『行き違う。』
◆
「……二人。……こっちに向かって来てる。
かなり離れてるけど……。
凄く強い魔力が一人と……」
感知魔法に依り、
接近してくる存在にハツが気づいていた。
「もう一人は……、リク……?かな……?」
「え?」
「……強い方は誰だかわからないけど。
もう一つの方はリクだと思う……」
「え?リクが?戻って来たのかな?」
スイが嬉しそうにハツに尋ねる。
「わかんない……。けど、彼の魔力だと思う……」
「何だ。
こっちが探すよりも先に帰って来てくれたんだね」
「でもさーー、もう一人って誰よ?
しかも強いって。何かに巻き込まれてんじゃねーーの?」
「ええ、ええ。その心配はいらないでしょうな。
ええ、ええ」
「フーちゃん。なしてさ?」
「ユンタさん、気づきませんか?
この清々しい程に圧倒的な魔力、
暴力的ですらある、こんな存在感、
あたしゃ、この世界にゃあの人以外存じ上げませんね」
「はーー?遠すぎてウチにゃわかんねーんだけど」
「ユンタさん感知はからっきしですなぁ」
「あれ!? ちょっと待って!?
リクと一緒に居るのってもしかして……!?」
スイが突然取り乱し、大きな声を上げた。
信じられない、と云った表情で、
誰の眼に見ても明らかな程に激しく動揺をしている。
精霊の魔力感知で、映像こそ届いていないが、
スイにはすぐに気づけた。
彼女にとって、
あまりにも馴染みのある魔力の波長だったのだから。
「ええ、ええ。
間違い無いでしょうな。
中央の魔女のお帰りですな」
「……!!」
スイは息を呑み、呼吸を止めて、大きく眼を開いた。
金色の美しい瞳が、微かに滲み出した。
「はーー!? コトハ!? マジ!? なんで!?」
動揺をしているのは、ユンタもだった。
喜びを隠せない、と云った様子で、
あっという間に落ち着きを失くしている。
「コトハさん……!!」
「スイ! 良かったですね!?
コトハさんに逢えますよ!?」
「え!? え!? 何で!?
何でコトハさんがリクと一緒に居るの!?
シャ……、シャオ!! わたし、おかしくないかな!?
コトハさんに逢ってもおかしくないかな!?」
スイが髪の毛を手櫛で梳かしながら、
あたふたとシャオに訊いた。
「か……、可愛すぎるでしょうが!!!
天使か!?」
「ねえシャオ、君、鏡とか持ってないかな!?」
「持ってないです!!
その代わり、
もっと近づいて、
私の瞳を鏡代わりにしてみてください!
さあ! さあ!」
「う……、うん!
わ、ちょっと……、動かないで……。よく見えない」
スイがシャオの顔を両手で掴み、
鼻先が触れそうになるほどの距離で、
彼女の瞳を覗き込んでいる。
「スイちゃん、動転し過ぎてシャオちゃんのセクハラに無防備になってるッスね……」
「シャオ、見えない。もっと近づいてよ」
「すみません……。スイ……、
私ちょっと興奮し過ぎて鼻血が……」
◆◆
「中央の魔女……」
「どうしたシンヒ?」
「いやねえ。
えらく、立て続けに事が起きるもんだと思ってねえ」
「どういう意味だ?」
「転移者が居ると聞いて、この国に来て、
落ち着いたと思ったら、今度は中央の魔女だよ?
しかも両方が天恵者ときたもんだ。
偶然にしちゃ、あんたも出来すぎてると思わないかねえ?」
「さあな。俺にはわからん」
「転移者が転移者を呼ぶ」
「?」
「あたしらには聴こえない、
虫の音みたいなもんでも出してんじゃないのかねえ」
シンヒは口の端を曲げて笑い、
それはとても感情の込もっていない冷めた表情だったが、
クジンにとってシンヒのそういう笑い方は、
あまりにもいつもの事であった為、
気にも留めなかった。
「俺にはお前が何を言っているのかが解らない」
「……解りやすく言ったつもりだったけどねえ」
「聖域教会と戦う戦力を集める為に、
こんな南の田舎に来たんだ。
中央の魔女がそれに加われば何も言うことは無いだろう」
「そうだねえ」
シンヒはどこか上の空の様子で返事をした。
「俺は中央の魔女に会ってみたい。
魔書使いと戦って判った。俺は未だ弱い」
「ははは。まだ気にしてんのかい。
クジン。あたしらは弱くなんかないと思うがねえ。
天恵者が揃いも揃ってバケモノなのさ」
「そのバケモノにならねばならない。俺も、お前もだ」
「あたしは、そんなものになりたくはないけどねえ」
シンヒが呟く様に言った言葉は、
クジンの耳には届いていなかった。
「あっ!? シャオちゃんホントに鼻血出てるッス!!」
「ちょっとシャオ!
動かないでってば、
今日そういえば寝癖がついてたんだよ……、
せっかくコトハさんが帰って来るのに、
だらしないと思われちゃう」
「だーーいじょぶだから!! あー!
ほらシャオちん、紙紙!! マジ鼻血じゃん!!」
「ユンタさん、私大丈夫ですから!
さあ! スイ! 存分に私を使ってください!!」
そうやって一向の賑やかな声が、
クゼナイに響き渡っていたのも束の間。
突如として、
広範囲に指定された、
遠隔操作で発動する魔法陣が一向の足元に浮かび上がった。
対処する暇も、驚く暇も無い程、
あっという間に、
魔法陣は描かれた術式の魔法を発動させた。
光が辺りを包み込み、
その場に残っていたのは、呆気にとられた顔をした、
外交官のハンだけであった。
「イ……、イツカ様!?
今のは……、転移魔法……!?」
ハンは周囲に居た配下の者達に声を掛け、
辺りを捜索する様に指示を出したが、
突如発動された転移魔法に因って、
イツカを含むそこに居た面々は既に、
ラロカ国内には残っていなかった。
◆◆◆
転移された先は、
イファル王都の王宮。
神妙な面持ちのラオとクアイが、
スイ達を待ち受けていた。
「いきなり呼び戻して悪い。
だけど、
いささかマズい事になってしまった」
ラオが口を開いて放った言葉の、
裏に見え隠れしている不穏な空気を、
その場に居る誰もが感じ取る事が出来た。
「聖域教会が仕掛けて来やがった。
ウクルクが襲撃を受けているようだ」
ラオはいつもの軽妙な口調では無く、
言葉の一つ一つを重々しく吐き出す様にそう言った。
「ウクルクが……?」
「ウィソのリンガレイから直接連絡があった。
すまないが、至急ウクルクに向かって欲しい」
あっという間に変わってしまった景色に、
コトハとまた離れてしまったと感じてしまったスイは、
今にも泣き出してしまいそうだった。
そこに更にウクルク襲撃のニュース、
スイの心はざわつき、少しずつ混乱を始めていた。
◆◆◆◆
今日も読んでくれた人ありがとうございます!
登場人物が増えてきたので、
近々人物紹介ページを作ろうと思ってます!
自分も忘れそうなので!




