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リンカーネイトリンカーネイトリンカーネイト  作者: にがつのふつか
第五章 『ワールドエンドプレイヤーズ』
173/237

『鍵、或いは。』

※金曜か土曜に更新してます!



「どうじゃ?

何ぞ、有益な情報が有るかの?

ま。何せ、聖域教会の司教様じゃ。

お前(イズナ)が、その辺りの事情を、

いっそも知らんと云うことは無かろ?」


ヤエファは、不穏な足音を潜めながら、

獲物を仕留める補食者の様に、

イズナにそう言って訊いた。


「それは……」


イズナは何かを口にしかけたが、

直ぐに口を接ぐんで、

それ以上は何も言わなかった。


「口を割らんつもりかの?

健気なもんじゃが、わっちには大して意味が無いけ」


「実際のところ、お前(コトハ)が、

ネイジンでリロクに会った時って、

どんな感じだったんだ?」


「うーん。どうだったと言われてもな。

僕がネイジンで、

調査隊のパーティーと行動をしている時に、

突然、襲撃を受けたからね。

(リロク)が教会に所属していたかどうかは、

正直なところ、わからない。

だけど、

ネイジン周辺で魔族が単体で活動する事は難しい。

北方の魔族は、

その殆どが聖域教会に滅ぼされたらしいから」


「ま。教会の命を受けて、

コトハを狙った暗殺者と云うところじゃろ。

魔族の中には人間臭い者も居る。

教会と手を組んで利を得ようとする者も居るじゃろな」


「ちょっと待てよ……、ていう事は……」


「調査隊への協力要請を名目に、

僕をネイジンに誘き寄せて、

始末するつもりだったのだろう」


「マジかよ……! その所為で、

お前(コトハ)アイツ(スイ)は離ればなれに……」


「ま。その目論見も当たらずも遠からずじゃの。

コトハ(中央の魔女)()り合うんなら、

教会の戦力の殆ど失っとっても、おかしくは無いけ。

そのリロク云うのが、どれほどの者かはわからんが、

単体でコトハに挑む様な奴じゃ、

名前を聞いた事は無いが、小物じゃ無かろうし、

能力の相性で、

コトハに勝てる勝算が在ったんじゃろな」


「鋭いね」


「でなけりゃ、

お前が七年も行方を晦ますなんて事にゃならんけ」


「なかなか厄介な能力の持ち主でね。

だけど、今度は敗ける事は無いだろう。

なにせ、ナツメくんが居る。

そして、リロクを倒した暁には、

ナツメくんも、

聖域教会に狙われる立場になってしまうね」


「スキルの発動妨害か。

ま。わっちの兄貴(ロウウェン)を倒したんも、

リクちゃんの能力在っての事じゃしの。

大抵の相手に敗ける事は無かろ」


「その通り」


「ほじゃけど。油断は禁物じゃ。

この(イズナ)も確かに強いが、

お前たちが二人で組んで、

手こずる様な相手じゃあるまい」


「手厳しいね」


「コトハにゃ、この指切り姫(わっち)が、

手も足も出んかったんじゃ。

こげな相手に、してやられとったんじゃ、

わっちは面白う無い。

リロクとか云う魔族の件で懲りんさい。

コトハの能力でも、

相性次第じゃ足元を掬われる云うことじゃ。

少し手を抜く癖が有るんを、

早めに見直す事じゃ」


「反論が出来ない」


「ほいじゃ、この話は終わりじゃ。

コトハとリクちゃんは、

イファルに戻って、スイちゃんたちと合流したら良え。

いまいち、及び腰に思えるイファル王も、

中央の魔女が戻ったなら、

ようやく肝を据えるじゃろ。

聖域教会と正面から戦り合える」


「七年間も留守にしていたら、

世界の様相は随分と変わってしまうものなんだね」


「大概の事は、そういうもんじゃ。

何じゃ?まさか怖じ気づいたかの?」


「まさか。

聖域教会を真っ向から叩き潰して良いんだ。

僕としては願ったり叶ったりさ」


「この世で、その台詞が一番似合うのはお前じゃの」


「ナツメくんに掛けられている、

アメビックスの呪いを解かないといけないしね。

聖域教会とリロクが繋がっているなら、

戦わない理由が無い」


「アメビックス。其奴も魔族かの?」


「うん。ニホンに転移して来ていた魔族だよ」


「世界間の転移を、ニホン人以外が出来るん?」


「詳しい事は解らないけど、

どうやらそうらしいね。

少なくとも、

魔族の間では、既に確立された技術みたいだよ」


「ふうん。魔族に知り合いなんぞ居らんから、

事情は分からんが、

概ね、いけ好かん連中だと云うことにゃ、

代わり無いの」


「因みに、ヤエファは魔族と戦った事はあるのかい?」


「有る。西方に居った時にの」


「じゃあ、彼らの遣り口を把握しているんだね」


「強いて言うなら、

とんでもない自己中心主義と云うことかの。

わっちが見た事有るのは、

どいつも似たり寄ったりな連中じゃ」


「僕も同意見だ。

今、ナツメくんには、

命を脅かす、魔族の呪縛が掛けられている。

訳有って契約を結ばされているから、

その魔族には逆らえない。

リロクを倒す事で、呪縛は解除される」


「先刻から気になっておったが、

見慣れん、その使い魔は魔族のものじゃの。

ご丁寧に監視付きか」


ヤエファが、

リクとコトハの周りを離れない、

アメビックスの使い魔(ウーたん)を指差した。


「僕は魔族を狡猾で残忍な生き物だと思っている。

だけど、それと同じくらいに卑屈で臆病だとも。

彼らは、()()()()()()()()()()んだ。

何度か魔族と戦った事があるけど、

彼ら、或いは彼女らは、

正面から戦うと云う発想が無い。

如何に強大な力を持っていたとしても、

自分の手を汚したがらない」


「同意見じゃの」


「だから、彼らは概ね尊大な態度の割には、

そそっかしく、油断しがちだ。

今、アメビックスにはお返しに、

自分の呪縛魔法を模倣された呪いがかけられている。

とても笑えるだろう?」


「成る程の。リクちゃんか。

自分の能力の使い途を把握したんじゃの。

ほんの、この間まで頼り無かったのに。

これじゃから、転移者云うものは計り知れん」


「そうさ。

僕は転移者と云うものは、

この世界にとっての重要な何かなんだと思っている。

停滞して、混濁する水の流れを、

()()()()()へと、

戻す、或いは変化させていくものだと。

中でも、

ナツメくんは鍵だ。

異能揃いの、この世界の中でも、

彼の能力は特別に異彩を放っているからね」


「それはまた、随分と高く買っておるの?

模倣系の能力者は、他にも居るじゃろ?」


「確かに居る。

だけれど、彼の能力は()()()()()()と云うだけでは無い、

他に何かもっと凄まじいものを感じないかい?」


「妨害スキルの事かの?……まあ、言われてみれば、

かなり特殊な立ち位置だとは思うがの」


「……愚かな!

我々、転移者の能力は、

世界の均衡と調和を構築する為に授かったものだ……、

転移者は……、その為に力を行使すべき欠片で在り、

部品に過ぎない……。

貴様(コトハ)の言う、停滞や変化など、

大いなる意思への、浅はかな反発に過ぎない……、

世界が指し示す正しき標への反発など、

矮小で醜悪な悪でしか無い、

それは、

決して望んではならないものだ……」


コトハは、

未だヤエファの椅子と化しているイズナが、

苦しそうに悪態を吐く姿に、

ゆっくりと視線を遣った。


(イズナ)が何を言っているのか、

僕には、よく理解が出来ない。

善悪の判断を、僕が間違えているのだとしたら、

君の指摘通りなのだろうね。

どちらが正しい事なんてのは、

僕には、よくわからない。

ただ、

僕は知りたい。

転移者、魔法、表裏で存在する世界線、

奇妙なもので成り立っている、

どこまでも歪な巨大な存在。

それを成立させているのが、

君の言う大いなる意思なのか、

女神なのか、

或いはもっと別のものか、

僕の知らない何かを、

僕は知りたい。

唯一、

それに近づき、触れる事が出来るのだとしたら、

その真理への鍵の使い途を知っているのは、

僕の知り得る限りでは、

きっと、

世界の果てで祈りを捧げ続ける、

君たち(聖域教会)だ」


◆◆




♪じん 『チルドレンレコード』

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