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リンカーネイトリンカーネイトリンカーネイト  作者: にがつのふつか
第五章 『ワールドエンドプレイヤーズ』
172/237

『柔らかい椅子、詰問。』

※金曜日か土曜日に更新してます!



「ねえ……。コレどういう状況……?」


眼を覚ましたリクは、

未だぼやけた頭を、

ゆっくりと、

少しずつ回転させながら、

一つ一つの情報を理解しようと試みたつもりだが、

本当に、その場の状況が呑み込めずにいて、

自分の傍らに居たコトハに、

慎重に言葉を繋げながら、

静かな声で訊いた。


「さあ。僕に訊かないでくれ」


コトハはそう言って、短く簡潔に答えたが、

事実だけを伝えた、と云う様子で、

そこには突き放す様な響きは伴っていなかった。


「ようやくお目覚めかの?」


ヤエファがそうやってリクに訊いた。


彼女の独特なイントネーションの口調と、

甘いバニラの香りが、

リクにはひどく懐かしいものに感じられた。


そして、

ヤエファの姿を見た事によって、

手足を震わせて、

歯の浮きそうな言葉が、

思わず口から零れ出てしまいそうな程に、

自分が嬉しいと感じている事に気づいた。


自分がスイ達と別れてから、

実際には殆ど日にちなど経過していなかった筈なのに。


本当は駆け寄って行きたいところだが、

ヤエファの事だから、きっと自分をからかうだろう、

リクはそう考えて、

なるべく澄ました様子を装い、

軽く片手だけを挙げて挨拶をした。


当のヤエファは、

リクの考えている事を、

既にお見通しだと言わんばかりに、

ニンマリと笑っていた。


そげ(そんなに)、じろじろ見られたら穴が開いてしまう」


「いや……、そりゃ見るだろ……」


ヤエファの事を、

飛んだ性格の女だとは思っていたが、

四つん這いにさせた人間の上に、

優雅に腰を掛けた彼女の姿は、

彼女の立ち振舞いや言動を、

殊更に特異なものに際立たせている様に見えた。


ヤエファが遠慮無しに腰掛けている、

その人間はイズナだった。


「何処の女王様……?」


「リクちゃんも座るかの?」


「座らん」


「あ。わっちの事を酷い女じゃと思うたじゃろ?

表面的なところで判断しちゃいけんよ?

こりゃ躾じゃ」


「それ聞いても見た印象と変わんねえよ」


「人間様に腰掛ける云うのも、

なかなか見晴らしが良えもんじゃがの」


自分が気を失っている間に、

何が起こって、どういう経緯で、

そうなったのかは解らないが、

リクは椅子代わりにさせられているイズナの事を、

少しだけ不憫に思った。


「それじゃ、行こうか」


色々な事を考えているリクの事を、

まるで気にも留めない様子で、

コトハは彼の服の袖を引っ張って言った。


「え!? コレ、置いてくの!?」


「そりゃ置いてくよ。

せっかくヤエファが状況を調えてくれたんだから。

忘れたのかい?

僕たちは急いでいたんだよ?

それとも、君はこの嗜虐的な光景を、

まだ眺めていたいのかい?」


「そういうつもりじゃないけど……」


「僕も、そういう方面に明るい訳では無いけれど、

或る方向性に偏った嗜好に興味を持つには、

未だ君には少し早いと僕は思う」


「興味持ってねえよ!」


「どうだか」


コトハは、催促する様にグイッと袖を掴んで、

リクの顔を自分の顔に無理矢理近づけた。


「僕が見る限り、君は健全な男の子そのものだ」


そう言いながら、

決して逸らされる事の無いコトハの視線は、

真っ直ぐにリクの瞳を覗き込んでいた。


「わざわざこの体勢にする必要無いだろ……!」


リクはボソボソと反論し、

案の定、その様子をヤエファが笑った。


「何笑ってんだよ!」


「スイちゃんに言うちゃろと思うての」


「は!?」


「ちょっと待って、

聞き捨てならないな。

ナツメくん。

君、スイとは何も無いと言っていたよね?」


「な……、無いって言ったじゃん!!」


「怪しい。眼を逸らした。

君、ちょっと真っ直ぐ(コトハ)の顔を見てごらんよ」


コトハは至って大真面目に言っている。

少しだけ怒った様な表情を浮かべた彼女の表情は、

鮮やかに彩られた様に、

その美しさを殊更に際立てていた。


「近い! 近い近い!」


「後ろめたい事が有る人間の反応じゃないか」


「こんな近づかれたら誰だってそうなるだろが!!」


「変だ。それに僕は君にずっと感じていた。

僕たちは同級生なのに、

君はどこか僕によそよそしい時がある。

絶対に変だ」


「わざと言ってんだろ!?」


「こう見えても、

短い時間だが僕は君と過ごして、

君に心を許しているつもりなんだぜ?」


「いや……、そうじゃなくて……、

お前……、女だし……」


「……君はまさか、

友達の母親に興奮するタイプだったのかい?」


「違わい!!!」


「あははははは! こりゃやれんの。

いらん事を言うてしもうた。

ほじゃけど、心配いらんけ。

わっちの見立てじゃ、

二人とも色恋なんかにゃ、からっきしじゃけ。

リクちゃん見とりゃ分かるじゃろ?」


「そうそうそう!」


「本当に?隠し事は無いんだね?」


「無い!」


「それよりコトハ。

お前たちは急いどったもんかと思うたが、

こげ、のんびりしとっても良えんかの?」


「急いでいる。

……でも、もうチョコレートは溶けてしまった」


「チョコレート?菓子か?」


「うん。

スイに食べさせてあげようと思っていたんだけれど」


「見た事の無い銘柄じゃの?」


「違う世界のものだから」


「違う世界?もしかして」


「そう。僕が元々居た世界だよ」


「何年も行方が知れんかったと聞いとったが、

ニホンに行っとったんじゃの」


「うん」


「まさかと思うが、

リクちゃんもニホンに居たん?

あげ、忽然と消える様に行くもんなんかの?」


「ナツメくんが転移した時の状況は、

僕には判らないけれど、

僕とナツメくんがニホンに転移していたのは、

リロクと云う魔族の仕業だ」


「リロク?

あのイファルの大平原に魔族が居たんかの?」


「寄生して活動する性質の魔族なんだ。

一見ではきっと誰も解らなかっただろうね」


「ふむ。

まあ……、あん時に居た()()()()なんぞ、一人しか居らんがの」


「心当たりがあるんだね?」


「あの……、ヤエファ姉様……」


会話の途中、痺れを切らせた風にも思える、

甘い吐息を混じらせながら、

喘ぐ様にしてイズナが声を発した。


「……椅子が口を聞いたらいけんと、

言うたつもりじゃったがの。

もちいと辛抱しんさい。

そのリロクとか云う魔族と、

聖域教会、

おそらく全くの無関係じゃあるまい」


「やっぱりそうかな?」


「ネイジンでお前がその魔族と接触して、

ニホンに追い返されたんじゃろ?

ネイジンに魔族が居る時点で、

聖域教会と繋がっとると考えるんが真っ当じゃの」


ヤエファはそう言って、

腰を掛けたイズナの背に深く座り直して、

反応を伺う様に、

苦しそうにする彼女の顔を覗き込んだ。


「どうかの?聖域教会は魔族を飼っとるんかの?」


「それは……」


ろくでもない亜人(ガコゼ)を囲っとったくらいじゃ、

魔族が居ても不自然じゃ無かろ?」


イズナは何も言わなかったが、

荒く呼吸を繰り返している。

その様子から、

ヤエファに逆らう事は、

彼女にとって大きな禁忌であると思っている事が、

どう考えても明らかに判った。


◆◆


♪NEE『本日の正体』


悲しみ。

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