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リンカーネイトリンカーネイトリンカーネイト  作者: にがつのふつか
第五章 『ワールドエンドプレイヤーズ』
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『思考パラレル。』



「ふ……、ふぉぉぉぉぉおおおお!?」


裏返ったリクの声が地上から離れた上空から聞こえてくる。


浮遊魔法(レビテーション)により、

彼の身体は空へと舞い上がっていた。


地上でその様子を見守るコトハが、リクに声をかける。


「風船みたいだ。魔力の残量に気をつけて」


とても楽しそうだった。


「おっ……、おっ!?」


「一度停まってごらん」


リクは手足をバタバタとさせて、

不恰好な犬掻きの様な動きをしたが、

思うようには停まる事は出来なかった。


「身体の動きで停めようとしないで、

魔力を操作して停めるんだ」


「ど……、どうやって!?」


「そうだな。

そこに停滞してる自分を、

上から見下ろしている様な映像をイメージしてみたらどうかな?」


「わ……、わかった!!」


リクは眼を閉じて、コトハに言われた通りのイメージを、

頭に思い浮かべようとした。

地に足がついておらず、

ゆっくりとではあるが、

ふわふわと上昇していく自分の身体の感覚は中々に恐怖を感じるものだった。


()い。上手だよナツメくん」


コトハにそう言われて、

閉じていた眼をゆっくりと開くと、

リクは自分の身体が上昇を止めて、

空中で留まっている事をようやく認識できた。


「出来たッ!?」


「次はゆっくりと下に降りて来てごらん。

先刻と同じイメージで、

今度はカタツムリくらいにゆっくりの速度で、

下降していく自分を想像して」


下降は少し難しかった。

イメージが途切れそうになると、途端に足場が抜けて、

踏み外してしまう様に身体が揺さぶられ、

その度に心臓が止まる様な緊張を覚えた。


何しろ、かなりの高さまで上昇していたのだ。


倍近く時間をかけて、ゆっくりと下降していき、

地面に足が着くのを確認してから、

ようやく魔法を解除出来た。


「やっぱり君は器用だね」


「ゼェー……、ゼェー……、そ……、そうか……?」


「下降して行く自分のイメージに合わせて、

魔力を微調整する事が出来た。

言葉で聞くと当たり前の様に思えるかも知れないけれど、

同時に内容の違う二つの作業を開始して、

それぞれを独立させて進行させながら、

同じタイミングで終了させた様なものだよ。

思考の並列化と云うのかな。

出来ない人は出来ないと僕は思う」


「……よく……、わからん……」


「敢えて理屈で言えばそういう事になる。

わからなくても構わない。

理屈で理解出来ないなら、感覚で覚えれば良い。

その逆もまた然りさ。

理屈も感覚もバランス良く、

どっちも同じくらいのレベルで身に付ける事が大事だよ」


「……はい」


「当面の課題は、魔力量の少なさを克服する事。

いかにバランスが良くても、

そもそも扱い切れない事にはどうにもならないから」


「……なるほど」


「でも君が器用な点はもう一つあって、

少ない魔力を上手に遣り繰り(やりくり)して、

スキルの制御を行える事だ。

もしかして誰かに教えてもらったのかな?」


「……ヤエファにちょっとだけ」


「そうなんだ。彼女は教えるのが上手いね」


「……めっちゃ厳しかった」


「僕だって厳しいよ?

君のスキルは眠らせておくには勿体無い」


「……今日のところはこの辺で勘弁してください」


「ところでさ。

君がレンタルしたスキルは保存しておいて、

好きな時に取り出せるのかな?

新規のフォルダをどんどん追加して、

スキルをストック出来る感じだと、

とても良いんだけど。

容量みたいなものを君は把握して認識出来る?」


リクはそう言われて初めて、

確かに自分でも把握出来ていない事だと思い、

第一の声(ナビゲーター)と命名した、

スキル発動時にいつも聞こえる声に尋ねてみた。


──『現在、

三件のスキルをレンタルして保存してあります。

空き容量は、今現在、

保存中の、浮遊魔法と同程度の容量のものならば、

新たに、一つの新規スキルを保存出来ます』


(なんか、前より流暢に喋る様になったな)


──『いずれかの保存中のスキルを破棄して、容量を空けますか?』


(今、保存してある、もう一つのスキルって何だっけ?)


──『魔物(モンスター)スキル 角ウサギです』


(それだわ……。忘れてた……)


「どうだった?」


ナビゲーターと対話しながら、

難しそうな顔をしているリクにコトハが尋ねた。 


「角ウサギって知ってる……?」


「角ウサギ?あのウサギの形をした小さな魔物かい?」


「それ。最初にスキル使った時にさ、

たまたま角ウサギが居たんだよ」


「へえ」


「俺、角ウサギのスキルもレンタルしてたんだよ」


「ふむ。

人間には会得出来ない、

魔物固有のスキルも多い。

角ウサギのスキルを使う事が有るかはわからないけど、

魔物からもレンタルが出来るのなら、

君はどちらかと云えば、

魔族に近しい存在になり得るかもだね」


「へ?俺が?」


「あくまでも可能性の一つとしてね。

君は人間で、魔族では無いから。

でも君のスキルならば、或いは、

そういう事も超越してしまえるかも知れない」


「かっこいいじゃん」


「どう捉えるかは君の自由だよ」


そして二人は、リクの魔力が回復するのを待って、

ラロカへ魔法で飛んで行く事にした。


「浮遊魔法を発展させた飛翔魔法と云うものがある。

簡単に言うと、空を自在に飛べる。

君が浮遊魔法で浮かんでてくれたら、

僕が君を抱えて空を飛ぶから、

そのままラロカへ一直線に向かおう」


「飛翔魔法は教えてくれないのかよ」


「君ならすぐに出来ると思っているからさ。

だから、別に今すぐにじゃなくて良い」


「買い被り過ぎじゃないか?」


「買い被り?

とんでもないよ。

君は詠唱も無しで、

レンタルした魔法を再現してみせた。

会得して無い魔法をだよ?

術式を理解せずに、

見たままのものを模倣したんだ。

これがどれだけ異様な事だと思う?」


「異様て……」


「君のスキルは眠らせておくには勿体無いと言っただろう?

君はこの世界に於いて、とても稀有な存在なんだよ」


コトハはそう言って、リクに微笑み、

それから手を差し出して、リクの手を握った。


「さあ、ナツメくん。しっかり握っててくれよ」


「お……、おう」


「何を今更照れてるのさ、君は」


そう言ってコトハが強めに手を握り、

リクの身体をグイッと引き寄せた。

リクは何も返事をしなかった。


しなやかな白い指と綺麗な爪。

それに柔らかい手のひらだった。


コトハは不思議そうな顔をして、

リクの眼を覗き込んでいる。


リクに意識するなと言う方が無理があっただろう。


浮遊魔法とは桁違いの速度で、

二人の身体は上空へと舞い上がり、

雲を蹴るようにして、

遥か遠くに離れたクゼナイの方角へと駆け抜けて行った。


◆◆◆

本日投稿分になります!


ゆっくりペースですが、毎日投稿します!



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