異世界篇 21 『黒。』
本日投稿分です!
長くなっちゃいましたけど明日で第4章終了しますー
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「我が親愛なる光と雷の精霊よ。
汝ら、我と結びし契約という友愛の名のもとに、
静寂を切り裂き、
千里の先まで轟きし震える弦を鳴らしたまえ。
邪な者を打ち払い焼き尽くす慟哭の雷鳴を。
目の前の悪しき壁を汝らの蒼き牙で穿ち貫きたまえ!!」
スイの澄んだ声が響き、詠唱が終わると、
蒼白く光を纏った一閃の雷が放たれていった。
───『雷光の弩!!』
しかし、語りの書は、
クジンへの攻撃の手を緩めないまま、
同時にスイの魔法も無効化して消し去ってしまった。
『攻撃を確認 属性の解析
ダウンロード中 対象を確認 ダウンロード完了』
「ロロ。
悪いんだけれど呪歌を頼めるかな」
「了解ッス!!!」
『判定 魔導書及び所有者への悪意ある攻撃
審判 対象への反復攻撃を行う』
トーキングヘッズが宣告を行い、
攻撃対象に加えられたスイへ反撃が行われた。
スイもクジンと同様に、
躱す事が出来ずに雷撃魔法に因って身体を貫かれた。
「♪セイレーンの高らかな声に合わせ
バンシーは清き愛を叫ぶ
船乗りたちは皆笑い
迷える船路に光差す
竪琴よ鳴れ
歌声よ響け!!」
───『混沌に光差すカノン!!!』
失いそうになったスイの意識を、
ロロの呪歌が癒しと共に保たせ、
スイは身体が倒れるのを持ちこたえた。
「スイちゃん!! 大丈夫ッスか!?」
「ありがとう。わたしは平気だよ」
(なるほど。
確かに反射された攻撃を全く躱す事が出来ない。
避けようと思ったのに。
直撃を喰らっちゃった)
「イツカの話ちゃんと聞いてたかな!?
トーキングヘッズに攻撃しても無駄だな!!」
自信たっぷりにそう言ったイツカの方を向き直り、
スイはイツカの頭を叩こうとして手を振りかぶった。
しかし、
スイの振り下ろした手がイツカの頭に当たる事は無く、
反発して来る様な奇妙な感覚が手のひらに残るだけだった。
『判定 所有者への悪意ある攻撃
審判 対象への反復攻撃を行う』
───パンッッ!!
「痛ッ」
当然、トーキングヘッズによる反復攻撃が発動し、
スイは後頭部を叩かれた。
「無駄だと言った筈だが!!
いきなり叩いてくるから、
ちょっとだけビックリしたけどな!!」
「君の言う通りだ。
少し憎たらしいけど」
スイは頭を擦りながら言った。
反射された攻撃魔法に因る炸裂音が響き渡り、
ロロが呪歌でクジンの傷を回復させている。
「24回か。今何回目だっけかな?
傷は回復出来ても、ロロが保たない」
「諦めるんだな!!
降参して、さっさとこの国から出てくんだな!!
イツカには女の子を虐める趣味は無いからな!」
「やれやれ。
どうしてこうも、天恵者と云う存在は、
誰も彼も完全無欠の様な能力を持っているんだろうね?」
「それはイツカが選ばれし者だからだな!」
「全然答えになってない。
もっと真面目に答えて」
「そんな事言われてもな。イツカも困るんだが」
「もういい。君じゃ話にならない」
「冷たいな!」
◆◆
(この娘から攻撃を仕掛けて来る事は無さそうだね。
というよりも、
ひょっとして出来ないのかな?
魔導書が手元に無いから。
有り得る。
あんなに無茶苦茶な能力なんだ、
何か制限があってもおかしくない。
でも、
だから何だって話だけど)
イツカ自身は攻撃しない事と、
第三者が攻撃対象に回復等の補助を行っても、
トーキングヘッズはそれには関与して来ない事は解った。
それでも未だ、
単純かつ明快だが、トーキングヘッズの強力過ぎる能力を撃ち破る算段はまるでつかない。
違う攻撃パターンを試すか、
一斉攻撃を仕掛けてみるか、
色々な策が浮かびはするが、
回復役のロロの負担が増えてしまうかも知れない。
(こんな時にリクが居てくれたらな。
相手の能力を一瞬封じれるだなんて、
よく考えたら最強じゃないか)
一瞬そんな事を思ってしまった。
(リクのバカ。
急に居なくなるなんて。
君が居ない所為でパーティーが危機に直面してしまってるよ。
さっさと帰って来い、
バカバカバーカ)
「フッフッフ……!
打つ手無しだな!! 万事休すだな!!」
イツカがポーズを決めて、
スイの目の前に立ち塞がった。
「うるさいな」
「フッフッフ……!
負け惜しみは止めておくんだな」
「……」
スイは何も言わず、
唐突にイツカのスカートを捲った。
「ひゃアッッッ!?!?
な……、なななななな何をするんだ!?」
「黒か。それに意外と大人っぽいのを着けてるんだね」
スイはスカートを掴んだ手を離さず、
まじまじとイツカの露になった下着を眺めている。
「にゃ!?!?
こ……、こんな事しても無駄だからな!?」
「わかってるよ。ただの苦し紛れの嫌がらせだ。
でも、このくらいじゃトーキングヘッズは反応しないみたいだね」
「わ……、わかったら手を離すんだな!!」
「トーキングヘッズの言う“悪意”とは何だろうね?
わたしのこの行動には悪意を読み取って無いって事なのかな?
嫌がらせだし、悪質だし。
悪意そのものじゃないか。
それに君のパンツは黒だ」
下着に装飾された、銀色のチャームが揺れる。
「わかった!! わかったから離すんだな!!」
「こうやって君の意識を反らしても、
トーキングヘッズの判定と審判は自動で発動するんだね」
「だから、そうだと言っているんだけどな!!」
下着を丸出しにされてしまう程に、
スカートを捲り上げられたイツカの事が不憫になった、
シャオとユンタが止めに入った。
「スイ。なんだか破廉恥ですから……。
止めてあげてください」
「そーーだよーー。もーパンツ丸見えじゃん笑」
「助けて! 恥ずかしいんだが!」
イツカが顔を真っ赤にして必死に抗って、
スカートを戻そうとしている。
「君!! 君の名前は何と言ったかな!?
イツカは絶対に君の事を許さないからな!?
顔も憶えたからな!!」
「わたしの名前はスイだよ。
許さないか。
やれるものならやってみろ、このパンツ娘」
「き……、君が捲ってるんだろうが!?」
「スイ。イライラしているのは分かりますが、
小さな男の子じゃないんですから、その辺で……。
一応男性もいますし……」
「でも、そろそろどーーにかしないと、マズいよね。
あのまんまじゃクジンが死んじまうし、
ロロ子も喉がやばいよな」
「二人はどう思う?
ロロの呪歌にはトーキングヘッズは反応しない。
“悪意”の定義がよく分からないけど、
攻撃を直接仕掛けなければ、
あの能力は発動しないんだと思う?」
「そーーいやそうだね」
「でも攻撃しなければ勝てませんよ?」
「今思いついたんだけど、ひょっとして、
トーキングヘッズに直接影響が無ければ、
反射の攻撃を妨害する事が出来るんじゃないかな?」
「どーーやって?横から魔法に魔法をブチ込むとか?」
「ユンタには彼が居るじゃないか。
幸い、クジンは魔法の攻撃だけしてくれた。
うってつけだと思わない?」
「なるほどねーー♪
スイちゃん、あったま良いーー♪」
そして、ユンタは詠唱を始めた。
詠唱に因ってユンタの身体中に張り巡らされた魔力が、
可視化出来る程の実体を持って体外に放出されていき、
一瞬、揺れる様な風が吹いて、
辺りの空気を一変させていく。
かつて獣巫女と呼ばれた召喚術師が、
神代の世界を生きた古の獣を呼ぶ為の魔法の術式を発動させる。
「金色の王よ。
誇り高き古の獣よ。
世界を蹂躙せし暴虐の化身よ。
汝、我と結びたもうた契約により、
我が命によりその身をここに顕したまえ!!」
───『ナードグリズリー!!』
雷鳴の様な凄まじい音と、
強烈な光の渦に、辺りは真っ白になる程に包まれていく。
「ひッッさびさだからなーー!?
全部喰らい尽くして、おかわり無しだこのヤローー!!」
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