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リンカーネイトリンカーネイトリンカーネイト  作者: にがつのふつか
第五章 『ワールドエンドプレイヤーズ』
176/237

『再会する理由、或いは、その方法。』

※不定期に更新してます!




リクは無意識のうちに、

スマホを取り出す様な仕草をしていた。


異世界では、

どうせ使えないのだと思って、

アメビックスに渡して解約も頼んで来ていたのだが、

習慣と云うものが、

染み付いている証拠だった。


東暁(ひがしあかつき)……」


彼は、何処で見たのかも忘れた様な、

ネットニュースの記事に、

東暁(その名前)の文字が書いてあった記憶があった。


(行方不明になった女子高生の名字だ……。

ウチの近所の高校に通ってた子の……。

転移者、同じ近辺で偏り過ぎじゃねえか……?)


「悪いけれど、(コトハ)には判らないな。

それに、

機密的な事情が在るんだろうけど、

君と、その妹さんはアメビックスと、

一体どういう関係なのだろう?

たとえ、僕が何かを知っていたとしても、

君に教えるにしては、剰りにも不明瞭な点が多い」


コトハはそう言った。

突き放す様な言い回しだったが、

かろうじて冷たいニュアンスには感じられなかった。


「お……、おい? 少し言い方キツイぞ……?」


「君はアメビックスの魔法で、

こちらに転移したのだろう。

彼の技術があれば、

その方法を実現させる事が出来るのは、

もう僕たちは知ってる。

そして、

君は多分、

アメビックスと何らかの契約を結んでいる。

転移の対価として、

何か彼に有益な条件をつけられて」


「……」


「アメビックスは、

一体いつ頃から日本に居たのだろうね?

僕も全てを把握出来る訳ではないから、

よくわからないけれど、

僕はリロクにばかり、

気を取られていたみたいだよ」


異世界(こちら側)から、

魔族が転移しとるとはの。

わっち(ヤエファ)も詳しい事情は判らんが、

ニホンに魔族が、

ようけ居る云うんは、

些か良ろしうは無いんではないかの?」


魔族(彼ら)が、

日本を占拠するつもりなら、

非常にマズイ事だね。

何せ、

彼らの扱う力は、

日本には無い、

未知の力(魔法)だ。

あっという間に日本は魔族の支配下になるだろうね」


「じゃが、

そうはなっとらん」


「本当の事は話して無いだろうけど、

一応、

異世界の住民を移住させる為だと、

アメビックスは言っていたからね」


「移住」


「その移住計画と、

東暁姉妹の転移は関係している。

理由や順序は、

さっぱり解らないけど」


「世界間を往き来する様な転移云うものは、

わっちには、よく解らんもんじゃったが。

まさか、

魔族も絡んどるとはの。

しかし、

魔族を囲うとる上に、

魔族と繋がりの在る転移者まで居るとは、

よいよ、

聖域教会云うのは、

節操と呼べるもんが無いみたいじゃの」


「……ヤエファ姉様」


「そげ悲しげな顔をしんさんな。

イズナ。

悪いが、

コトハは本当にお前の妹の事は知らんみたいじゃけ。

堪えてくれの。

それに、

コトハも先を急いどる。

いい加減、行かせてやってくれ」


ヤエファは諭す様にして、

イズナに声を掛けた。


「もし、これから行く先で、

君の妹に関する話を聞く事があれば、

真っ先に教えると約束しよう」


コトハは、そう言いながら、

ヤエファの椅子から解放されたものの、

未だ地面に座り込んだままだったイズナに手を貸して、

そっと立たせてやった。


「どうやって連絡を取るつもりかの?」


ヤエファが意地悪そうな言い方で訊いた。


「え?ヤエファと一緒に行くんじゃないのかい?」


「そりゃ流石にマズイじゃろ?」


「てっきり、そうするのかと。

それなら、僕たちと一緒に来るかい?」


「それも叶わんよ。

コトハ達が今から行くのはイファルじゃけ。

聖域教会の司教を連れてくのは無理じゃろ」


「……私はネイジンに戻る」


「そうか。それなら此処でサヨナラだね」


「お……、おい。行かせても良いのか?」


「リクちゃん。心配はいらんよ。

わっちの幻術が仕込んであるけ。

契約程、縛り付ける様なもんでは無いがの。

それに、

イズナは義妹になる言うたけ。

わっちを裏切る事はせん」


「……」


「連絡は、わっちが取ろう。

ほいじゃけ何か判れば、教えてやってくれ。

この娘も不憫な境遇に置かれとるけ」


「わかった。約束しよう。

それに、

可能なら、

いずれ(イズナ)にも、

教会の事で話してもらいたい事もある」


「……無理矢理、口を割らせる事も出来るだろう?」


「勿論。

でも、そこまでしないのは、

そうする必要が無いからさ」


「……」


「ヤエファ。色々とありがとう。

君の事だから心配はいらないだろうけど、

僕はイファルに居るから何か在れば来てくれ」


「ふふ。何も無くても逢いに行くけ」


「待っているよ」


コトハはリクを連れて、

閉ざされた城門を飛び越えて、

城壁の中に入ろうとしたが、

その前にイズナに手招きをして、

片手にぶら提げた袋の中から、

銀紙の包装がされたチョコレートを一つ手渡した。


「甘い物は好きかな?

この世界で暮らしていたら、

チョコレートなんて久しく食べれていないだろう。

一つ、君にあげよう。

ヤエファと分けて食べてくれ」


「い……、要らないが?」


「遠慮しなくて良い。それに何も仕込んじゃいないさ」


「イズナ。貰うときんさい。

わっちは食べたい」


「ほら」


イズナは何も言わずに、

コトハからチョコレートを受け取った。


「……溶けてるではないか」


「ところでさ、

この街の転移門には、

イファル行きの航路が在るのかな?」


「イファルへ直行するものは無かったの。

ほいじゃが、

中央諸国行きの記録(ログ)が在る。

それを使えば多少はイファルの近くに着くじゃろ」


「わかった」


中にゃ(城壁の内側)、義妹たちが居るけ、

案内してもらいんさい」


「うん。ありがとう」


高く翔び上がり、

城壁を軽々と越えて行くコトハを見送りながら、

ヤエファはチョコレートの包み紙を破いていた。


「溶けてしもうとるの。

……ほいじゃが、甘くて旨い。

異世界(ニホン)云うものは、

本当に魅力的なところじゃの。

食い物も、

女も、

一流のモンが揃っとる。

女神や魔族でなくても、

興味を持つ気持ちは解る。

何せ、この世は、わからん事ばかりじゃ。

踠いとる事にすら、

気づけん事もある」


「ヤエファ姉様……?

それは一体どういう……?」


「ふふ。独り言じゃ。

ほじゃけど、わっちもお前も、

訳のわからん道理に振り回されとる者同士じゃ。

目隠しをされとっても尚、

断片に触れる云うことの感慨は、

堪えられんもんが在るじゃろ」


口の中に広がっていく、

甘い香りを堪能しながら、

ヤエファは口の端に付いた、

チョコレートを舌の先で、

ゆっくりと舐めて、

嬉しそうな表情で、

笑みを浮かべていた。


イズナからは見えなかったが、

美しいヤエファが見せた、

その笑みには、

張り付いた偽物の感情の裏に、

背筋を凍らせてしまう様な、

禍々しく、狂喜的な感情が確かに垣間見えていた。


◆◆




次話から、

再びスイたちの視点に物語が移ります!

引き続き読んでってくれたら嬉しいですー


♪GLIM SPANKY 『美しい棘』

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