『レベルアップしている件。』
◆
「おーーい、スイーー。そっちの様子はー?」
数人の聖域教会の法衣を着た男達が、
既にスイ達との戦闘で打ち倒され、
昏倒したまま地面に突っ伏している。
「誰もいない。街の人達も避難しているみたいだね」
「警備隊の人達も見ないッスね」
「うん。ゼンもいないね」
「やられちゃったかなーーー?」
「どうだろうね。やられちゃったかもね」
スイは相変わらず淡々としているが、
周囲の探索を怠っている様子では無かった。
警備隊と聖域教会の戦闘は既に終わってしまっていて、
スイ達は残っていた聖域教会の斥候部隊とたまたま遭遇したのだ。
宣言通り、イツカを戦闘には参加させずに、
スイとユンタとロロの三人であっという間に倒してしまった。
「フッ……! 雑魚だったと思うんだがな!」
「イツカなんもしてないじゃんーー」
「だって君達が何もするなって言ったんだな!」
当然だ、といった様子でイツカが言い放った。
ユンタはイツカの言葉に尾をゆらゆらとさせて返事代わりにすると、
倒れている男の近くにしゃがみ込み、
頬を叩いて目を覚まさせていた。
「う……、うう……」
「おい。お前らの他に、あと何人いた?」
「……」
問い掛けに対して無言だった男の襟首を掴み、
ユンタはそのまま締め上げる様にして詰問を続けた。
「何人いた?どこ行った?」
冷たい眼と声だった。
「ぅええッ……」
男は苦しそうな呻き声を上げて、
止めてくれ、と云った意思表示をした。
ユンタは締め上げる力を少しだけ弱めてやったが、
主導権は自分に有るのだ、と云う事を強調する様に、
襟首を掴んだ腕はそのままにした。
「時間稼ぎとかさ、
何かくだらねーーヤツならいらねーから」
ユンタは再び冷たい声でそう言った。
「わ……、わかった……。あと五人は残ってる……」
「一番強いヤツの能力は?」
「詳しくは知らな……、ぐぇッ!?」
「能力は?」
「き……、霧だ……。霧を操る……、体液を霧に換える……、
天恵者だ……」
「霧。急襲に成功したり、魔力感知に掛からねーーのは、
そのチートの能力だな」
「そ……、そうだ……」
「此処を離れては無いんだろ?どこにいる?」
「俺達の目的は、この街を拠点にして……、
シファの森を占拠する事だ……、
この近辺には、まだ間違い無く居る筈だ……」
「どこにいる?」
──ギリ……、ギリ……。
ユンタが男の首を締め上げる音だ。
鬱血した男の顔が苦痛で歪み、助けを求めている。
「時間かけてらんねーーんだよ。早よ吐け」
ユンタの冷酷な表情は男への最終通告だった。
それを悟った男の顔は、色濃く恐怖で塗り潰されていた。
スイとロロも珍しく止めに入る事も無く、
その様子をただ見ていた。
小さな街の半分以上が瓦礫と化して、
既に事切れていた住民達の姿も幾つも見たのだ。
「まだ此処にいる!!
……精霊術師のスイと獣巫女!
お前達を殺すつもりだ!!
俺には正確な位置はわからないが、お前達が此処に来たのを認識した時点で、必ず始末しようと考える筈だ!!
あとは本当にわからない!!
頼むから殺さないでくれ!!
……ぐぇッッ!!?」
ユンタが手早く男の首を閉めて気絶させて、男は白目を剥くと、
身体の力が抜けた様にして再び地面に倒れていった。
「ウチらが居ない隙を狙ったんだろーーけど、
偶然にも来ちゃったんで、
仕留めてやろーーって感じかな?」
「わたし達の事を知っていたしね。
こんなに早く戻って来るとは思ってなかったみたいだね」
二人の様子を見ていたイツカが口を開いた。
「二人とも全然慌ててないな!
チートが居るって言ってたんだが?」
「って言われてもなーー?
正直、で?って感じじゃない?」
「うん。
イツカやロウウェンみたいな、
規格外の相手と戦ったからかな?
並みのチートじゃ驚かなくなってしまったね」
「たとえ並みだとしても、
チートはチートじゃないかな!
言っておくがイツカは君達が良いと言うまで、
手を貸さないからな!」
「もし仮に凄く強いとしてもさ。
今こうしてる間に、
何も攻撃して来ないところを見ると、
既にわたし達の勝ちのようなものだよ」
あっけらかんとしてスイが言った。
「そーそーー。
真っ向から勝負しねーーって事は、
もうビビってんじゃん?
負ける気しねーー」
「それに時間も勿体ないしね。
さっさと引き摺り出して終わらせよう」
「フッ……!
それでこそ我が好敵手……!」
「ライバルだったんだ」
「でも霧の能力で何処かに隠れられちゃったら、
見つけるの大変ッスかねー?」
「そうでもないかもね。
ロロの気配消す能力の方が格段に上だと思う。
注意深く見れば、お粗末にも魔力の残滓が残ってる」
「えー。なんか恐縮ッスねー」
「自分の能力を過信するタイプだろうね。
闇討ちの様な攻撃で、
わたし達を倒せると思っているところが既に浅はかだ。
それに、ロロとイツカの存在も把握していない。
どうやって勝つつもりだったのか、
甚だ疑問でしかない」
「結構めちゃくちゃ言うな!」
「事実だから」
「どっかで聞いてんじゃね?笑
多分そろそろ出てくるぞ笑」
◆◆
その会話の全てを聞いていた男が居た。
怒りに震えながら。
それは斥候部隊を率いるザカンと云う男で、
魔力感知を鈍らせる霧を操る能力者だった。
概ね、スイとユンタの推測通りだった。
スイとユンタの留守を狙った奇襲の予定だったが、
まさか救援部隊に、
この二人が送られてくるとは考えもしなかった。
ザカンはイファルの転移魔法の精度を侮っていた。
そして、自分の手元の情報には無い、
ロロとイツカの存在。
グラスランナーらしき女はハッキリとは分からないが、
もう一人の女は確実に実力者であると察する事が出来た。
それも、自分と同じチートであると。
──正面から戦うには危険過ぎる。
充分な距離は保っていたが、
ザカンは今一度、自分の能力による魔力の隠遁を強め、
その場を離れようとした。
そして、自分には奥の手がある事を、
スイ達に思い知らせてやるつもりだった。
ギヨンを倒した警備隊の男だ。
あの男を人質に、
この連中を皆殺しにしてやる。
残った部下に、
男を捕らえる様に命じてある。
あと少しの辛抱だ。
ザカンは怒りを抑えながらも、
そう考えると思わず不敵な笑みを浮かべずにはいられなかった。
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