『祝音。』
本日(3/15)の投稿分です!
時間ある時にどうぞー
◆
「ち……、違うが!? 断じて違うんだが!?」
イズナは明らかに取り乱しながら、
コトハの指摘を否定している。
「私は転移者などでは無い!
貴様こそ転移者だろう!?」
「うん。だからそう言ってる」
「クッ……! 卑怯な……!!」
「ひょっとして君は転移者である事を隠しているのかな?」
「そそそそそ……、そんな訳あるか!!」
「慌てている。絶対にそうじゃないか」
「くッ……!!
南方司教である、
このイズナをここまで追い詰めるとは……」
「僕は何もしていないよ」
「少しは察したまえ!
転移者である事を悟られない様にと教わったんだ!」
「誰に?」
「それは教えられん!!」
「まあ、聖域教会の誰かかな」
「何故それを!?」
「君はネイジンに転移した日本人で、
そこで君をエスコートした聖域教会の人間が、
この世界でそう振る舞う様に教えたんだね?」
「き……、貴様はエスパーか何かなのか……!?」
「うん。そう。君の考えてる事なんてお見通しさ」
コトハは面倒臭くなったのか、
若干投げやりな言い方だった。
「そ……、そんなバカな……」
イズナから膝から崩れ落ちてしまい、
我を失った様に茫然としている。
「貴様がエスパーだとしたら……、
私に勝ち目は無いではないか……」
「イズナ様!? お気を確かに!!」
「それじゃ、僕の勝ちって事で良いかな?」
「コトハ……、確かに私の負けだ……。
だが、此処を通す訳にはいかないんだ……。
私に委ねられた宿命が、そう私に語りかける……」
「言っている意味がよくわからないけど、
国境の警備が厳しいと云う事は、
何か大きな戦でもあったのかな?
僕はエスパーだから、
君が教えてくれなくたって、勿論わかるんだけどさ」
「そこまで既に知られていると云う訳か……。
敵ながら天晴れだ……」
「中央諸国と、南方の国の関係は悪くなかったと記憶しているんだけれどね。
僕が知り得るのは七年前の情報だけど」
「確かに国交は貴様の言う通り、悪くなかった。
だが、この戦はそれとはまた違う。
イファル、ウクルクを中心とした国々が、
我が聖域教会へ牙を剥いたのだ。
決して許される事では無い。
これは女神の意思の下、
導かれる我々が、
それに準じない悪しき輩どもを打ち砕く為の聖戦なのだ」
「それで、君達はこの街を封鎖して、
中央諸国に攻め込もうとでもいうのかな?」
「フッ……!
それは違う。攻め込もうとしているのは、
中央の方だ」
「イファルやウクルクが?」
「そうだ。
奴らは事もあろうに、聖域教会に棄教を宣言した。
教会への信仰を禁じ、信徒への明確な刑罰、
教会設備の廃絶、そして、
教会の宣教師が使用する転移門の破壊だ。
これは立派な侵略だ。
この街をはじめ、
南方には信仰心に篤い国々が多数存在している。
それらの、
どの国も我々聖域教会の本部と繋がるゲートを所有している。
中央は南方、いや、信徒の多い国々に攻め込んで、
次々にゲートを奪うつもりなのだ。
我々はそれを防ぐ為に、この街に馳せ参じたのだ」
「それだけ聞くと、
まるで中央が悪い様に聞こえるけれど、
事情を知っている人間からすれば、
長年の不満が爆発したって事にも捉えられる」
「不満だと!?
それはあり得ない!!
我らの信仰心を捧げる最高位の神は、
あの女神だぞ!?
唯一無二の絶対の存在だ!!
我らに異を唱えると云う事は、
女神の存在を否定し、冒涜するのと同義だ!!」
「そういうとこじゃないかな?
一つ疑問が有るんだけど、
君はどうして、
そんなにも、あの宗教にのめり込む事が出来たのだろうか?
僕が元々、そういう事に関心が薄いのだとしても、
理解が出来ない。
洗脳でもされているんじゃないかなと、
どうしても訝しんでしまうんだけれど」
「フッ……!
痴れた事を。
理由など他ならぬ、
私が転移者であるからに決まっているだろう」
「それはどういう意味なんだろう?」
「何だ?コトハ、貴様、知らない訳でもなかろう?
我ら転移者が、
いかに女神からの加護の恩恵を受けているのかをだ」
「知らない」
「そんなにも強い魔力を持っているのにか?
まさか、祝音の事も何も知らないとでも言うつもりか?」
「コード?」
「まさか……。そんなまさかな……?
いや、有り得るのか……?
女神の意思が、
教徒で無い者には伝導されていないというのか……?」
「一体何がなんだか、まるでわからない。
もし良かったら教えてくれないかな?」
「……。どうやら本当に何も知らないのだな。
とても恐ろしい事だ。
いいか?
我々、転移者は女神からの加護を、
この世界の者達よりも遥かに多く受けているのだ。
思い返してみろ。
貴様が他の転移者をどれだけ知っているのかは、
わからないが、
そのどれもが軒並み桁外れに強かった筈だ。
貴様の知る言葉でいうところの、
天恵者とでも呼ばれている事だろう」
「うん。確かにそうだね」
「だが、転移者を指し示す言葉は本来は違う。
チートの能力と、
女神の加護を授かった我々の能力には根源的に違うもので、そこには明確に大きな差が有る。
コトハ、貴様もその授かった力は、
この世界でとても大きなモノな筈だ」
「まあ、そうかも知れないね」
「私も同じだ。
女神からの加護を受けている、
それが教会への篤い信仰に繋がる。
一体、何が不自然な理屈になるというのだ?」
「うーん。僕には少し理解が足りないのかも知れない。
それだけで、僕はそうはならないかも知れない」
「フッ……!
それはお前が信仰をしてないからに違いない。
知るべくして、私はそれに気づいていったのだ。
そして、女神から授かった力を、
女神の為に使うべきなのだとな」
イズナはそう言うと、
自らの強力な魔力を呼吸でもするかの様にして、
規則的に放出をし始めた。
とても自然な動作に見えたが、
それによって、僅かに空気が震え、
大地が揺れた様な感覚を周囲に与えて止まなかった。
「無知なる者どもよ。
聖域教会南方司教、このイズナが貴様らに、
女神の加護の結晶、
祝音を与えられし天選者の真髄を、
その眼にとくと見せつけてやろう……!!」
◆◆




