『魔女少年司教。』
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血液が身体の中を循環していく感覚に似ている。
魔力が爪先にまで這って行く様にして、
じんわりと張り巡らされて行く。
それを感じると、リクは少しだけ高揚していた。
既に操作魔法にかけられ、
脱け殻の様になった兵隊達の肉体を縛り付けるのは、
非常に容易い事だった。
リクの呪縛魔法に因って、
行動を制限された兵隊達を見て、
イズナは驚愕していた。
「バカな!?
魔法で支配された人間に、呪縛魔法の上書きだと!?」
「流石だよナツメくん。
アメビックスの呪縛魔法を派生させて、
魂を縛るだけじゃ無い、別の使い方をしたんだね」
───『派生スキル“傀儡の檻”習得しました』
第一の声が、リクにそうつげた。
「ああ。……でも、魔力の制御がムズいかも。
コイツらの喰ったチョコレートが消化されたら、途端に解けるかも知れないぞ」
「上出来さ。
これで、イズナの操作魔法の欠点が証明出来た」
「欠点だと!?
バカな事を言うな!?
仮に魔法の上書きが可能だとしても、
私とその男には大きな魔力差がある!!
通常であれば、効力判定は魔力の強い方が勝つものだ!!」
「だけど、実際にはナツメくんの魔法が勝った」
「ただの偶然だ!!」
「果たしてそうかな?
もし本当にそう思っているなら、
君はナツメくんの術式の本質の恐ろしさを理解しきれないだろうね」
コトハはそう言いながらも、
リクに目配せをしていた。
───油断はするな。
(きっと、そう言ってるんだろう)
リクはコトハにだけ伝わる様に微かに頷いてみせた。
「おい! 貴様!
貴様も天恵者か!?
一体何をした!?」
イズナは明らかに苛立っているが、
冷静さを欠いていると云う様子では無かった。
(イズナの本当の能力は多分コレじゃない。
俺のスキルで解析をした時には、
攻撃魔法のスキルだった筈だ。
まだ奥の手は絶対に隠してるんだ)
リクはそう考えながらイズナに返答をした。
「見て解んないのかよ!? 俺もチートだ!!
すぐにケリつけてやるから、降りてこい!!」
「……私を余り舐めるなよ!!」
イズナが怒気を孕んだ声と共に、
高められた魔力を発すると、
それはリクを圧倒する強烈な威圧感を与えた。
「お前こそ、あんまり舐めんな!!
それにな……、
コイツにチョコ代返せバカやろー!」
それを聞いたコトハとイズナは眼を丸くした。
「ぷ。
ナツメくん。気持ちは嬉しいけれど、
この緊迫した場面で、
その台詞はなかなか滑稽だね。
あはは。君は面白い奴だなぁ」
「ふざけるな!!
チョコを勝手にばら撒いたのはそっちだろう!?
何故、私に請求するんだ!?」
「うるせー!
コイツのチョコは特別なんだよ!!
大事な奴に渡すものだったんだ!!」
「それなら、何故ばら撒く!?
意味がわからん!!」
「あはははは。良い。ナツメくん。
かっこいいよ? あはは」
リクの啖呵にイズナは困惑し、
コトハは楽しそうに笑い続けた。
そして、イズナはリクの魔力を精査し、
決して侮らない様にしなければならないと用心した。
(この男はどこか底が知れない。
戦闘タイプでは無いのだろうが、
能力があまりにも未知過ぎる。クソッ)
イズナは兵隊達の操作を改めて試みてはみたが、
リクの呪縛魔法に入り込む隙がまるで無さそうな事を察すると、
兵隊達にかけた自分の魔法を解いた。
魔力の無駄な消費だ、とイズナは考えた。
しかし、判断は出来たが納得は出来ず、
自分の能力がリクの魔法に及ばなかった事を、
口惜しく感じた。
イズナの自負と自信は、
少したりとも欠けてはいなかったが。
そして連帯感の様なものに拘りがあるのか、
兵隊達に心の中で、
共に最後まで戦えなかった事を謝罪していた。
もし、コトハ達にそれが聞こえていたら、
冗談のような独白に思えたかも知れない。
イズナは、単体で戦った方が強い。
何故、頑なに操作魔法を使うのかは、
おそらくコトハにとっては理解に苦しむ行動だった。
イズナは城壁から再び飛び降りて、
コトハとリクの前に立ち塞がった。
明らかに、先程よりも戦闘の姿勢を強固にしている。
「……一応、勧告しておくが、
私を含め、聖域教会は転移者には寛容だ。
それは、私達が持つ類い稀な能力に裏付けされた確かな事実だ。
尤も、教会への信仰が大前提ではあるがな。
悪い事は言わない。
お前達二人が転移者ならば、
聖域教会への入信を私は勧める。
それには、無益な血の流し合いを避ける意味も含んでいる」
「随分、回りくどい言い方をするもんだね。
でも、悪いけれど僕達は聖域教会には入らない」
「理解しているとは思うが、
聖域教会は、この世界で最高峰の戦力を有している。
どの国と比べてもだ。
幾ら、中央諸国が結託したとしても、
それは揺るがない」
「強者には黙って従えと云う事か。
色々と忠告をありがとう。
でも、僕も君にひとつだけ伝えておく事がある」
「なんだ?」
「そういう考え方が、僕はこの世で一番嫌いだ。
そんな思想はさっさと無くなってしまった方が良いとさえ思っている」
「そうか。ならば、致し方あるまい」
中央の魔女と南方司教は、
互いに睨み合い、
強者のみがもつ、圧倒的な威圧感を持って、
威嚇の為の魔力の放出と共に、
天地が揺らぎそうな錯覚に陥る程の牽制を始めていた。
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更新頻度がめちゃくちゃに下がりましたが、
引き続き読んでくれてありがとうございます!
ブックマーク増えて、評価下がっちゃいました!
ショック




