第十七話『グラスランナーのロロ。』
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不安げな表情を浮かべて三人の前に現れたのは子供くらいの背丈の小さな女だった。
「か、か、勝手に後ろをつけちゃって申し訳ないッス…あの、怪しい者ではないんスけど……」
「いや、めっちゃ怪しくない?笑」
「ご、誤解ッス!!亜人のお姉さん、そ、それ言ったらあなた達の方が怪しいッスよ。む、村の方から来たんスよね?じ、自分、あの村に住んでんスけど」
「あの村に住んでいるんだね?君に少し聞きたいことがあるんだけれどいいかな?」
「うわ…美人……。な、なんスか……?」
「村には誰もいなかったんだけど、君はその事を知っている?」
「し、知ってますけど……」
「一体皆は何処へ行ってしまったんだろうか?」
「な、な、なんであなた達に教えなくちゃなんスか?」
「わたしたちはウクルクから派遣されてこの辺りの調査に来たんだ。女神様の痕跡が見つかったことは知ってるかな?」
「そ、そりゃぁもちろん……。ウィソからたくさん人が来てたッスから……」
「わたし達は痕跡が見つかったことと、村の人たちが居ないことには何か関連性があると思ってるんだけど、どうなんだろう?もし、出来る事なら知っている事を教えてほしい」
「お、お姉さんたちはウィソから本当に来たんすか?」
「うん。わたしはスイ、こちらはユンタ、ここに座り込んでるのがリクだよ」
「じ、自分の名前はロロっていうんスけど……」
「ロロ。よろしくね。それから村の人たちに何も危険が及んでいなければ私たちは良いんだ。何か教えたくないことがあれば、無理に言わなくてもいい」
「い、いや、あの、そんな隠し事はしてないんすけど……」
「?」
「わ、わかったわかった!わかったッスよ!わかったからそんなにじっと見ないで欲しいッス……。あ、あなた顔が整いすぎてないッスか…?お、教えますって!」
「ありがとうロロ」
スイはニッコリと笑ってロロと握手をした。
「………し、しばらく前のことなんスけど……」
ロロはスイに手を握られたまま居心地悪そうに語り出した。
余り他人とコミュニケーションを取るのが得意ではなさそうだった。時折、言葉を詰まらせながら、スイ達が村に来る前に起こった出来事を教えてくれた。
ウィソから派遣された調査隊が引き揚げた後から、それまでは村の付近には現れなかった魔物たちを見るようになり、村の人々は駐屯していた警備部隊に相談をして、営舎に避難をしているのだとロロは言った。
「そ、それで、あの……村にはおじいちゃんおばあちゃんばっかりなんで……みんな、急いで逃げたもんだから……大事なものとかも忘れてきちゃってて……兵隊さんたちは忙しそうだし……自分がたまに村の様子を見に行って取りに行ったりしてるんスよ」
「そうなんだね。もしかして、わたし達が村に着いた頃に君はあそこにいたのかな?精霊に辺りを探知してもらっていたけど全然気づかなかった」
「あ……す、すみません……。お姉さんたちがもしかしたら魔物の仲間かと思うと怖くて……じ、自分、建物の中から隠れて見ていたし……気配を消すスキル使ってたんで……。多分、お姉さんの精霊の影響を受けなかったんだと……」
「なんていうスキルなんだろう?ここまで完璧に精霊の眼を躱されたのは初めてなんだ」
「そ、そうなんスか…?」
「それと、違っていたら申し訳ないけど君はもしかして草原の妖精なのかな?」
「そ、そうッス……」
「そうだったんだね。通りで可愛らしい見た目をしているなと思っていたんだ」
「グラスランナー?」
リクがスイに聞いた。
「グラスランナーというのは妖精の種族の名称だよ」
「たしか魔法の抵抗力がめっちゃ高いんだよねー?」
「そ、そうッス。一応……」
「それでロロは今から営舎に戻るのかな?」
「そ、そ、そのつもりッスけど……」
「村の人たちが危ない目にあっていなくて良かった。教えてくれてどうもありがとう。皆によろしく伝えておいてね」
「お、お姉さんたちは今から何処へ行くんすか?」
「うーん。とりあえず痕跡の見つかった場所に行ってみようと思っているよ。もう何も残ってはいないだろうけれど。もう一人の仲間と合流する予定だったから、野営の準備をして待っていようと思う。何日かあの辺りに滞在すると思うけど良いかな?」
「そ、そ、そうなんスね……。べ、別に構わないと思うッス……。宿屋とかもないし……。今誰もいないし…。あ、あの!!じ、自分良かったら痕跡の見つかったところへ案内するッスけど…?」
「え?いいのかな?でもそんなに離れても無いんだろう?」
「そ、そそ、そうなんスけど、こ、この森、街道通るより脇道を突っ切った方が早くて……。あの…疑っちゃった謝罪も込めて……」
「あはは。別に気にしてないよ。でもありがたく受け取ろうかな。わたし達こそ驚かせてしまってゴメン」
「い……いや、自分は別に……と、ところで……そこの男の子は、ぐ、具合でも悪いんスか……?ど、どっか怪我してんスか…?」
ロロはしゃがみこんで未だ動けずにいるリクを怪訝そうに見た。
「あ、忘れてた。リクにポーションを飲ませないとだったんだ」
「忘れんな!!大体お前らがスキル使えって言うからこうなんたったんだろ!!」
リクがブツブツと二人に文句を言っていると、ロロがリクに近づいてきた。
「スキルの使い過ぎで、ま、ま、魔力と体力を切らしちゃったんスね…?」
ロロは土汚れだらけのマントを身につけて、全体的にどこか薄汚れてはいたが、被っている帽子の下の髪の毛は綺麗な栗色をしており、くりくりとしたとても大きな目の愛くるしい顔つきをしていた。
“有りやな”
ロロの顔を見てリクは心の中で呟いた。
そしてロロが背中に背負っていた楽器ケースからリュートのような弦楽器を取り出した。
随分古く見えたが、凝った細工がしてある美しい楽器だった。
その動作の最中、一瞬たゆんと揺れたロロの胸をリクは見逃さなかった。
“え!?!?待って!?
この子……胸でっけぇぇぇぇぇええええ!!!?
シャオより更にでかくないか!!!?幼い顔とのギャップが……!!来た…。ロリ巨乳キターーー!!!”
「吟遊詩人なんだー?」
「せ、せ、僭越ながら……。ポ、ポーションは取っておいた方が良いッス……。この辺りには、う、売ってる店ないから……」
ロロがそう言いながらリュートのチューニングを終え、全部の弦の音を確かめて、スゥッと息を吸い込むと、弦を爪弾きながら歌い出した。
「♪遥か遠い昔の出来事 傷つき疲れた一人の騎士が 辿り着いたは妖精の都 美しい花の様な妖精たちに囲まれ 騎士は深い愛と癒しを得たのだとさ」
───『蜜とミルクの花唄』
ロロが歌い終わるやいなや、甘い花蜜の香りが漂い出し、リクは自分の渇いた身体が潤いに包まれていく様な感覚を覚えた。
「あ、あの…どうッスかね……?体力と、魔力を回復させる呪歌なんスけど……」
「す、すげえ………。足ガックガクで全然力入んなかったのに!」
「そ、そりゃ良かったッス……」
「ありがとうな、ロロ」
ロロは少しモジモジとしながらリクの方を見ずに言った。
「……と、とんでもないッス…」
そして歩ける様になったリクが立ち上がり、四人はロロの案内で街道を外れて森の奥深くへと進んでいった。
「すげーじゃん、ロロ子。あんなにヘロヘロになってたのに回復させちゃった」
「たしかにすごいね。ウィソでも旅の吟遊詩人を見た事があるけど、君はスキルの熟練度がかなり高いんじゃないかな?」
「……い、いやいやいや……。取り柄がこんくらいしかないもんで……」
「えーーーロロ子ウチらのパーティーに入れば良いじゃん?ちょーど後方支援の役おらんし。リクっちが一発スキル使うたんびこれだと尚更じゃね?」
「わたしもそう思う。ロロ、どうかな?」
「え?!い、いやぁ……自分どんくさいですし……。お、お役には立てないんじゃないかな……はは……」
「どんくさいだなんて、そんなことは決して無いよ。リクを見てごらん?今のところスキルを1度使うだけで力尽きてしまう。パーティー最弱のお荷物なんだ」
「余計なこと言わなくていーんだよ!」
「そいやさーロロ子はあの村に昔から住んでるん?」
「い、いや……自分は父親といろんな国を放浪してまして……。そ、それで父親が、ち、ちょうどあの村で病気になって、死んじゃったんで教会で埋葬してもらったんス……。そ、それから、教会でお手伝いしながら、なんとなく住みついちゃって……」
「お手伝いってーーー?」
「あ、そ、それは村の人のお手伝いしたりとか……牧師様のお世話とか…村のお祭りとか……教会の催しの時に伴奏をしたり……。あ、あの……ユ、ユンタちゃん?じ、自分、ひとつ聞いていいッスか…?」
「なにーーー?」
「ユ、ユンタちゃんって猫の亜人……でいいんスよね…?」
「そだよー」
「あ、あの……じ、自分、父親にちょっと問題多くて……。
そ、それと、に、人間じゃないってのもあって……人間の街で暮らしてると、昔から、さ、差別みたいなの、よ、よく受けてて。ど、どこに行っても、な、仲間外れにされたり……い、いじめられたり……そ、それで父親と逃げるようにあちこちいろんな国に……」
「あるよねー。ウクルクもさ、今の王様になる前は亜人てどこ行っても歓迎されてなかったから」
「で、ですよね……!それだから、じ、自分ちょっと、こんな感じになっちゃうっていうか……。に、人間が少し怖いっていうか……。
だ、だから!自分は……。ス、スイちゃんと、リクくんは人間なんスよね…?ど、どうして、種族が違うのに……。
し、種族が違うってだけで、す、すごく毛嫌いする人たちをたくさん見てきたから……そ、そんな人たちってたくさんいると思うんスけど……。
ど、どうしたら仲良く出来て、パ、パーティーを組んで旅に出れるのかなぁって……。す、少し、羨ましい……」
「えーーー?あんまり深く考えたことないからなー。昔は人間クソだなって思う事が多かった気もするけどねーー」
「で、ですよね……。な、なんか自分は、そ、そういう気持ちがなかなか忘れられなくて……。さ、三人はとても仲良しそうで……」
「スイはちっちゃい時から知ってるしーー。いいヤツだしーーー。リクっちもアホだけど面白いしーー。人間にはいいヤツらもいるって知ってるから。昔ウチを平気な顔して差別してたヤツらと、今仲良くしてくれてる、この二人とか、周りの人たちは全然違う人間じゃん?」
「え、ええ……」
「だから、人間だから亜人だからどう。ってのはウチはもうあんまり気にしてないのかなーー?って今ロロ子に聞かれて思ったかなーー?」
「………」
「あれ?ゴメン?なんか欲してた答えとは違ったーー?」
「い、いえ……。じ、自分こそ……急に知り合ったばかりの人にゴメンなさい……」
「気にすんな。やっぱさーーロロ子、ウチらのパーティー入んなよ?スイもリクっちもさ、あともう一人女の子がいるんだけど、みんな良い子だし、楽しいよ?」
「リ、リクくん以外女子ッスか……。ハ、ハーレムじゃないッスか……?」
「あ、つってもウチもパーティーに入ったの昨日なんだけど笑。ゴメン、スイ勝手に話進めてーー」
スイが笑いながら言った。
「全然かまわないよ。ロロさえ良かったら、わたしは歓迎するよ」
「お、俺も!!俺、差別とかそういうのよくわからんけど、なんか……さっきの話、むかついた!そんな事するヤツ俺たちのパーティーにはいないから、その……。とにかく仲良くしよう!」
「まーー嫌んなったら抜けりゃ良いじゃん?でもきっと楽しーよ?」
「………。な、なんか皆さんめっちゃ良い人ッスよね……。だ、だからかな………。な、なんかついつい話聞いて欲しくなっちゃったんスかね………」
「色々溜まってんのかーー?身体に毒だぞ?」
「ユ、ユンタちゃん。さ、誘ってくれてありがとうッス……。ス、スイちゃんも受け入れてくれて……ありがとう。リ、リクくんも、見ず知らずの自分の身の上話に怒ってくれて……ありがとう」
「エモッ。なんだよーー。気にすんなってーー」
「ほ……本当にそうなれたら……ど、どんだけ楽しいかなって考えちゃったッス………。ほ……本当にみんなの仲間に入れてもらえたら……自分……」
ロロは俯いて足を止めた。
「ロロ?」スイがロロの肩に手を触れて心配そうに声をかけた。
「ほ、本当に……そ、そ、そういうことが出来たなら……。
よ、良かったんスけど……」
「何か事情があるんだね?」
スイが手を置いたロロの肩が少し震えているのようだった。
「ご……ごめんなさい……ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……。じ、自分はやっぱりこういうヤツなんス………あ、あの嘘つきのろくでなしの父親とおんなじなんス……。だ、だからみんなに嫌われてて……。だ、だからいつも焦って……よ、余計なことばっかりしちゃって……結局、いつもこういうことになっちゃうんス………」
ロロはもはやブルブル震え出し、大量の汗をかいていた。
「ロロ?大丈夫かい?少し座って休もうか?何か嫌なことを思い出させてしまったなら本当にごめん。少し休んでから、落ち着いたらまた行こう。ね?」
「ス、スイちゃん……。ち、違うんス……本当に、ほ、本当に本当にごめんなさい………。や、やっぱり!自分みたいなヤツ……皆さんにはふさわしくないんス……!や、優しくしてくれて……ありがとう……。み、みんなと……も、も、もうちょっと……早く知り合えてたら良かったッス……!こ…こういう形じゃなくて……。やっぱり……自分は一緒には行けないッス……!!」
ロロが震えながら、そう言い切った刹那、スイはロロ越しに虚空をキッと睨み付け、大きな声で言った。
「リク!!!ユンタ!!!気をつけてくれ!!誰かいる!!!」
スイが睨み付けた方向から詠唱が聞こえてきた。
「汝の言葉を封ずる。汝が理に触れること、真理を読み解くこと、その全てを行使すること、我が汝の根に命じて禁ずる」
(また気配に気づかなかった……?)
スイも詠唱を始めたが既に遅かった。
───『静寂の魔封じ』
(魔法封じの術だ……!待ち伏せされていたんだ…!)
耳鳴りの様な音が聴こえた後、スイが詠唱を終えても魔法は発動せず、いつも自分の周りで聞こえている精霊たちの声も遠くなっていく感覚がした。
そして二つの人影が現れた。
一人はジッパーのついた黒の不気味なマスクを口につけた黒づくめの服装の男で、浅黒い肌と尖った耳をしていた。おそらくダークエルフなのだろう。もう一人は上半身は下着だけを着けて魔女のような帽子をかぶった肌の赤い女だった。こちらも普通の人間では無さそうだった。
「おめぇら、二人とも強い術師らしいがなぁ。こうやって魔法を封じられちまったらどうしようもねぇなぁ?ああん?」
男はジッパーを開けて喋り出し、そのマスクの下の口元はニヤニヤと笑っていた。
「な……なんだよコイツ!?ス、ス○ップノットかよ!?」
「お前ら、もう諦めるしかないと思う。何故ならツァンイーの魔法は強いから。とツァンイーは思う」
赤い肌の女が言った。
“クソ……!なんだよこの異種族魔女っ子……!しかも上の服着てねーじゃん!ビキニみたいなのつけてるだけじゃん!!緊迫した場面なのにおっぱいに目が行って集中出来ない…!!クソ!俺のバカ!”
「そこのスケベそうな顔している男。許可なくツァンイーを見るな?殺すぞ?とツァンイーは思う」
「な!?だ、誰がスケベだ!!?」
「リク。下がって」
スイがそう言ってリクを守るようにリクの前に立った。そして突然現れた二人組に言った。
「随分な挨拶だね?ところで君達は誰なんだろう?」
「お前は俺達のことを知らねえだろうがよ、俺ァお前らのことをよーーく知ってるんだぜ?」
「質問の答えにしてはわかりづらいな。誰かに頼まれて、わたしたちのことを待ち伏せしていたのかな?」
「お前ら、女神の痕跡のことでウクルクから送られて来たんだろう?お前は精霊術師で、亜人の方は召喚術。そっちのガキはニホンから来たんだってなぁ?」
「参ったな。君とは話がどうもうまく噛み合わないな。そうだよ。よく知っているね。だから、わたしの精霊の対策も立てれたのかな?」
スイが尋ねると、ツァンイーが口を挟んだ。
「ゴアグラインドは頭悪いバカ。話下手だから代わりにツァンイーが教えてやる。その方が良いとツァンイーは思う」
「ありがとうツァンイー。お願い出来るかな?」
「わかった」
「誰がバカだぁ?!!ああん?!もういっぺん言ってみろ?!」
ゴアグラインドと呼ばれた男が怒声をあげた。
「そういうとこだとツァンイーは思う。
ツァンイーたちも派遣されてここへ来た。お前たちが来るしばらく前に。それでツァンイーたちをここへ派遣した人がお前たちの事を教えてくれた。ツァンイーたちもその人に言われて女神の痕跡のことを調べに来た。今回ここで見つかった痕跡は大きかった。破片が少し残ってる可能性がある。だからお前たちに先を越されてしまわないように殺す計画を立てた」
「なるほど。君たちに指示を出した人物というのが気になるね」
「そこまでは教えられない。とツァンイーは思う」
「クックック……。女神の痕跡を手に入れたいのはどこも一緒だからなぁ……。お前らも、どこの国も、この世界の全部がそうだぜ……。俺達、具現派魔術師もなぁ!!」
ゴアグラインドが血走った目でそう叫んだ。
「キモいんだけどー笑」
ユンタが軽口を叩きながら後退りをした。
「具現派魔術師?
とにかく目的は一緒ってわけだね。無益な争いはしたくないんだけど、君たちは魔法を封じたくらいで、わたし達を簡単に倒せると思っているのかい?なにか奥の手があるかも知れないよ?」
「は!!強がんなって。お前もそこの亜人もさっきから魔力を練ろうとしてるけどうまくいかねぇだろ?」
「バレてるーーー」
ユンタが舌を出して頭をコツンとするようなポーズを取った。
「ククク。こうもすんなり罠に嵌まってくれるとはなぁ?ロロ!お前のおかげだぜ、サンキューなぁ?」
「ロロ子?え?コイツらの仲間なん?」
ユンタがロロに尋ねた。
「ユ、ユンタちゃん……。ご、ご、ご、ごめんなさい……。じ、自分はこういうヤツなんス……ほ、本当にごめんなさい……!!」
「ニャッハーーー。マジかーー全然わかんなかったわ。役者になれんじゃね?」
「あ、そうか。ロロは気配が消せるスキルを持っていたんだっけ?それでこの二人もうまく精霊の探知をかわせたんだな。一本取られたなぁ」
「な……なんでそんなに呑気なんスか……??こ、この人たち、本当に怖い人たちなんスよ……?!」
「そ、そーだよ!!お前ら魔法使えないとヤバいじゃん!早く逃げようぜ?!」
「やれやれ。リク。少しは落ち着こうか?慌てたってしょうがないことっていうものは世界に少なからず有るとわたしは思っているんだよ」
「今?!今、ほんとーにその時かなぁ?!この状況で?!」
痺れを切らしたゴアグラインドが怒鳴った。
「ゴチャゴチャうるせぇぞ!!?それに女ぁ!!もっと怖がれよ?!!泣き喚けよ?!!」
「ほらね。あの彼はとっても頭に血が上りやすそうで与し易そうだよ?あの手の輩は自分が優位に立ったと思った瞬間それを疑うことをしなくなるからね、隙なんて幾らでもありそうじゃないかい?」
「んだとゴラァァァ!??おちょくってんのかぁぁ?!!」
「この女、魔法封じの効力が切れるのを狙って話をわざと引き延ばしているとツァンイーは思う。奥の手があるかどうかは知らないけど、そうはさせない。先に仕掛ける」
ツァンイーが詠唱を始めた。
「均衡は世の常に非ず。空も大地も子も親も全てを灰に還し、混沌の名のもとに積み重ねられし余多の屍を。汝、冥府の炎による罰を受け、焼けただれた血と肉を持って償え」
「ロロ子!!リクっち!!!」
───『冥府の焦熱』
スイとユンタがリクとロロの腕を掴んで逃げ出そうとした瞬間、辺りは一瞬にして真っ白な光に包まれ、ものすごい熱風と巨大な爆風に四人は吹き飛ばされてしまっていた。
森の木々は薙ぎ倒され、地面は抉られ、辺りは凄まじい熱波に襲われた。そして魔法の直撃した場所はパチパチと唸りをあげる火の粉と、不吉の象徴のような黒煙をあげていた。
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