『我が名は。』
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「てかさ。
のんびりしてる暇無くね?
直接ウクルクに送ってくれたら良かったじゃんーー」
ユンタが若干イラついた口調で言った。
「全員を一遍に送る訳にもいかないでしょ。
明らかに聖域教会はこちらを挑発してきてる。
乗ってやる必要なんて無いが、救援は必要だ。
スイとユンタ、
それからロロの三人で先行して向かってくれ」
「じ……、自分もッスか?
なんかおこがましいッスね……」
「君の能力はもはや不可欠だ。是非頼みたい」
「俺達はイファルに残るのか?」
「そうだね。滞在してもらって、
君達には都の警護をしてほしい」
「私は行かないんですか!?」
「シャオはイファルに残って、
クアイと救援部隊の編成と進軍を指揮してもらう」
「スイについて行きたいです!!」
「聞いてやりたいが、少しだけ我慢してくれ。
お前のカリスマ性に僕は一目置いているからさ。
親父よりも立派な将軍になれる」
シャオは不服そうだったが、
それ以上は何も言わなかった。
「王様、
襲撃を受けたのはウクルクの何処の辺りですか?」
「西の国境付近の街のようだよ。
シファの森を越えた辺りだ」
「都ではないんですね」
「警備部隊が進軍を食い止めているらしい」
「ゼンだ」
「敵の数はーー?」
「2~30人だそうだ」
「少なッ! 舐めてやがんなーー」
「君達が留守なのを判ってるんだろうな。
それに手練れの魔法使いが何人か混ざっているらしい。
ゼンとかいう餓鬼も確か中々の実力者だったろ?
それでも手こずってる。
じゃないと、わざわざ救援の要請なんてしてこないさ」
「王様。
それを終わらせたら、
また直ぐにラロカに送ってもらっても良いですか?」
「え?何か忘れ物でもしたのかい?」
「コトハさんがラロカに居るんです。リクも」
「コトハが?コトハに逢ったのか?」
「逢えてません。
王様が無理矢理こっちに呼び戻したから」
スイがスンとした表情でそう言った。
明らかにラオに対する嫌味だった。
「ごめんって。ところで……、
そっちの可愛いお嬢さんがラロカの転移者かな?」
「そうです」
「イツカだ!!
さっきから偉そうにしてるけど、お前誰だ!」
「イツカ。この人は、この国の王様だよ」
「へー王様だったんだな! それはまあ良いんだけどな」
「反応が薄いよイツカ」
「なんでイツカまでこっちに来させたんだ?
スイ達に協力するとは約束したけどな、
こんなに急に話を進められたら困るんだな。
ラロカの皆も心配するからな」
「悪いね。こっちも急いでいたものだからさ」
「そっちの事情はイツカには関係無いんだな。
さっさとラロカに戻すんだな。
イツカにも準備が要るんだな」
「ラロカは君の存在を隠していた。
この世界じゃ、それは立派なルール違反だ。
言い方は悪いけど、ラロカは罰せられて、
君の身柄は拘束されてたっておかしくはないんだぜ?」
「ラロカに手を出してみろ。
イツカはお前も、この国もきっと滅ぼしてやるからな」
「王様。イツカは天恵者です。
それにかなり厄介な能力を持ってる。
イツカが暴れ出したら、イファルもただじゃ済まない。
一度、ラロカに帰してあげる事は出来ませんか?
それか、わたし達が一緒にウクルクへ連れて行きます」
スイの言葉に、ユンタも捕捉をする様に続いた。
「まーー。
今んとこ、ウチの召喚獣で抑えれるから。
ラロカに帰して、
態勢を整えられたく無いってのがラオ君の本音でしょ?
イファルに置いとくのも危ねーーし。
ウチらと居るのが一番安牌だろ。
イツカも無理に揉めるよりさ、
一旦落ち着いてからラロカに戻るんじゃダメかーー?
ウチらもどーーせ、もっかい行くし」
「ふん。
ラロカに手を出さないって約束を守るんなら、
言う事を聞いてやっても良いけどな」
「王様。イツカに約束してください。
ラロカに手を出さないって。早く」
「スイ。何か急いでるのかい?」
「ウクルクを襲撃した連中をとっとと蹴散らして、
コトハさんに逢いに行きたい。
それから、終わったら、
わたしを直ぐにラロカに送る事も約束してください」
「そうだな。おい王様。
約束をしてくれたらイツカも、
その悪者達をブッ飛ばすのを手伝ってやるからな」
「この度の転移者は……、
また規格外の娘が来たもんだね……」
ラオは珍しく、やや引き攣った様な表情で、
スイとイツカに気圧されてしまっていた。
「フッ……! 当たり前なんだな!
我が名は東暁聿花!
世界に選ばれし、宿命の旅路を辿る者なんだな!」
──決まった。
圧倒されるラオの顔を、
のけぞった様な決めポーズで上から見下ろし、
イツカは満足そうな表情を浮かべていた。
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