異世界篇 22 『風が吹いて帰還を知らせて。』
◆
「ゴゴゴゴゴゴ…………! ゴゴゴゴゴゴ………!!」
雷鳴の様な音と光が止み、
召喚されたナードグリズリーが、
踞っていた体勢から、ゆっくりと立ち上がっていった。
「ゴゴゴゴゴゴ、口で言ってんじゃん。
そういうのいいからーー」
「やあ、久しぶりだね。フーちゃん」
「ええ。ええ、ええ、ええ。
ご無沙汰ですな。
スイさん。相変わらず、お美しい。ええ、ええ。
正直、どストライクなんだが。
推し、若しくは嫁。
ちな同担拒否。
ええ、ええ」
「相変わらず君はお喋りだね」
「マジうるせーー」
「ええ。ええ、ええ、ええ。
ところでご用件は何でしょう?ええ。
存じ上げない御方が幾人かチラホラと。
ええ、ええ、ええ」
「色々あったのーー。フーちゃんさ、
トーキングヘッズって魔導書知ってる?
無茶苦茶な能力使ってきて、
にっちもさっちも行かねーーんだけど」
「はいはいはい。なるほどなるほど。
勿の論で知ってますが。
大昔のイカれた魔術師が、
生涯を賭けて造り上げたって云う奇書ですな」
「奇書?」
「魔導書ってのは、
魔法を記録して刻み込んでおく為のもんです。
魔力さえありゃ、
誰だって仕舞っておいた魔法を取り出して使える、
簡易の発動装置みたいな仕組みなんですがね、
トーキングヘッズが奇書と呼ばれる由縁は、
製作者のイカれた魔術師の意識をそのまんま記録している点なんです」
「意識を?それはまた一体何故?」
「大方、肉体が滅びた後に、
意識を魔導書に写しておけば、
新しい肉体を手に入れる事で、
再び蘇生が出来るとでも考えたんでしょうな。
一種の転生願望ですな」
「転生願望」
「あたしが知ってる限りでも、
ウン百年は昔の話ですからね。
魔導書に写した意識も、
疾うに消滅しててもおかしくは無いんですがね。
未だもって動き続けてるって事ァ、
何らかのカラクリがあるんでしょうな」
「今は所有者を得て、
所有者のスキルとして発動しているんだけど。
ちなみにこの娘が所有者」
「ええ、ええ。
こちらのパンツ丸出しの?」
「そう。このパンツ丸出しの」
「もういい加減離して欲しいんだが!!?」
「はいはいはい。
随分と刺激的なファッションをしてらっしゃる。
嫌いじゃない。
ええ、ええ、ええ」
「イツカが好きでやってるんじゃないからな!?」
「判定と審判って云うスキルで、
こちらの攻撃を全て無効化して、
受けた攻撃を全て反射して来るんだ。
しかも防御も出来ないし躱せない」
「なるほどなるほど。
製作者は頭のおかしいトチ狂った研究を続けた挙句の果てに、
死罪になったって与太話ですからね。
今際の執念がその能力を産んだんでしょうな。
判定と審判とは、巧いことを言ったもんです。
疾うに手前はおっ死んでのに」
「とりあえず、
トーキングヘッズの反射攻撃を防ぎたい。
フーちゃんなら、魔法を喰って消してしまえるよね?」
「なるほどなるほど。
その為に呼び出されたんですな。
最近胃もたれもひどいんですが」
「やってくれる?」
「ええ、ええ。
スイさんのお願いとあらば」
「フーちゃんがトーキングヘッズのスキルに巻き込まれないと良いんだけど」
「ええ、ええ。
あたしゃ、読んで字の如く、
魔性から産まれた獣ですからね。
魔術師殺しなんて呼ばれてた老いぼれの、
昔取った杵柄の真価をお見せいたしましょうかね」
◆◆
『判定 魔導書及び所有者への悪意ある攻撃を確認
審判 対象への反復攻撃を行う』
トーキングヘッズによる18回目の宣告が行われた。
「ゼェーーーッッ……! ゼェーーーッッ……!!」
ズレたリュートのチューニングを整えながら、
ロロは息も絶え絶えに次の呪歌を唄う為に、
スキルで無理矢理に喉を開いていた。
「ぢょッ、バジでドロがダバいッズ……!!」
クジンは反復攻撃を受ける度に、
ロロの呪歌で回復をしてもらっていたものの、
ロロの喉が限界に近づくにつれて、
傷が回復する限度も狭められてきていた。
「チッ……! おい! 呪歌使い!!
もっと回復出来る呪歌は無いのか!?
先刻のは殆ど直撃に近かったぞ!?」
「こんのッッ……!! ムキーッ!!
人の苦労も知らないでよく言えるッスね!?
クジンさんこそ、もうちょっと頑張って欲しいッス!!
非協力的ッス!!」
「黙れ!
こっちだって性質変化で、
かろうじて致命傷を逃れるのが関の山だ!!」
「めっちゃ偉そうッス!!
絶対女の子にモテないッス!!」
「いいから疾く呪歌を唄え!!
次が来るぞ!!」
18回目の反復攻撃が行われ、
刃の様な旋風が、
クジンの身体をバラバラに切り裂こうと放たれ、
正面から、それを喰らった彼は、
四肢や顔や身体中のあらゆる所から鮮血を吹き出し、
痛みと剰りにも多すぎる出血の為に、
意識を失いそうになりながらも、
回復の呪歌によって再び持ち堪える事が出来た。
しかし、呪歌の効力は目に見えて落ちている。
出血は治まり、傷も塞がろうとはしているが、
身体を切り裂かれた痛みは残り、
確実にダメージを与えられている。
(あと6回。絶望的だ)
「ええ、ええ。
ロロさん。お久しぶりです。
相変わらず愛くるしい。
いつぞや、森で会った以来ですな。
ええ、ええ」
突如として現れた、
人語を喋る二頭身の魔獣。
「フーちゃんさん!」
「ええ、ええ。
ややこしいんで統一してもらって結構ですからね。
ええ、ええ」
「何だ?この気味の悪い魔獣は?」
「ええ、ええ。
口の利き方。
手こずってらっしゃると聞いたもんですから。
ええ、ええ」
「ユンタが呼んだのか?余計な事を」
「お兄さん。強がりも程々に。
魔法使いってのも因果な商売で、
どうにか相手より優位に立ってやろうとする剰り、時折、
ああやってバケモノみたいな魔法が産まれちまうんでしてね。
あたしに言わせりゃあ、
完封する為の能力なんざ、
随分下品な手の内に見えますがね、
あんたが真面な魔法使いである限り、
トーキングヘッズにゃ、
どう足掻いても勝てやしませんぜ」
「お前なら勝てると言うのか?」
「ま。そういう事ですな」
『判定 魔導書及び所有者への悪意ある攻撃を確認
審判 対象への反復攻撃を行う』
トーキングヘッズの宣告が行われ、
三人を丸ごと飲み込んでも、
未だ余る巨大な火球が撃ち放たれた。
ロロが呪歌を唄おうとスキルを発動しようとした瞬間、
フーが短い手でそれを制した。
そして火球は止まる事無く撃ち込まれ、
フーはそれを正面から受けた様に見えた。
しかし、
フーは火球の正面から立っていただけだが、
着弾の寸前に巨大な火球は跡形もなく消え失せてしまっていた。
「魔法が消えた!?」
「ええ、ええ。
あたしゃ、大概の魔法は吸収して喰っちまうんです。
一体どっちの品が無いんだって話なんですがね」
「信じられん。お前バケモノか」
「そりゃ魔獣ですから」
◆◆◆
「成功したね。
トーキングヘッズもフーちゃんのスキルに反応はしなかった」
「ズルいぞ!? 何だよ君の召喚した、
あのポ○モン!?」
「ポ○モンじゃねーし。てか何だよポ○モンて?」
「トーキングヘッズの反復攻撃を消したな!?
そんな事有り得ないんだ!!
判定と審判の判決は絶対なんだ!!」
「ウチに言われてもわかんねーーよ」
「ズルい! ズルいズルい!!」
イツカは涙目になりながら抗議を続けた。
「ふふん。勝った」
スイが得意気に腰に手を当てて、イツカを見下ろした。
「君は何にもしてないからな!?」
◆◆◆◆
「納得がいかん」
トーキングヘッズの、
残りの全ての反復攻撃をフーが消し去った後に、
クジンが忌々しそうに呟いた。
「まーいーじゃないッスか? 結果助かったんだし」
「魔法を喰ったんだぞ?
そんな馬鹿な事があってたまるか」
「ええ、ええ。
人間の魔法使いてのは、
どうにも頭や理屈で魔法てもんを捉えがちですからな。
出来る訳がない、てのは禁句ですぜ」
「俺も魔法は理屈が全てでは無いとは思っている。
だが、お前のは度が過ぎている。
あくまでも制御をする事を前提にしている魔法に於いて、
根源の不明瞭さなど、不安を煽るものでしか無い」
「ままま。小難しい事は抜きにしましょう。
魔法ですからね。
白紙に絵を描くのと似た様なもんで、
頭のネジが飛んでる奴の方が、
自由に描けるもんです。
これは、あたしの持論ですがね。
この辺りの感覚を理解出来てたのは、
あたしの知ってる限り、人間じゃあ、あの人だけでしたね」
「あの人?」
フーは目線を何処か遠くに向けて、
嬉しそうな表情を浮かべていた。
「懐かしい匂いがしますなあ。
中央の魔女。
未だ、この世界が、貴女を必要としているって事で、
間違いは無いでしょう。
ええ、ええ」
ラロカ、クゼナイにて、
潮の香りの混ざった風が緩やかに吹き抜けていった。
◆◆◆◆◆
お疲れ様でした!
投稿遅くなりましたけど、
第4章、異世界篇も終了しまして、
次話から第5章に移ります!
まだ、一向は合流してないので、
二つのパートを書いていく予定ですが、
もうちょっとわかりやすく書けたら良いなと思ってます!
全然関係無いけど、
今日、NEEてアーティストの“夜中の風船”て曲がBGMでしたー




