『浮遊魔法。』
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光の泡沫が収まっていき、
辺りの景色は、
先程とは明らかに異なるものへと変化していった。
そこは古びた建物の中だった。
あらゆる物が朽ちて、錆びて、
長い間、誰にも手入れされずに、
ただ、そこに在っただけといった様相だった。
リクとコトハは、アメビックスの転移魔法により、
異世界へと戻る事に成功していた。
工房から転送された建物には、
二人以外の誰も居なかった。
「もう使われていない建物だね。どう見ても」
「こんな所にリロクが居るのかな?」
「さあね。
何しろ僕もラロカに来るのは初めてだから。
此処がどこなのかも判らない」
コトハはそう言いながら、
位置情報と周辺の地形を表示する魔法を発動させた。
二人の前に魔力で具現化された地図の映像が浮かび上がる。
「今、僕達が居るはここだね。ルシャワと云う村だ。
それからこっちが首都のクゼナイ。
距離でいうと100キロメートルくらい離れてる。
小さな国だけど、随分辺鄙なところへ送られたものだ」
「おお……、魔法便利……」
「ラロカ国内で感知できる、とても強い魔力が八つ。
どれもクゼナイに居る。そのどれかがリロクだろうね」
「じゃあクゼナイに行かないとか」
「そうだね。
その前に、この建物が何なのか少し調べてみないかな?
わざわざ此処を転送先にしているのが気になる」
コトハはそう言ってリクに手招きをし、
今居る部屋のドアを開けて、
その先の廊下を歩いて行った。
「しかし、お前その格好……」
「ん? 何か変かな?」
ジャージに短パン、素足にサンダル。
手にはチョコレートのたくさん入ったコンビニのビニール袋。
「完全にコンビニ帰りやないか」
「君は、こっちに居た時の服装に戻っているのにね。
僕は時間が経ち過ぎたのかな?
元々どんな服を着ていたのか忘れてしまったよ」
動き易い服が良いから、と言って、
コトハは寝間着のまま来ていたのだ。
「それに僕が何を着てたって、誰も気にしやしないよ」
コトハは本当に何も気にしてない様子でそう言った。
(美人なのに勿体ないよな。無頓着)
リクは心の中でそう思ったが、口にはしなかった。
コトハはキョロキョロと建物の様子を伺いながら、
時折、
無作為にあちこちの部屋のドアを開けて中を覗いていた。
その中の一つの部屋は、
他の部屋とは違い、少し広めの間取りになっていて、
部屋の壁一面はガラス張りのショーケースの様になっていた。
その他にも、実験器具や空の薬瓶の様なものが乱雑に押し込められた棚がいくつも並び、
床には途中まで描かれた魔法陣が残されている。
コトハがサンダルの底で床の魔法陣を踏みつけて擦り、
埃が舞い上がっていた。
リクは少し顔をしかめて咳き込んでいたが、
コトハは特に気に留める様子も無く、
ジャージのポケットから煙草を取り出して火をつけた。
カプセル入りのメンソールの煙草の、
ベリー系の香りが漂う。
煙を吐き出しながら、ことはは机の上に置かれた、
茶色に変色したファイルの様なものを無表情で捲っていた。
「何か実験施設って感じだな」
「感じじゃなくて、実際にそうだね。
此処はアメビックスの工房なんだろう」
「キナ臭いなー」
「君にも判っていただろう。
アメビックスは信頼するに値する様な人物じゃない。
どれだけ表面を取り繕ったとしても、
魔族は魔族だ。
此処で彼が何をしていたのかは想像に容易い」
コトハは煙草をサンダルの底で踏み潰して消した。
「人間を対象に惨い実験を繰り返し行っていたんだろう。ご丁寧に文章で記録して遺してあった」
コトハはそう言いながら部屋を後にした。
「ナツメくんに魂を縛る魔法を模倣してもらっておいて、正解だったな。
きっと裏切りの抑止になる。
彼は絶対に約束を反古するから」
「でも縛られてんのは俺らも一緒だろ?」
リクはそう言って、
二人の後ろを飛んでついてくるウーたんを指差した。
鳴き声を発する訳でもなく、
静かに二人に追従する姿は健気に映る。
「まあね。
牽制し合って、どちらが優位だと云う訳でも無い」
コトハはウーたんの頭を指で撫でていた。
「強いて云えば、彼にはウーたんが居る点だ」
「いや、俺には羨ましくは無いけど」
「悪趣味な彼にしては、可愛い使い魔を連れているよね」
「可愛いのか……?」
表に出るとコトハは周囲の地形を、
映像の地図と照らし合わせて確認をしていた。
「ていうかさ、100キロって遠くないか?
歩いて行くんじゃないだろうな?」
「まさか」
コトハは笑っていた。
「かといって。
魔法でひとっ飛びと云う訳にも行かなくてね。
馬車か何かに乗って行こう」
「え?そうなのか?魔法で行くのかと思ってたんだけと」
「僕にも出来る事と出来ない事が有るさ」
「何でも出来るんだと思った」
「空を飛んだりするかと思ってたのかい?」
「違ったけどな」
「飛べない事も無いけどね。
ナツメくんを抱えては飛べない」
「あ、俺のせいか」
「そうだ。飛んでみせるからさ、
スキルで模写してみたらどうかな?」
「え?出来るかな?」
「せっかくこっちに帰って来たんだ。
魔力を使わないと」
コトハがそう言って詠唱をすると、
彼女の身体は浮遊し、ゆっくりと上昇していった。
「ほら。こんな感じ」
ポケットに手を突っ込んだまま、
コトハは上空からリクに声をかけた。
「いきなり!ちょ……、集中させてくれ」
リクはそう言うと、
集中してスキルを発動させる為、眼を固く閉じた。
「アメビックスに組み込まれた、身体の中の魔力を読み取った時のイメージでやってごらん。
おそらく、僕から直接スキルレンタルをすると、
僕の魔法は一瞬途切れて落下しちゃうから」
「待て待て……!緊張させないでくれ」
「もし落っこちちゃったら、受け止めてくれよ。
ナツメくん」
そう言いながら、
コトハの身体は既に地表から随分高くへと離れていっていた。
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今日も読んでくれてありがとうございます!
投稿話数が減っちゃいましたが、
毎日投稿は続けていこうと思います!




