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リンカーネイトリンカーネイトリンカーネイト  作者: にがつのふつか
第五章 『ワールドエンドプレイヤーズ』
158/237

『聖域教会の女。』



クゼナイを()ってから丸一日、

コトハは殆ど休み無しに、

イファルへ向かって飛び続けた。


一応、時折リクに疲れていないかを確認はしていたが、

いつも冷静な彼女からすれば、

明らかにその様子は違っていた。

あまり、落ち着きがある様には思えなかった。


リクは振り落とされない様に、

コトハの足を引っ張らない様にと思い、

懸命に魔力を調整しながら、

浮遊魔法を発動させて、

コトハの手をしっかりと握っていた。


飛翔魔法には、

生身の術者の飛行を可能にするだけでなく、

重力や風の抵抗、

人間の身体が空を飛ぶ障害の一切を受けなくさせる効果もある。


飛行している間、

風に眼を塞がれる事も無く、

地形や方角を位置情報魔法で確認しながら、

コトハは進行方向を調整し続けた。


夜通し飛び続け、

流石にコトハも疲れたらしく、

近くに川もある、

広々とした草原に着地地点を定めると、

一度、下に降りる、と言い出した。


「今どの辺りなんだ?」


リクが川で水を汲んで来て、

水筒をコトハに手渡した。


普通に日本で買える魔法瓶の水筒だ。

コトハは荷物を持って行かないと言っていたので、

リクが持参したものだった。


収納魔法でコトハに仕舞っておいてもらったものだ。


「中央諸国の入り口に近づいたあたりかな?

少し気候が変わっただろう?」


言われてみれば、

ラロカに居た頃よりは随分、

気温が下がっているようだった。


「まだまだ遠いけれどね」


コトハはそう言って欠伸をしていた。


「疲れたろ?少し寝るか?毛布も持って来たし」


「うん。ありがとう。

でも、今寝たら起きられるか心配だから、

このまま少し座って休んでるよ」


コトハは水筒の水を飲みながら言った。


「少し溶けてしまった」


悲しそうな声でそう言いながら、

コトハは再びチョコレートに凍結魔法を掛けていた。


異世界に戻って来てから、

コトハは片時もチョコレートの入ったビニール袋を離さなかった。


収納魔法で仕舞えば良いのに、とリクは思ったが、

収納していたからと云って、

品質が保たれる訳では無いらしい。


氷が溶けて、

少し柔らかくなってしまったチョコレートを、

悲しそうに、一つずつ点検するコトハの姿が、

リクにはとてもいじらしく思えた。


「チョコってそんなに高いものなのか?」


「高い。

コンビニに売ってるような板チョコくらいの量で、

中央諸国で流通してる銀貨で一枚くらい。

一万円弱くらいだ」


「高ッ!!?」


「信じられないだろう?

僕も最初は本当に驚いた。

こんなに魔法の発展している世界なのに、

チョコレートを量産して作る技術は一向に進歩しない。

滑稽ですらある」


コトハはそう言って、

ジャージのポケットから煙草を取り出して咥えると、

フィルターの部分のカプセルを噛んで潰した。


しばらくそのまま咥えた後に火をつけると、

ゆっくり煙を吸い込んでみせた。


「しかも、

当然だけど日本の物の方が勿論美味しい。

フルーツの味がしたり、

ナッツやアーモンドが入ってたりするし。

それにホワイトチョコは、

こっちの世界で見たことが無い。

僕はホワイトチョコも好きだ」


「スイもだけど、お前も甘いの好きなんだな」


「チョコレートを嫌いな人なんて果たしているのかな」


「いや、そりゃいるだろ」


「ナツメくんは?」


「まあ、普通に。あったら食べるかな」


「おいおい、

君のチョコに対する思いはそんなものなのかよ!」


「なんでだよ。普通だろ」


コトハとリクはそう言い合って笑った。


「煙草。いつから吸ってんだ?」


「安心したまえ。

ちゃんと成人してから吸い出したから」


「異世界に居た時から吸ってたのか?」


「いや、吸ってなかった。

日本に戻ってからさ。

バイト先に、いつも休憩中に煙草を吸ってる人が居てね。

初めは煙たく感じてたんだけど、

ひょんな事から、その人と喋る様になって、

一本貰ってみて吸ってみたら、

思いの外美味しく感じてね。

それからだね」


「なんかストレス溜まってたとか?」


「そうだね。多分ストレスが溜まってた。

いきなり日本に戻って、初めは混乱していたしね」


コトハはそう言って、

短くなった煙草の火ををサンダルで踏みつけて消した。


「煙草のストックなんて持って来てないだろ?

無くなったらどうすんだ?」


「こっちにも煙草はあるからね。

どうしても吸いたくなったら、それでも買うさ。

でも、もう煙草はいらなくなると思う。

スイに逢えるんだ。

煙草臭かったりしたら、スイに嫌われてしまう」


「……何かさ、足手まといになってないかな?俺」


「君が?どうして?」


コトハは驚いた顔をして訊き返した。


「お前一人だったらさ、

多分もっと迅くイファルに着いてるだろ?

俺に合わせないといけないし。

お前、スイに一刻も早く逢いたいだろうに」


「ふ。そんな事を思ってたのか」


「思うだろ普通」


「君がそんな事を気に病む必要はない。

僕は()()

一緒にスイのところへ帰るんだ。

そう決めたんだから、

とにかくそうなんだ」


リクは、

コトハがそう言って自分に気を使ってくれているのだと思った。


「……そりゃどうも」


「僕が気を使っているとでも思ったかい?

生憎だけど、僕はそんなに出来た人間じゃないよ。

僕は君に気なんて使わない。

だから君も僕に気を使う必要はない」


コトハはそう言って立ち上がると、

身体を伸ばして溜め息を吐いた。


そして魔法で地図の映像を出し、

イファルまでの航路を再び確認する。


「広い世界だ。

此処で暮らしていた時もいつも思っていた。

地球の広さなんて僕はよく知らないけど、

なんとなく、

この世界は地球よりも広いんじゃないかと思ってる」


コトハはそう言いながら、地図の拡大と縮小を繰り返し、

一番近い距離にある街に寄ろう、と言った。


「手ぶらで来てしまった僕が悪いんだけど、

何か食べる物や、他に必要なものを手に入れよう。

ナツメくん疲れたでしょ?」


コトハはそう言って、リクと手を繋いだ。


「気使ってんじゃん」


「違うね。

これは友人として付き合ってる君に対する僕の優しさだ」


「違いがよくわからん」


「僕にもよくわからん」


◆◆


そして二人は、もうしばらく休んだ後、

コトハの地図を頼りに、

近くの街へと無事に辿り着く事が出来た。


イファルよりも未だ遥か南東に位置する、

ルトナムと云う国の、国境の付近の街だった。


此処より更に北へ向かえば、

ようやく中央諸国へと到達する。


国境に近いので、関所があるのだろう。


街の外壁には要塞の様に石垣を高く積んであり、

物々しい装備をした大勢の兵隊が、

入り口の辺りを厳重に警備していた。


城門から少し離れた所に着陸すると、

コトハはリクの手を握ったまま、スタスタと歩いて行き、

警備をしている兵隊に声を掛けようとした。


「ちょっと待て待て待て! 手! 手!」 


リクが顔を真っ赤にして、

先を歩くコトハを制した。


「ん?ああ。君は照れ屋だな。

こういうのはコソコソしていた方がいやらしく見えるものだよ?」


「お前が気にしなさすぎなんだよ!」


二人のやり取りを、

初めは遠巻きに見ていた兵隊達だったが、

やがて二人に近づいて来ると、

兵隊の方から二人に声を掛けた。


重厚な鎧を装備した兵隊が、

手に持った槍を構えている。


「止まれ。何者だ」


「怪しい者ではないよ」


警戒している兵隊に、コトハは事も無げに答えた。


「今、空を飛んで此方に向かって来ていたな?

魔法使いか? 魔族ではないだろうな?」


「旅の魔法使いだよ。魔族じゃない」


「何か身元は証明するものを持っているか?」


「残念だけど持っていない」


「それならば立ち去れ。

この街の上空は、飛行する魔法の類いを禁じている。

街を抜けるつもりだったなら、迂回して行け」


「それは困る。補給をさせて欲しかったのと、

迂回する様な時間の余裕があまり無いんだ」


「それはこちらの知った事では無い。立ち去れ」


そして、コトハと兵隊の問答の間に、

コトハとリクを取り囲む様にして、

他の兵隊達も集まってきていた。


「おい! お前達、何をしている!」


ジリジリと距離を詰めようとしていた兵隊達を(いさ)めるように、鋭い声が城壁の上から聞こえた。


声のする方を見上げてみると、

そこに立っていたのは、

白いローブの上に甲冑を身につけている女だった。


女は城壁の上に立ったまま、

コトハとリクに声を掛けた。


「旅の者よ。すまなかったな。

今、この街は警備態勢のレベルを引き上げているんだ。

この門を潜る事は、身元の不明な君達で無くても、

とても難しい。

申し訳ないが、そこの者達の言う通り、

目的地までは迂回をしてもらえると助かる」


凛とした声だった。

顔はよく見えなかったが、若い女に違いはなかった。


「申し遅れたが、

私の名前はイズナ。聖域教会南方司教の一人だ」


女はそう名乗った。

女の着ている白いローブは、

聖域教会の刻印の入った法衣だった。


◆◆◆

本日投稿分です!


時間が定まらなくてごめんなさい!

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