのかい?でも、あんたも、

このままじゃラロカにゃ戻れなくないかねぇ?」


「え?何でだ?」


「話聞いてなかったみたいだねぇ?」


「どうしてだ?イツカはラオとの約束を守ってるぞ?

まだ帰ったらダメなのか?」


「今の情勢で、

イファルの置かれた立場から考えると、

転移者であるイツカさんが、

ラロカに戻られるとなると、

今度は、

緊張したイファルの国内から、

新たな批判を産んでしまうかもしれませんね。

……すみません、(シャオ)としては、

ラロカに戻れる様にお手伝いしたいのですが……」


「……ひどいんだな!!

勝手に連れて来ておいて、約束を破るなんて!!」


「すみませんすみません……!!

でも、もう少しだけ我慢していただければ、

必ず私がラロカへ帰してさしあげますから!!」


「絶対だな!? 約束だぞ!?」


「そんなにシャオを虐めたらいけないよ?」


「虐めてなんかないんだな!!」


「イツカをイファルに連れて来た時期が悪かったね。

考えてもごらん?

指切り姫(ヤエファ)に、中央の精霊術師(スイ)

獣巫女(ユンタ)白銀(シャオ)

それに、天恵者(チート)で転移者の魔書使い(イツカ)だ。

同盟が平等な立場の下で、

執り行われるものだと考えてる連中からすりゃ、

イファルには、

余りにも名の知れた戦力が集まり過ぎてる。

バランスってもんを見たら、

どうしたって歪すぎるのさ」


◆◆◆


「それでも、このままと云う訳にはいかないよね」


自室に戻ったユンタを見送ったスイが、

謁見の間に戻ると、

そう言って口にした。


「正直に言うと、

国と国との間の事は、わたし(スイ)もあまり、

興味は無いし、

イファルとラオ様が、

信頼の様なものを失ってしまったとしても、

冷たい言い方だけど、

一体何をどうしたら最善の策なのかは、

わたしには、よくわからないんだ。

ラオ様がお喋りなのが、

状況が悪化した原因な気もするし」


「スイ……。(ラオ)は、

お前のそういうとこも好きだよ……」


「でも、

イファルにはシャオや、

クアイおじさん、カヤおばさんが住んでる。

わたしにとって、

とても大切な人たちが暮らす、

大事な場所だ。

イファルの為に、

わたしは何かするべきなんだと思ってる」


「スイッッッ……!!!!!!」


シャオが感動のあまり、

身体を震わせながら、

そのまま泣き崩れた。


「先刻、ユンタと相談してみたんだ。

多分、皆が考えているよりも、

わたしもユンタも冷静だと思う。

それを踏まえて聞いて欲しいんだけど、

コトハさんが、

この世界に戻って来ているなら、

やっぱり、

わたしはどうしても逢いに行きたい。

でも、

皆で行くにしろ、人数を絞ったにしろ、

わたしたちがパーティーを組めば、

どうしても、

人目につきすぎてしまうかも知れない。

だから、

よく考えてみて結論を出してみたよ」


「……それで一体、どうするつもりなんだい?」


ラオが恐る恐る、

スイの様子を伺いながら訊ねた。


「ラロカには、わたし一人で行くよ」


「…………ん?」


思わず誰もが、そう聞き返した後、

長い長い沈黙が、

その場所にしっかりと訪れていた。


◆◆◆◆


♪Wurts 『ふたり計画』

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