『再会する理由、或いは、その方法。』
※不定期に更新してます!
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リクは無意識のうちに、
スマホを取り出す様な仕草をしていた。
異世界では、
どうせ使えないのだと思って、
アメビックスに渡して解約も頼んで来ていたのだが、
習慣と云うものが、
染み付いている証拠だった。
「東暁……」
彼は、何処で見たのかも忘れた様な、
ネットニュースの記事に、
東暁の文字が書いてあった記憶があった。
(行方不明になった女子高生の名字だ……。
ウチの近所の高校に通ってた子の……。
転移者、同じ近辺で偏り過ぎじゃねえか……?)
「悪いけれど、僕には判らないな。
それに、
機密的な事情が在るんだろうけど、
君と、その妹さんはアメビックスと、
一体どういう関係なのだろう?
たとえ、僕が何かを知っていたとしても、
君に教えるにしては、剰りにも不明瞭な点が多い」
コトハはそう言った。
突き放す様な言い回しだったが、
かろうじて冷たいニュアンスには感じられなかった。
「お……、おい? 少し言い方キツイぞ……?」
「君はアメビックスの魔法で、
こちらに転移したのだろう。
彼の技術があれば、
その方法を実現させる事が出来るのは、
もう僕たちは知ってる。
そして、
君は多分、
アメビックスと何らかの契約を結んでいる。
転移の対価として、
何か彼に有益な条件をつけられて」
「……」
「アメビックスは、
一体いつ頃から日本に居たのだろうね?
僕も全てを把握出来る訳ではないから、
よくわからないけれど、
僕はリロクにばかり、
気を取られていたみたいだよ」
「異世界から、
魔族が転移しとるとはの。
わっちも詳しい事情は判らんが、
ニホンに魔族が、
ようけ居る云うんは、
些か良ろしうは無いんではないかの?」
「魔族が、
日本を占拠するつもりなら、
非常にマズイ事だね。
何せ、
彼らの扱う力は、
日本には無い、
未知の力だ。
あっという間に日本は魔族の支配下になるだろうね」
「じゃが、
そうはなっとらん」
「本当の事は話して無いだろうけど、
一応、
異世界の住民を移住させる為だと、
アメビックスは言っていたからね」
「移住」
「その移住計画と、
東暁姉妹の転移は関係している。
理由や順序は、
さっぱり解らないけど」
「世界間を往き来する様な転移云うものは、
わっちには、よく解らんもんじゃったが。
まさか、
魔族も絡んどるとはの。
しかし、
魔族を囲うとる上に、
魔族と繋がりの在る転移者まで居るとは、
よいよ、
聖域教会云うのは、
節操と呼べるもんが無いみたいじゃの」
「……ヤエファ姉様」
「そげ悲しげな顔をしんさんな。
イズナ。
悪いが、
コトハは本当にお前の妹の事は知らんみたいじゃけ。
堪えてくれの。
それに、
コトハも先を急いどる。
いい加減、行かせてやってくれ」
ヤエファは諭す様にして、
イズナに声を掛けた。
「もし、これから行く先で、
君の妹に関する話を聞く事があれば、
真っ先に教えると約束しよう」
コトハは、そう言いながら、
ヤエファの椅子から解放されたものの、
未だ地面に座り込んだままだったイズナに手を貸して、
そっと立たせてやった。
「どうやって連絡を取るつもりかの?」
ヤエファが意地悪そうな言い方で訊いた。
「え?ヤエファと一緒に行くんじゃないのかい?」
「そりゃ流石にマズイじゃろ?」
「てっきり、そうするのかと。
それなら、僕たちと一緒に来るかい?」
「それも叶わんよ。
コトハ達が今から行くのはイファルじゃけ。
聖域教会の司教を連れてくのは無理じゃろ」
「……私はネイジンに戻る」
「そうか。それなら此処でサヨナラだね」
「お……、おい。行かせても良いのか?」
「リクちゃん。心配はいらんよ。
わっちの幻術が仕込んであるけ。
契約程、縛り付ける様なもんでは無いがの。
それに、
イズナは義妹になる言うたけ。
わっちを裏切る事はせん」
「……」
「連絡は、わっちが取ろう。
ほいじゃけ何か判れば、教えてやってくれ。
この娘も不憫な境遇に置かれとるけ」
「わかった。約束しよう。
それに、
可能なら、
いずれ君にも、
教会の事で話してもらいたい事もある」
「……無理矢理、口を割らせる事も出来るだろう?」
「勿論。
でも、そこまでしないのは、
そうする必要が無いからさ」
「……」
「ヤエファ。色々とありがとう。
君の事だから心配はいらないだろうけど、
僕はイファルに居るから何か在れば来てくれ」
「ふふ。何も無くても逢いに行くけ」
「待っているよ」
コトハはリクを連れて、
閉ざされた城門を飛び越えて、
城壁の中に入ろうとしたが、
その前にイズナに手招きをして、
片手にぶら提げた袋の中から、
銀紙の包装がされたチョコレートを一つ手渡した。
「甘い物は好きかな?
この世界で暮らしていたら、
チョコレートなんて久しく食べれていないだろう。
一つ、君にあげよう。
ヤエファと分けて食べてくれ」
「い……、要らないが?」
「遠慮しなくて良い。それに何も仕込んじゃいないさ」
「イズナ。貰うときんさい。
わっちは食べたい」
「ほら」
イズナは何も言わずに、
コトハからチョコレートを受け取った。
「……溶けてるではないか」
「ところでさ、
この街の転移門には、
イファル行きの航路が在るのかな?」
「イファルへ直行するものは無かったの。
ほいじゃが、
中央諸国行きの記録が在る。
それを使えば多少はイファルの近くに着くじゃろ」
「わかった」
「中にゃ、義妹たちが居るけ、
案内してもらいんさい」
「うん。ありがとう」
高く翔び上がり、
城壁を軽々と越えて行くコトハを見送りながら、
ヤエファはチョコレートの包み紙を破いていた。
「溶けてしもうとるの。
……ほいじゃが、甘くて旨い。
異世界云うものは、
本当に魅力的なところじゃの。
食い物も、
女も、
一流のモンが揃っとる。
女神や魔族でなくても、
興味を持つ気持ちは解る。
何せ、この世は、わからん事ばかりじゃ。
踠いとる事にすら、
気づけん事もある」
「ヤエファ姉様……?
それは一体どういう……?」
「ふふ。独り言じゃ。
ほじゃけど、わっちもお前も、
訳のわからん道理に振り回されとる者同士じゃ。
目隠しをされとっても尚、
断片に触れる云うことの感慨は、
堪えられんもんが在るじゃろ」
口の中に広がっていく、
甘い香りを堪能しながら、
ヤエファは口の端に付いた、
チョコレートを舌の先で、
ゆっくりと舐めて、
嬉しそうな表情で、
笑みを浮かべていた。
イズナからは見えなかったが、
美しいヤエファが見せた、
その笑みには、
張り付いた偽物の感情の裏に、
背筋を凍らせてしまう様な、
禍々しく、狂喜的な感情が確かに垣間見えていた。
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次話から、
再びスイたちの視点に物語が移ります!
引き続き読んでってくれたら嬉しいですー
♪GLIM SPANKY 『美しい棘』




