第十五話『スイの実家。』
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「プ……ププ……クスクス………」
「おい!笑ってんじゃねーーーー!!」
顔を俯けて必死に笑いを堪えるスイと、涙ぐんでそれに不満を言うリクが奥の部屋から出てきた。
「あ、戻ってきた。おっつーーー。遅かったね?どうだった?」
「スイ、リクさん、お疲れ様です。なんだか少し様子がおかしい……のでしょうか……?」
「アハハハハハ!!」
「ぅおーい!!笑うなって言ってんだろーーが!!人の不幸を笑うなーーー!!」
「ゴメンゴメン、あーー可笑しかった。リクはやっぱり面白い人だなぁ」
「ウケようなんて一ミリも思ってないわ!!」
「あれ?なんかあんまり結果良くなかった感じ??」
「さすがリクだよ。ステータスカードも貰ったけど見てみるかい?」
「見せて見せてーー」
「見せんな!」
「嘘だよ。はい。失くしても再発行はしてもらえるけれど、落として人に見られないようにね」
リクはスイからステータスカードをひったくるように受け取った。鑑定所から発行される個人の能力値とスキルが記載されたカードだ。
所有者と魔法で繋がっていて、能力に変動がある度に自動で書き換えられていくんだとスイがリクに教えた。
「うるさい!どうせ俺は平均値以下だよ!」
「ありゃーーどんまいーー」
「スキルはどんなものがあったんですか?」
シャオにそう聞かれてリクは顔を背けながら答えた。
「………スキルレンタル」
「え?スキルレンタル?」
「スキルレンタル……」
「指定した対象からスキルを拝借して使用するっていう?」
「そう……」
「えー良いじゃん。何気にレアなスキルじゃなかったっけ?」
「そう言われた……でも……」
「スキルレンタルはスキルポイントの獲得率が異様に低いらしいんだ」
ニタニタと笑いを堪えながら、嬉しそうにスイが言った。
「ぬぐぐぐ………」
「それにリクは魔力もほとんど無いから使用できる回数も、今の段階では一日一回きりが限界らしいんだよ」
「なんそれーー?それじゃなかなかスキル強化出来んくない?」
「そう。だからどうしたら手早く強化出来るか鑑定師さんに訊いたんだ」
「なんて言ってたんですか?」
「相手がスキルを使用した攻撃をとにかく受けて受けて受けまくって身体で覚えるしかないそうだよ」
「えーー?死んじゃうじゃん?」
「そう。それを聞いたリクが子どもみたいに騒いでしまってね。あんまりにも泣き喚くものだから、鑑定師さんも困り果ててしまって、その様子が可笑しくてね」
「言うな!バカーー!!」
「防御力も魔法耐性も平均値より低かったからね。まさに命がけだね」
「やらねーよ!!」
「パーティーのお荷物確定やん」
「それ今一番気にしてるからな!!」
「実際問題、パーティーの編成を少し考えないといけないかも知れないね。後衛に補助をしてくれる役割のメンバーが必要かな」
「お前の精霊魔法じゃダメなのか?」
「何せ燃費がね……。ごめんね?」
「あんなに強い魔法使えるのにな。なんか魔力を回復させるポーションみたいなのはないのか?」
「あるよ。でも高価なものが多いね。そして高価なものほど効き目がある。私くらい燃費が悪いと破産してしまうかも知れない」
「お前にかかる食費でも破産しそうだが……」
「私はスイがたくさん食べるところも大好きです!」
「あ、そーそーー聞いたよシャオちんに根掘り葉掘り」
「余計なことは言ってないだろうね?」
スイがジロッとシャオを見たが、シャオはそれに気づかずに顔を輝かせながら言った。
「スイのことで余計なことなんて何ひとつないですから!!」
「ああ、そう……。まあ、いいや……」
「とりあえず皆で装備整えにいこーか?国から派遣されるんだし予算多いっしょ?」
「うん。かなり多く貰っている。痕跡も見つかっているしね。この辺りの魔物は数も少ないし、かなり大人しいとは言っても影響を少なからず受けているだろうからね」
「ところでさ、調査ってどのあたりまでの範囲でやるんだ?」
「とりあえず痕跡が見つかった近くの村に行ってみるよ。出来たらそこを拠点に範囲を広げて行こうと思っている」
◆◆
四人は鑑定所を出て商店街へ向かった。まずはリクの服を買うことが決まっていた。賑やかな町並みの中、一番大きな店舗で衣料品を取り扱う店へ行こうということになった。
「それとさ、俺のスキルって魔力を消費するんだったよな?ていうことは俺のスキルレンタルも魔法なのか?」
「厳密には魔法ではないと思うよ。リクがそれをスキルとして認識して発動するから、それに一番近い力を消費することになっているんだよ。体術とかのスキル持ちの人は体力を消費してスキルを発動するからね」
「スキルレンタルて俗にゆーーユニークスキルってヤツだよねーー。詠唱も必要ないし一回きりでも使い方によってはめっちゃ強そーー」
「見てみたいですよね。どういう感じになるんでしょうか?」
「わたしも見た事が無いけど鑑定師さんの話では対象の発動したスキルを一度目視必要があるらしいよ。スキルレンタルは属性が無に属するから大体の属性を模写出来るみたいだね。似たスキルに『物真似』とかがあるけど、あれは使用者の属性に作用される事があるから、スキルレンタルの方がひょっとしたら汎用性が高いかも知れないね」
「えーーー。つーことはさ、魔物のスキル使う時は魔物みたいになるんかなーー?舌が伸びたり空飛んだり?ウケるーー」
「ウケんな!!」
「おそらくそうだろうね。是非見てみたい。あ、アレだ。着いたよ」
大勢の人が出入りしている、かなり大きな三階建ての建物だった。
「一階は雑貨とかを扱ってるね。女性の服は二階で男性が三階だね。まずはリクの服を見に行こう」
女性陣に連れられ階段を登りながら、そういえば異性と服を買いに来るなんて初めてのことだったとリクは思っていた。彼は母親が買ってくる服をそのまま着るタイプだった。
そしてしばらくの間、さがああでもないこうでもないと取っ替え引っ替えにリクに服を着せて、協議に協議を重ねた結果、入り口に置いてあるマネキンに着せてあった一番無難な服に決定した。フード付きのローブも一緒に。
「いやーーー。小一時間話し合ったけど、結局超普通のになったね笑」
「やっぱりヤンマのところで買わなくて良かった。奇抜なものは似合わなかったね」
「リクさんって、無難。とか、平凡。って感じですね。ほとんどの服に着られてるって感じがして、私とても新鮮でした」
会計を済ました三人に好き勝手言われながらも、いかにも異世界然とした自分の出で立ちにリクはなかなか満足していた。
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ヤンマの店がある地区は王宮から随分離れた場所にあった。賑やかな通りを歩いてきたせいか、とても寂しい雰囲気のあるところだった。
ヤンマの店は随分古い建物で、綺麗に掃除はされていたがあちこち傷んでいる様に見えた。
「おーーーーい。ヤンマー?スイ帰ってきたよー」
「ヤンマ。ただいま」
入り口のドアを開けてスイとユンタが声をかけると奥から返事が聞こえて長髪で丸眼鏡をかけた男が出てきた。
男は無愛想な顔をしていたがスイを見た途端に顔を輝かせた。
「スイーーー!久しぶりじゃねぇかーー!?元気だったかー?お?ちょっと背が伸びたか?」
「久しぶりヤンマ。背は伸びてないよ」
「そうかそうか、城でうまくやってるか?」
「うん。相変わらず皆良くしてくれてるよ」
「そうかそうか。嫌んなったら、いつでも帰ってこいよー。お前の部屋まだキレイにしてあるからよー」
「ありがとうヤンマ」
「ん?知らねえ顔がいるな?この別嬪さんは?」
「シャオだよ。昔何度か家に遊びに来たりしたのを憶えている?」
「ヤンマさん、ご無沙汰しています」
「シャオ!?クアイさんとこの!?あのお前にくっついて歩いてまわってたハーフエルフの子!?ありゃー!大きくなったなーー!色々と」
「ハーフエルフじゃなくてクォーターエルフだよ。それとシャオを見た後にわたしの胸を確認しないでくれる?」
「だっはっはっはっ!悪い悪い。それと……そこのヤローは?」
ヤンマが顎でリクを指すと、リクは一瞬緊張した。
ヤンマの目が途端に色を変えて、まるで笑ってないように見えたからだ。
「この子はリクっていうんだよ。ニホンから来たんだ」
「あー……。こいつが今回の転移者か。正直、また男かよ。と思って残念だけど、コトハと同じ国の人間だから歓迎してやるぞこの野郎」
ヤンマがにんまりと笑ってリクの肩をバシバシと叩いた。
「ど、どもっす。(このおっさん何か怖い……!)」
「おいーー。ヤンマあんまりリクッちの事ビビらせんなって?大丈夫だよ、スイのこと盗りはしねーから」
「わかんねーだろが!俺ァ、ニホンの女は好きだけど男はいまいち信用できねぇからよ」
「親バカ出たーー。んな心配すんなよーー、スイも大人だぞ?」
「そういう問題じゃねんだよ!わかるだろユンタ?スイがいくつんなってもスイは俺の大事な娘だからよ」
「つーわけでリクっち?スイにちょっかいかけたらヤンマにブッ殺されると思うんで気をつけなー?」
「だ、出さんわ!!!つーか出せるか!!」
「手ぇ出しやがったらブッ殺すぞこのやろーーー!!!」
「ひぃぃ!」
「はいはい。ところでヤンマはパーティーに加わってくれないんだね?」
「おう!参加しねえ!」
「なんでさ?」
「スイとは一緒にいたいけどよ、店も忙しいしな。その代わり装備のサポートは惜しまねぇからな」
「そっか。残念だな」
「それより今お前らの持ってる装備に呪いの付与してやろうか?これでパーティー全員だろ?」
「うん。お願いしてもいい?それからシャオが今日は胸当てを持って来てないんだけど、また後から持って来た方がいいかな?」
「いや、呪符をやるから、持って帰って一晩貼っといたらいい。お前らも服脱ぐの面倒だろ?全員分の持たせてやるから貼っときな」
それからしばらくの間、ヤンマは裏の工房に引っ込んで作業をして全員分の呪符を作ってスイに持たせた。
「これな。名前が書いてあるから、どれがどれだかわかるか?間違えんなよ?」
「大丈夫だよ。昔はお店を手伝ってたんだし」
「そうだな。ま、元気でやれよ。なんか追加の注文があったらすぐにやってやるからな。それから腹減ったらいつでも帰ってこい」
「うん。ヤンマ、いつもありがとう」
「おう。それとよ、コトハに逢ったらよろしくな。待ってるって言っといてくれや」
「うん。伝えておく。逢えたら連れて帰ってくる」
「待っとくわ」
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皆で礼を言ってヤンマの店を出て、「最低限の医療品や野営の道具とかポーションとかも必要になるかな」と、スイが言った為、四人は再び商店街に向かった。
「ヤンマ強がってたけど寂しいのバレバレだったねーー?良かったん?もうちょいゆっくりせんで?」
「ヤンマさん、良い人でしたね。スイの事を本当に大切に思ってるのが伝わってきました」
スイは少し微笑んで言った。
「うん。ヤンマの事も私は大好きだよ。本当に感謝している。だけど、あまり長居すると余計に寂しくなってしまうから」
「ヤンマ、王宮には近寄りたがらんしなーーー。スイ忙しくてこっちの方来れないから会う機会少ないしね。ヤンマって仕事は国からも頼まれてんでしょ?」
「うん。国王様ご指名で。でもやっぱりコトハさんの事があるから。お互いに少しギクシャクしているみたいでね」
「そっかーーー。こんな街外れに住まんでもスイと一緒に暮らせたら良いのにね」
「うん。私もそう思っているんだけどね。国王様に頼んだら王宮の近くに新しいお店作ってくれないかなぁとか。コトハさんとヤンマと私の3人でまた暮らしたいなぁとか」
「スイ……。本当は寂しいのに我慢してたんですね………なんて……健気なんですか………私の心の琴線をどれだけ震わせるんですか………」
シャオが泣き出しそうになりながらスイの肩に手を置いた。
「いや、たしかに寂しいけれど、私も大人だから大丈夫だよ?」
スイは笑いながら言った。
「気丈に振る舞って私を心配させまいと………。国で保護しましょう。この子を」
「そんなことしなくて大丈夫」
「スイ!!これからはなんでも私に頼ってくださいね!?コトハさんとヤンマさんとスイが暮らせるようになるまで、私を家族だと思って!!!そして結婚してください!!」
「ありがとう。でも結婚はしないよ?」
「はぁぁぁぁぁぁぁん!!」
くねくねと身を捩らせるシャオを置いて三人は歩き出した。
そして、皆に置いてきぼりにされたことに気づいたシャオは慌てて後を追いかけた。
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