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リンカーネイトリンカーネイトリンカーネイト  作者: にがつのふつか
第五章 『ワールドエンドプレイヤーズ』
166/237

『ジェンガ。』

※不定期更新中です!



「フッ……! 手加減は無用と思っていたが、

こうもあっさりと決着が着くとはな」


イズナはリクを見下ろして、

嘲笑う様にして言った。

リクの表情はよく見えないが、

ひょっとしたら脳震盪でも起こしているかも知れないとイズナは思った。


魔力を操作している様子も無く、

反撃の出来そうな状態では無さそうだった。


あまりの呆気なさに拍子抜けしたが、

コトハが居る限り油断は絶対に出来なかった。


細心の注意を払いながらコトハの様子を伺うと、

彼女がまるで動じていない事が少し引っ掛かったが。


「勝負は勝負だ。私の勝ちだな?」


「それは(ナツメくん)に訊くべきじゃないかな?」


「なんだと?」


イズナがリクの方を振り返ると、

(うずくま)っていた筈のリクが既に立ち上がっていた。


顔の半分を痛々しく腫らして、

鼻と口からは血が勢い良く溢れていた。


「フン……!

ノーガードで受けた割にはダメージが浅かったか?

ひ弱そうに見えて、本当は守備力が高いのか?」


「……滅茶苦茶痛かったよ、この野郎」


「だろうな。

かろうじて立ち上がったところで私はもう一度、

貴様に拳を叩き込むだけだがな。

その様子では次の一撃で終わりだろう」


イズナの言う通り、

打撃を真面に受けたリクは立っているのがやっとの状態だった。

まさしく脳を揺らされる様な重たい一撃は、

余すこと無くリクにダメージを与え、

彼は意識の半分を失っている様な感覚に陥っていた。


膝が笑う様に痙攣する。


痺れた脚で身体を支える事が、

こんなにも困難なものであると、

リクはこの時に初めて知った。


(俺はマンガとかゲームの主人公じゃねえんだ……。

イズナの言う通り、俺は戦闘慣れしてない)


───『所有者(ユーザー)に与えられたダメージに因り、派生スキル“経験に因む(ヘンドリックス)”を取得。所有スキル“解析”が能力上昇。

それに伴い、派生スキル“仮説の組立(ジェンガ)を取得”』


第一の声(ナビゲーター)がリクに語りかける。


(戦闘慣れしてないから、知らなかった。

戦闘中の何かがトリガーになって……、

多分、殴られるとか、攻撃受けるとかのそっち系で!

俺のスキルはどんどん成長出来る!!)


そういえばスイとスキルの鑑定をした時に、

鑑定士にそんな事を言われたな、

と、リクは思い返していた。


そして、散々な鑑定結果で落ち込む自分を、

スイは涙が出る程に笑い倒していた。


思い出しても少しだけイラッとするが、

もう随分長い間、スイに逢っていない気がする。


(成長したなって、言ってもらえるかな。

何だろ、無性にアイツ(スイ)に逢いたい)


自分で言って恥ずかしくなる様な台詞が頭に浮かんで、

リクは少しだけ口元がニヤニヤとしてしまった。


大体、自分がこういう状態の時にはすぐに誰かに突っ込まれてしまうのだが、

それでも、まあ良いと、なんとなくそう思えた。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「何をニヤニヤしているのかは知らないが、

次の攻撃で貴様は確実に死ぬ。

……転移者には()()()()だが、この世界はゲームやマンガとは違うぞ?

都合良く蘇生したりは出来ない」


それを聞いてイズナの発言の真意を確かめる様に、

リクはコトハに視線を送った。


コトハは何も言わなかったが、

おそらくイズナの言う通り、死んだからと云って、

簡単に蘇生出来る訳では無いのだろう。


『だからと云って、怯える必要は無い』


リクの中で、もう一つの声が響いた。


第二の声(インストラクター)か?』


『その通りだ。夢の中でないと、信じられないか?

だが、これが真実だ。

お前(リク)のスキルが発育を展開していったお陰で、

俺の声は、よりお前に届き易くなった。

喜んで良い事だ』


『何か教えてくれんのか?』


『当たり前だ。俺の役割はそれだ。

俺は俺の役割に忠実だ』


『じゃあ教えてくれ。さっき手に入れた能力の使い方』


『良いだろう。もとより、そのつもりだ』


僅かな動作も、衣擦れの音も、大地を蹴る仕草も無く、

イズナは再び縮地魔法に依ってリクの眼前に現れた。


イズナの打撃は、

本人の言う通り、

魔力を込めただけの簡素な攻撃だったが、

長い手足(リーチ)を活かした、

間合いの取り方が異様に巧かった。

仮に見切られたとしても、

縮地魔法も相まって、

相手は必ず間合いを見誤るとイズナは確信していた。


「何か企んでいるな!? だが、遅い!!!」


イズナの拳はリクが視界で捉えられる様な速度では無かった。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


()ず第一に、お前は一度、

あの攻撃を受けている。

経験に(のっと)る。

そこでお前は気づき得る事がある』


『……経験ったって。ぶん殴られただけなんだが……』


そう言いながらも、

リクは意識の外からの力の様なもので、

イズナの攻撃の軌道を何となく読み取れそうな気がしていた。


───『解析を行います』


第一の声(ナビゲーター)の声が響く。


『解析が完了しました。

通常の打撃に加え、

攻撃魔法に近い魔力が込められた攻撃です。

攻撃魔法の属性は光。

理論上、手持ちのスキルで相殺は可能です』


捲し立てる様に伝えられたその言葉を聞いた時、

時間の感覚が溶け出していくようだった。


そして、平面、立体、遠近、

ありとあらゆる像を映し出した、

仮想空間の中に浮かび上がる図面の様なものが、

リクの脳内に様々な情報と共に流れ込んできた。


全て予測の概算とする、と前置きがあった上で、

イズナの移動速度、

魔力の残量、

攻撃の威力、

その軌道、

攻撃を耐える為には、

回避出来る間合いの距離、

その為にどれくらいの速度で、どう動けば良いのか、

また、

イズナの攻撃を相殺する為、

リクの取るべき行動をフローチャート化したもの、


そして、リクの新しいスキル、

仮説の組立(ジェンガ)』が発動された。


ナビゲーターやインストラクターの声とは違い、

直接、頭の中に映像が流れ込んでくるが、

その映像はまるでリクに語りかけるかの様だった。


映像は選択を迫ってくるが、

この状況から云って、

選択の余地は殆ど無い様だった。


『解析の完了だ。

そして、理論上の仮説は立った。

後は証明をするべきだ。

お前がそうする事で、

()()()()()()()()()()()()()()()()()()


第二の声(インストラクター)はリクにそう告げた。


(要するに腹を括るしかないって事だな……)


音の速さと同等の様に思えるイズナの拳が、

リクの顔面を完全に捉えたと思ったその瞬間、


───『浮遊魔法(レビテーション)!!!』


リクの身体が後方に跳ねる様にして浮遊し、

イズナの拳の直撃を微かにズラした。


「何!?」


必ず当たると思っていた攻撃が外れ、

イズナは思いの(ほか)驚愕してしまい、

リクの行動を予測する事が出来ず、

彼の動きを見誤った。


「ブッッッッ!!」


突如、

リクが口から吐き出した血を顔面に吹き掛けられ、

視界を奪われてしまった。


魔力感知に切り替える事も出来た筈なのだが、

思わず攻撃の手を緩める程に、

突然の事にイズナは動揺していた。


「媒体があればよ、

お前にも俺の魔法が効くと思うんだよな!」


「まさか……、貴様これを狙っていたというのか!?」


リクは口に回った鼻血を地面に吐き出して、

ニヤリと笑った。


「フッ……。

んな訳ねーーーだろ!!」


───『隷縛の契約(バンディグ)!!』


リクの呪縛魔法が、

イズナの身体を魔力に依って縛りつける。


◆◆


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