『李綱。』
※不定期に更新しています!
水曜日にも投稿したので、
今週の投稿分は2話あります!
投稿時間が今週は、いつもと違くてごめんなさい!
◆
「挑発には乗らない様子だね」
コトハは独り言を呟いた。
「お前……、
まさか、わざとアメビックスに聞こえる様に……?」
「そうだけど?
どうせ、僕たちの会話は筒抜けだ」
「アイツが怒ったらどうすんだよ!?」
「何だよ?
その時には、やり返してやれば良いさ。
君が」
「先に俺が死んじまうかもだろ!?」
「はは。そうはならないさ」
「笑うとこじゃなくない!? 根拠は!?」
「そげに慌てんさんな。
契約で縛る類いの魔法じゃろ?
互いに契約で縛りあっとるなら、
どっちが優位云うことも無いけ。
幾ら手を出したかったとしても、
十中八九、
仕掛けてくる事は無いけ。
魔法の契約の強制力と云うもんが在るからの」
ヤエファがリクを安心させる様に、
肩を叩きながら言った。
「ほ……、本当に?」
「ほんとじゃ。
それに先刻、コトハも言うたじゃろ?
魔族と云うのは、狡猾で面倒な生き物じゃ。
奴らが、そういう手段に出るのは、
身の安全を確保する為の策じゃ。
自らに危険が及ぶ様な事は、
やりたくても出来んけ。
心配せんでも大丈夫じゃけ」
ヤエファの言葉を聞いても、
リクは未だ不安そうな表情をしていたが、
それ以上、不服を口にすることは無かった。
「……アメビックスだの、リロクだの、
先程から魔族の名を次々と……。
コトハ、リク、
貴様達は……、本当に何者なんだ……?」
ようやく、
ヤエファに椅子にされていた状態から、
解放されたイズナが口を開いた。
「君はどうやら、
アメビックスやリロクの事を知っているらしい。
そんな素振りは見せなかったけれど、
まさかアメビックスも聖域教会と関係があるのかな?」
「……」
「イズナ。答えちゃりんさい」
ヤエファに促され、
イズナは渋々、コトハの質問に応えた。
「……リロクと云う魔族が、
教会と同盟の様な協定を、
以前から結んでいると聞いた事がある。
アメビックスについては、
今のところ、教会と関係は無い。
だが、
奴は、大昔から南方諸国周辺を根城にしていた魔族で、
教会はアメビックスとの接触を計っていた。
懐柔し、手の内に引き込む為にだ」
「アメビックスの工房を、教会は狙っているんだね」
「……その通りだ。
奴の持つ、様々な魔法技術や、
それに依って製造された装置、
アメビックスの能力は、
教会にとって有益になると考えられていた」
「ところが、アメビックスを中々捕らえられ無いし、
おそらく、君が南方に派遣された頃には、
既にアメビックスの工房は、
もぬけの殻になっていたんじゃないかな?」
「……合っている。
奴の転移魔法の技術の事は、
我々も知ってはいた。
コトハ、お前は奴と日本で会ったと言ったな?」
「そうだよ。あちらで、
新たな工房を作っていた。
この世界に在るモノよりも、
規模は大きいのかも知れない」
「それは本当か?」
「僕たちが見たラロカの工房には、
空間拡張の魔法の形跡が無かった。
夜逃げでもするみたいに、
何かを恐れて、とても慌てながら、
彼処を引き払った様に見えたんだけれど、
その割には、
重要そうなものは何一つとして、
遺されては無かった。
これは僕の推測に過ぎないけれど、
空間拡張の魔法は、
向こうの世界で完成されたんじゃないかな?
アメビックスが律儀に世界線を往き来して、
コツコツと、
工房に遺していったモノを回収していたなら、
話は違ってくるかも知れないけれど」
「空間を拡張する魔法が……!?
やはり、教会が危惧していた通りになっていたか……」
「空間拡張の魔法って、
アメビックスの工房で、
小さいアパートに部屋が幾つも在ったヤツか?
便利そうではあるけど……、
そんなにヤバい魔法なのか?」
あまり、状況を呑み込めていない様な表情のリクが、
コトハに訊ねた。
「使い途に因るだろうだけどね。
仮にだけど、持ち運びが出来る様なものに、
沢山の兵隊を潜ませておいたらどうなるだろう?
それに、
拡張された空間の中に、
収納出来るものが、
人間だけではなくて、魔物や魔獣、
魔法までも収納出来たとしたら?
あの魔法は、
災厄を呼ぶ立派な兵器になり得るだろうね」
「おぞましい技術だ……!!」
イズナは忌々しそうに言った。
「まあ、
聖域教会がアメビックスの魔法を手に入れたとして、
その使い途は想像に容易いと僕は思うけれどね」
「黙れ!!
貴様には判らんのか!?
その様な魔法、
魔族などに独占させて良い技術だと思うか!?
人間を喰い物にする悪の根源、
奴らには信仰心や慈悲など無い!!
凄惨な悲劇を産み、
大勢の人民が命を落とすだろう!!
世界をみすみす危険に晒すならば、
教会で保管していた方が道理に叶うだろうが!?」
「ヤエファの幻術に囚われても尚、
失われない君の篤い信仰心は、よく判ったよ。
さて、ナツメくん。
そろそろ行こうか?」
「ま……、待て!!」
「何だい?」
「……恥を忍んで、最後に訊きたい事がある」
「何だろう? 僕にわかる事ならば答えるよ」
「アメビックスの口から、
東暁と云う、
女の子の話は聞かされていないか……?」
「東暁? いや、聞いてないな」
「そうか……」
「変わった名前だけど、
その娘も転移者かな?
イズナの知り合いかい?」
「二月二日ことはが言うなよ……」
「ああ……、彼女は……、聿花は、
私と同じ転移者だ……。
私はイツカの事をずっと捜している……、
彼女は私よりも、
ずっと前に、この世界に転移して、
私は、イツカの後を追って、
この世界に来たんだ……」
「後を追って?
それは一体どうやってなのだろう?
君は向こうの世界で、元々魔法を使えたのかい?」
イズナはコトハの視線から眼を逸らさなかった。
その後には、
声と身体を、
周囲の者達に憐憫の情を抱かせる程に、
小刻みに震わせながら、
とても小さな声で語りだした。
「……詳しくは言えない。
図々しい願い事をして、
恥知らずなのは百も承知だ、
ただ、今、
アメビックスの名前を聞いて、
ひどく心を揺さぶられている。
敵である貴様に、
縋って教えを乞う事など、本来あってはならないのに、
私は、
ほんの小さな情報でも良いから、
イツカの事を知りたい……。
私の名前は、
東暁李綱、
イツカは、私の肉親、
妹なんだ」
◆◆
♪Baby shambles
『Carry up on the morning 』




