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リンカーネイトリンカーネイトリンカーネイト  作者: にがつのふつか
第五章 『ワールドエンドプレイヤーズ』
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『悪夢の底で。』

※不定期更新中です!



「あ……! 当たったぞ!? やった!! やった!!」


イズナはヤエファにダメージを与えた事を、

顔を輝かせて無邪気に喜んだ。


その様子は緊迫した状況に相応しく無い、

爽やかで晴れやかなものだった。


「ふふ。何じゃ。お前子供じゃの」


ヤエファはイズナの様子に思わず吹き出してしまい、

先程までの殺気が途端に失せてしまった様にして、

顔には優しげな笑みを浮かべていた。


「黙れ!!

どうやら油断した様だな!?

この南方司教イズナ、如何なる障壁が在ろうと、

貴様などに決して屈する事は無い!!」


イズナは先程まで苦戦していた事など、

まるで忘れてしまって、

何事も無かったかの様に振る舞った。


ヤエファはイズナのその様子を見ながら、

自分の脇腹を指で拭った。


ヌルッ。

とした感触の生暖かい血が、

ヤエファの指を赤く染めた。


「ははは。大した傷じゃあ無いんじゃがの?

そげ(そんなに)はしゃがれたんじゃ(嬉しそうにされては)

大袈裟に痛がらんといけんかの?」


「強がりを言うな!!

貴様に攻撃が当たらない仕掛けは全く理解出来ないが、

当てる事が出来る事は判った!!

この勝負……、貰ったぞ!!」


「ふふふ。無邪気じゃ。調子を狂わされる。

まぐれか、何の拍子か判らんが、

同じネタじゃ、次は脳天を貫かれてしまうじゃろな」


ヤエファはそう言って、

幾重にも施された幻術を解いていった。


幻術にイズナは気づいていなかった。


だが、攻撃は確かにヤエファに届いた。


イズナ本人が明言する通り、

ヤエファの実体を感知した訳では無いだろう。


どちらにせよ先程の戦闘で、

紙一重で躱せていた様な感覚からするに、

あのまま続けていれば、

徐々に照準を合わせられる可能性も充分にあったのだ。


イズナの戦闘スキルは高い。

感知能力とは別に、持って産まれた勘が働くのだろう。

それも、恐ろしく鋭く。


(幻術は保険のつもりじゃったが……。

尤も、

あげに(あんなに)、撃ちまくりゃ当たるかも知れんがの)


ヤエファの脇腹に、

ほんの少しだけチクリとした痛みが走った。


出血こそしているが、ダメージと云う程の傷では無い。

しかし、

ヤエファは傷が浅い事を喜んでいる様子は無く、

殺気こそ柔らいだが、

冷静にイズナの挙動を監視していた。


(魔力を圧縮して撃つ攻撃魔法じゃの。

威力は馬鹿高くなるじゃろうが、その分、

命中率は下がる筈じゃが。

こげな危なっかしい代物を、

わっちの多重幻術を掻い潜って当ててくるんじゃ。

小細工でどうにかなる相手じゃあ無い)


「お前。イズナとか云うたの?

約束通り、攻撃が当たらんネタを明しちゃろか?」


「フッ……! 内心動揺している癖に、

強がりは止せ!! ヤエファ!!」


「何じゃ。つまらんの。

知りとうないんか?」


「同じ手は喰らわない!! だから必要が無い!!」


「ま。そりゃそうかも知れんの。

ほじゃけど(だけど)

そりゃ同じ手を使うんならの話じゃ」


「何だと!?」


◆◆


瞬く間に、

イズナは見知らぬ場所に移動しており、

その場に一人で立ち竦んでいた。


確かに見知らぬ場所の筈だったが、

それに矛盾する様にして、

何故だか妙な既視感を覚えた。


その既視感はチリチリと焦がす様にして、

イズナの脳裏を繰り返して往復している。


得体の知れない不快感が、

軽い眩暈と吐き気を感じさせた。


腹の底から声を出して、

それらのもの全てを追い払おうと思ったが、

イズナの怒声は喉の奥で塵屑の様に丸められ、

形を成す事がどうしても出来なかった。


頭の中を、

不気味に羅列された意味の無い言葉が埋め尽くして、

風景への既視感は恐怖へと少しずつ変わっていく。

目に見えない、

気味の悪い怪物が、いやらしくすり寄って来るように。


幾度と無く繰り返して見る悪夢の光景に似ている。


イズナは抵抗を試みるが、

手も足も、まるで思い通りには動かなかった。


怪物の触手が自分の身体を絡めとる妄想が過る。


踠けば踠く程、

意識は黒く塗り潰されてしまい、

両脚は自分の重みを支える事が出来なくなり、

抗え無い程の虚無感をイズナが認知した時には、

既にイズナの身体は地面へと横たわっていた。


呻き声も上げる事が出来ず、

込み上げる吐き気を堪えきれずに嘔吐し、

横たわったままのイズナの顔は吐瀉物で汚れた。


そして、寒気と心細さで、

イズナは追い詰められていく様な寒気を感じ、

鬱蒼とした気持ちに精神を支配され、

いつの間にか涙が止まらなくなっていた。


(寒い……。

……知らない筈の場所なのに、私は此処を知っている。

此処に来てはいけない事を知っている。

何故なら此処は、とても恐ろしい場所だからだ。

私は此処に居てはいけない。

逃げなくては。

でも身体が動かない。

逃げなくてはならないのに、

身体がまるで動かない。

怖い……。怖い……)


イズナの身体はガタガタと震え始め、

喉の奥が嗚咽で揺らされて、

吐瀉物の臭いに再び吐き気を催し、

魘される様にして、言葉を吐き出そうとするのだが、

それは、ただ口から溢れる涎と泡にしかならなかった。


震え続けるイズナの身体が、一際激しく痙攣すると、

か細い断末魔の様な悲鳴を小さく発して、

彼女はだらしなく失禁をし、

その後にはすっかり意識を失ってしまっていた。


◆◆◆


小刻みに痙攣を繰り返すイズナの前で屈んで、

ヤエファが彼女の様子を観察していた。


「堕ちたの。

うまいこと術中に嵌まってくれたもんじゃ」


「一体どんな幻覚を見せたんだい?

酷い有り様だ。少しだけ同情してしまうよ」


コトハが呆れた様子でヤエファに訊いた。


「秘密じゃ。

粋がっておったけど、餓鬼は所詮、餓鬼じゃったの。

本当に怖いもんにゃ逆らえん」


「悪趣味」


「ふふ。わっちは底意地が悪いけ。

ちいと(少し)灸を据えてやったんじゃ」


「まさか死んでしまったりしないだろうね?」


「何じゃ。コトハは優しいの。

心配せんでも死にはせん。

死にはせんが、面白いもんは仕込んでやったがの」


「面白いもの?」


ヤエファは頷いて、

イズナの姿を見る様にコトハに促した。


白目を剥いて、

涎と泡を垂れ流すイズナの姿は、

正直あまり気持ちの良いものと思えなかった。


「ただの幻術じゃあ無いけ。

この女、暫くの間はわっちの言いなりの奴隷(ペット)にしてやった」


ヤエファは、わざと意地悪気にコトハに言ったが、

それについてはコトハは返事をしなかった。


そして、

光を失っていたイズナの瞳に、

ゆっくりと正気の灯りが点された。


◆◆◆◆

読んでくれた方ありがとうございましたー!


今日のBGMは魔法少女幸福論でしたー

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