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リンカーネイトリンカーネイトリンカーネイト  作者: にがつのふつか
第五章 『ワールドエンドプレイヤーズ』
163/237

『バスタードチョコレートメルトダウンスタビライザー。』

※不定期更新中です!



魔力の炎を纏った兵隊達が、

イズナの号令に合わせて規則正しく身体の炎を揺らし、

女神の名を叫びながらコトハとリクに再び斬りかかった。


コトハはリクを守る様に、

詠唱をして風の如く駆けると、

周囲の兵隊達の、

炎が発現していない身体の部位を即座に見分け、

軽く触れる様にして回った。


コトハに触れられた兵隊達は、

圧縮された少量の魔力を身体に流し込まれ、

小さく悲鳴を上げると次々に気を失って倒れて行った。


コトハの一連の動きは、

日本でリロクの使い魔達と戦闘した時とは、

比べものにならない程に流麗で、鮮やかだった。


リクはコトハの戦闘に見惚れてしまいそうになりながらも、自分に槍を突き立てようと突進してくる兵隊を躱した。


しかし、上手く躱せた様な気がしたが、

僅かに上着が焦げてしまっている。


リクは匂いと火の気配に慌てて、

焦げた箇所を手で払った。


「今のよりも、もう半分くらい身体を傾けると良いよ。

魔力を纏った武器だからね、

視認出来ないとしても、

そこに炎が在るとイメージをするんだ」


コトハがそう言いながら、

後方から奇襲を仕掛けた兵隊の攻撃を避けた後には、

あっという間に三人の兵隊が地面に突っ伏していた。


「わ……、わかった!!」


リクの背後から斧を振り上げた大柄な兵隊の横っ腹を、

コトハが素早く移動して蹴り飛ばした。


プロレスラーの様な体躯の男が、

コトハの華奢な脚で蹴られて、

まるで重さの無い紙のように吹き飛んで行った。


部屋着の短いショートパンツから伸びる、

色素の薄いコトハの真っ白な脚。


「今のは脚に衝撃波を産む魔法を纏わせていたんだよ。

そうすると僕みたいな非力な奴でも、

こんな大男を蹴り倒せる」


コトハの解説が入ったが、

リクの耳にきちんと入っていたかは定かでは無かった。


リクが以前から思っていた事だが、

コトハの脚は美しかった。


リクの視線が自分の脚に行っている事に気づくと、

コトハはリクをゲシゲシと爪先で突ついた。


「やめて! 言い訳くらいさせて!?」


「話を聞く時くらい、

エッチな考えを止める事は出来ないのかい?

こういうのは見えてても見ないのがマナーだ」


「だ……、大体お前がそんな短いの履いてるからだろ!」


「そんなの痴漢の発想だ」


二人がやりとりしている間に、

のろのろとした遅い動作だったが、

打ち倒した筈の兵隊達が次々と起き上がって来ていた。


「未だ生きてるぞ!?」


「殺してないんだから当たり前だよ。

それでも、普通の人間なら動けなくなるくらいのダメージは与えた筈だ」


兵隊達は気を失っている様子もなく、

各々が武器を手に取り、再び二人に襲いかかろうと周りを取り囲み始めていた。


「どうする……?『妨害』で能力を封じるか?」


「いや。未だやめておこう。

能力を封じたとしても、

イズナの迅さに僕達はついていけない」


「お前の能力でもか?」


「スピードだけなら、

あんなに迅い相手と出会した事が無いね。

僕の能力は相手の姿を認識出来ないと意味が無いから」


「まずいじゃん」


「君の『妨害』で能力を封じて叩くパターンが、

通じない時もあると云う事だよ。

それに君のスキルレンタルも、

あの手から放つ光が相手を照らさないとだろうから、

イズナの動きを止める必要がある」


「どうやって?」


「彼女が操作魔法を発動している間は、

縮地魔法が使えない可能性を狙うか、或いは」


「或いは?」


「僕の考えた君の必殺技で、()()()()()()()()()()()()()()()()


「へ?俺の必殺技?」


「君もなんとなく判るんじゃないかな?

自分の能力の使い方を把握し始めているし、

君は僕が思うに器用だ」


「そんな勝手に……」


◆◆


「フッ……!

ハァーッハッハッハ!!!

中央の魔女だか何だか知らないが、

(イズナ)が炎を灯した兵士達は決して倒れる事は無い!!

その身が朽ち果てるまで、

女神の大いなる意志に従い、

神の尖兵として殉ずるのだ!!」


「勝手な事を。ナツメくん。

よく見ておくんだね。

これがこの世界の聖域教会って連中さ。

利己的で他者の尊厳や、

生命を踏みにじる事に一切の躊躇を持たない。

腐敗しきっている」


「黙れ。貴様(コトハ)には到底理解出来まい。

女神の大いなる意志に自己を捧げる事こそが、

我らと女神を繋ぐ唯一の絆なのだ。

そして、その絆こそが、

女神が我らに与えて下さるであろう、

絶対的な救済と成る」


「気持ち悪い」


熱弁するイズナに向かって、

ポツリとコトハが呟いた。


「なッッ!? 貴様!?

女神への侮辱は許さんぞ!!?」


「女神を侮辱しているんじゃない。

君達の事を軽蔑しているんだ」


「同じ事だが!?」


その間に、ゆらゆらとした動きをしながら、

操られた兵隊達が二人をすっかり取り囲んだ状態で、

イズナの号令を待った。


「フッ……!

まあ良い!! 女神と教会への不敬の罪、

今ここで断罪してやろう!!

この南方司教イズナがな!!」


「この兵隊達を殺してしまったら、

それはまたそれで罪だと言われるんだろうね」


「当然だ。

我らは女神の使いだぞ?

言語道断だ」


「君達の尺度の罪なんて、

僕にはどうだって良いんだけどさ」


そして、

コトハは手にしたビニール袋から板チョコをひとつ取り出して、包み紙を剥がすと、

慈しむ様な眼でそれを眺めた。


リクにはその表情が少しだけ物悲しそうなものにも見えた。


「それでも、僕だって()()に恩義を感じていないわけじゃない」


「彼女だと?

まるで女神と知り合いかのような言い種だな?」


イズナが突っかかる様に言い返した。


「君と僕とでは少し彼女の存在の捉え方が、()()()()()()()()()

話していてよく解る。違和感に近い」


「……何を言っているのかよくわからないのだが」


「転移者といっても、

君と僕とでは違う部分があると云う事さ」


「……戯言を!!」


イズナが眼を見開いてそう言った瞬間、

コトハは手にしたチョコレートを手で砕くと、

撒くようにして空中に放り投げた。


───チョコレートに魔力の熱を込めて。


熱されたチョコレートは、上手い具合に溶けながら空中で回転し、スプリンクラーの様になって、

放射線状に撒き散らされた。


小雨の様な粒のチョコレートが、

甘い匂いを辺りいっぱいに拡げていった。


それはコトハ達の周囲を取り囲んだ兵隊達の顔に飛び散ると、甘い匂いにつられてか、

兵隊達は口の周りについたチョコレートを思わず舌で舐めてしまっていた。


「何のつもりだ? 

向こうの世界(日本)のチョコレート?

ふん。

蟻でも(たか)らすつもりか?」


()()()()()?」


コトハはそう言って、リクに目配せをした。


「さあ、ナツメくん。

君の出番だ。君なら、

僕の魔力の付着したチョコレートの跡を辿って、

術式を施せる筈だ」


コトハの言っていた、

必殺技というのはこれのことだったのか。


リクはようやく全てを理解する事が出来た。

そして、無力だと思っていた自分が、

唯一この状況で出来る事は?

と考えていた事と一致していた事実が、

とても嬉しく思えた。


答え合わせは既に終わっているのだ。


コトハはリクと意思の疎通が完了が出来たのを確認すると、短く笑った。


そして、よく通る声で、

その名を発した。


自分が勝手に考えた、リクの技のその名を。


───『バスタード()チョコレート()メルトダウン()スタビライザー()!!!』


「……ちょ、ちょっと待て!? なんかダサくない!?」


既に術式を発動させながら、リクが叫んだ。

呪縛魔法に因って、

兵隊達はその場に縫い付けられる様にして動けなくなった。


「何を言っているんだ?

めちゃくちゃにかっこいいじゃないか?」


コトハはリクの抗議を全く意に介さずに、

満足そうにそう言って笑っていた。



◆◆◆



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