表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リンカーネイトリンカーネイトリンカーネイト  作者: にがつのふつか
第五章 『ワールドエンドプレイヤーズ』
153/237

『誤算による結末。』



気を失っている警備隊の男(ゼン)を捕縛したと部下から報告が入り、

その場に辿り着いたザカンだが、

血だるまになって項垂(うなだ)れているゼンの姿を見た時には、

彼の脳裏には不安しか(よぎ)らなかった。


死んでしまっていては人質にはならない。


慌てて部下に魔法で治癒をさせて、

ゼンがまだ生きている事を確認すると、

安堵の溜め息を()いた。


「驚かしやがって」


部下の一人が不安そうな顔をしてザカンに尋ねた。


「逃げなくても大丈夫なんですかね……?

中央諸国最強の精霊術師に、獣巫女(クラウドナイン)

それに天恵者(チート)まで居るなんて……、

コイツら警備隊の連中とは訳が違いますぜ?」


「ふん。案ずるな。

その為の人質だ。殺すにしても逃げるにしても、

コイツを交渉の材料に使うんだ」


ザカンは吐き捨てる様にそう言った。


「ですが……、鬼火を倒した様な連中なんですよね……?」


「俺の言う事が信用出来ないか?

餓鬼が三人に、年寄りの召喚術師だ。

隙さえ作れば確実に殺れる」


ザカンは自信たっぷりにそう言っているが、

部下達の不安は拭い切れて無い様子だった。


「怖じ気づくな!!」


次第に苛立ち始めたザカンの怒号が飛んだ。


「聖域教会に仇なす不届き者どもに、

女神の名の元において、裁きの鉄槌を下すのだ!!」


とは言うものの、ザカンとて死にたくはない。

ゼンの傷が治癒魔法で回復すると、

まだ意識の戻らないゼンを、

自分の前に盾の様にして立たせた。


ザカンは卑劣な男だった。

腐ってもチートであるし、

真面に戦ったとしても決して弱くは無いのだが、

保身と安全に何よりも執着をする傾向があった。


そして、

ザカンは腰に巻いたホルダーに、

幾つもぶら下げられた水筒を一本手に取ると、

一気にそれを飲み干した。


「霧よ 霞よ 靄よ 

我が命ずる 彼の者に 纏い覆い尽くし給え!!」


───『深紫の眩暈(ディーパーウェブ)!!』


既にクオナンの街全体に薄く張り巡らされた魔力の霧が、

色濃く、

その本性を現してあっという間に街を包み込んでいった。


ザカンは自らの体液と魔力を混合(ミックス)し、

産み出した霧を自分の手足の様に自由自在に操れた。


そして彼のチートスキルは、

体内に水分を補給する事によって、

魔力の消費を極限まで抑え、

殆ど無尽蔵に魔法の発動を可能とする、

対価の無徴収(コストキラー)だった。


魔力感知も不能にさせてしまい、

暗闇の様に視界を塞ぐ霧。

その中を自由に行動する事が出来るのは、

今やザカンだけであった。


「クククッ!

連中が幾ら強くとも、人質も取られたこの状況で、

俺の霧魔法の前では手も足も出るまい!!」


ザカンは高らかに笑い、

スイ達の現在地を確かめると、

部下達に指し示す様にして先陣を切って歩き出した。


(一寸先でさえ何一つ見えまい。

連中め、思った通りだ。

その場から動けなくなっているな)


ニヤニヤと嬉しそうにザカンは笑う。


至近距離に近づいたとしても、

スイ達に気づかれる事は無い筈だ。


そして、霧に紛れて奇襲を仕掛けてくると考えるだろう。


(連中は既に俺の術中だ。

全てを鈍らせる霧による目眩ましだけに注視するだろう?

俺の能力はそれだけでは無い)


張り巡らされた霧はザカンの身体の一部である。


霧に取り込まれた者は、

ザカンに触れられている様なもので、

霧を相手の首に纏わりつかせ、

静かに絞めてゆき、(くび)り殺す事も可能だった。


いかに強い相手と云えども、

無抵抗のうちに呼吸を止めてしまえば、

どうにもならないだろう。


ザカンはそう考えていた。


だがしかし。

彼は重要な事を見落としていた。


「な……、何故だ!?」


ザカンはスイ達の姿を目視出来る頃に、

ようやく自分の今の状況を把握する事が出来た。


スイ達はユンタの魔獣(チャガマ)の張った結界の中に既に居たのだ。


それも、ザカンの霧の入り込む余地の無い、

高度な術式に依る結界魔法だ。


「馬鹿な!? 結界なんて、いつ張ったんだ!?

俺の霧の中に在るものの動きは全て把握できる筈だ!!

何故気づけなかった!?」


「フッ……! この程度か聖域教会!!

選ばれし者イツカの前では霞むな……!!」


イツカはそう言って、

魔導書を片手にポーズを決めていた。


魔書使い(ライブラリ)か!?」


「フッ……! その通りなんだな!!

それにイツカの語りの書(トーキングヘッズ)は特別製なんだな!!」


ザカンは勝ち筋の見えていた思考を乱された事に因って、

酷く狼狽し、彼の魔力に大きなブレを発生させた。

彼は咄嗟に霧を攻撃の形態に切り替えて、

イツカへ攻撃を仕掛けた。


───『補殺する悪意(ジ ヘイズ)!!』


その時、

更にザカンは自分が見落としている事実に気づいていなかった。


()()()()()()()()()()()()()


お前(ザカン)()()()()()()()()()()()()()?」


イツカが不敵な笑みを浮かべて、

ザカンに向けて人差し指を突き出した。


「だ……、だったら何だ!?」


『総防御回数1 物理攻撃回数0 魔法に依る攻撃回数1

攻撃による損傷無し ダメージ比率0

情報から判定を行い 審判を下す』


「悪いが既にお前の攻撃は見切ったんだな……!」


そのイツカの言葉に続く様に、

トーキングヘッズは能力を発動させた。


『判定 所有者及び魔導書への悪意ある攻撃

審判  対象への反復攻撃を行う』


───『判定と審判(カフカ)!!』


イツカへ放った攻撃魔法、

身体の自由を奪い、

締め付けて引き千切ろうとする霧が、

ザカン本人へと襲いかかって来た。


「がッッ……!? きぇッ……、きぇ……!?」


自分の攻撃魔法を自分で喰らうのは初めての事だった。


悲鳴を上げて部下に助けを求めようとしたものの、

声にならず、

ましてや深い霧の中で、

部下達は視界不良の上、

目印にしていたザカンの魔力も乱れてしまい、

自分達が今どの方角を向いて立っていたのかさえも、

判らなくなってしまっていた。


(馬鹿どもが……! 人質だ……! 人質を出せ……!!)


頼みの綱の、その命令さえも、

誰の耳にも届く事は無かった。


「フッ……!

残念だったんだな! 小悪党!!

宿命の戦士、イツカが貴様の悪意を裁く!!

判決の鐘の音を、心して聴くと良いんだな!!」


(まッ……、待てッ!!?)


ザカンは何の抵抗も出来ずに、

不恰好に腕を突き出す事しか出来なかった。


───グシャッッッ!!!!


肉も骨も身体中の全ても、

バラバラに引き裂かれたにも関わらず、

悲鳴一つ上げる事も叶わないまま、

ザカンは絶命した。


◆◆

今日投稿分です!


昨日すみませんでした!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ