第十四話『獣の少女。』
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「ええ~?シャオってエルフの血が入ってんのか~。どうりで色白だし美人なわけだな~~」
リクがスケベそうにニヤニヤとしながらシャオを見た。
今朝はブレストプレートを外しているシャオの豊かな胸元に自然と目がいってしまうようだった。
歩く度にゆさゆさと揺れる胸をついつい凝視してしまい目線が離せなくなってしまっていた。
「母親がハーフエルフなので。私はクォーターエルフですから多分リクさんがイメージしているような尖った耳は持っていないですけど」
「そうなんだ~~。これから一緒に旅をしてくのが楽しみだな~~~えへへへ」
「リク。君は朝からとっても気持ち悪いんだね」
「うるさい!エルフたんが旅のパーティーの仲間で喜ばない男なんているもんか!!」
「はいはい。シャオ。リクはこういう奴だからね。君は色々と気をつけた方が良い」
「ありがとうございます……。スイはやっぱり……なんだかんだ私を守ってくれます」
シャオが頬を赤らめて囁くように言った。
「いや、そういう意味で言ったんじゃないんだけど……。君たちは朝から随分元気だね?わたしはまだ少し眠たいよ」
「昨夜は本当に素敵な夜でしたね………。スイのお部屋に泊めてもらえましたし……。一緒のベッドでは眠ってくれなかったですけど……。私、本当にスイとパーティーが組めて幸せです………」
「おーい。シャオ。戻ってきてくれないか?リク。昨夜からずっとこの調子なんだ。私はどうしたらいいんだろう?」
スイは昨夜の宴の後、酔いがなかなか醒めず泣きじゃくりながら抱きついて離れなかったシャオを宮廷の敷地内にある自宅へ連れて帰っていた。
寄り添うように歩いて行った2人の姿を見送りながら、リクはとても微笑ましい気持ちになっていたのを思いだしていた。
「まぁ、いいじゃん!俺は朝から美人二人と過ごせて幸せだぞ?」
「それは聞いてないかな。でも楽しそうでなにより」
「私も楽しいです!!」
「はいはい。そんなにくっついていると歩きづらいからもう少し離れて歩こうか?」
「朝から美人の百合いちゃラブ……眼福!!異世界ありがとう!!」
「大きな声で……。うるさいなぁ………。鑑定所でパーティーに誘ったメンバーと合流するからね。二人とももう少しシャキッとしておくんだね」
今朝はリクのスキル鑑定の為、三人でスキルの鑑定所へ向かう最中だった。
「ところでスイ?他のメンバーの方は誰を誘ったんですか?」
「ああ、言ってなかったかな?ユンタとヤンマを誘ったんだ」
「ユンタさんってあの猫の亜人の方でしたよね?」
「そうだよ。シャオは昔何度か会ったんだったね」
「猫の亜人ってことは……?もしかして猫耳の女子……?」
「もしかしなくてもそうだよ。君が大好きな猫耳。昨日話してた子だよ」
「マジかよ!?くぅーーーー!!」
「わぁ気持ち悪い。ユンタといいシャオといい、君好みのメンバーになってしまったな」
シャオがきょとんとした顔で「そうなんですか?」と聞いた。
「そうだよ。リクはエルフとか猫耳とかが大好きなんだ。それと大きな胸をした女の子に目がないんだ。おっぱい星人というやつだ」
「まだその話してんのか!?」
「幼く見えても一人前の変態だ。リクを甘く見ない方がいい」
「それは……正直気持ち悪いですね………。でも安心してください!私の身も心も全て、スイに捧げるためのものですから………。どれだけリクさんが下心丸出しのド変態野郎だとしても指一本触れさせませんから」
「あのさ……シャオってちょっとだけ、口悪いよね……?」
「捧げなくてもいいんだよ?ま、そういうわけで胸の無いわたしは心配はいらないんだけれどシャオは気をつけるんだね。それに今日は何で胸当てを外しているんだい?リクの思うつぼだよ?」
「私はスイの胸大好きですから!!暖かくて、柔らかくて……昨夜の温もりがまだ忘れられません!!それと……今日はスイとデートだと思っていたので……出来るだけおめかしを……ポッ」
「大きな声でそういう事を言わないで。それに今日はデートではないよ?なんでデートだと思ったんだろう?リクのスキル鑑定に今から行くんだよ?」
王宮を出てしばらく歩くと、スイ曰く“お堅い”通りに沿って併設された大きな建物が見えて、「あの建物だよ」とスイがリクに教えた。
「おーーい。スイーーーーーー」
建物の入り口の前で三人にブンブンと手を振っている人物がいた。
ショートカットの赤色の髪で、スイと同じくらい小柄な美少女だった。肩の開いた大きなシルエットの白いTシャツとジョガーパンツの様な服装で、異世界に不釣り合いなほどにものすごくスポーティーに見えた。そして、人間と同じ位置にある耳とは別に、頭には左右で色の違う三毛猫のような耳が生えていた。
“きーーーたーーー!ザ・異世界。猫耳の女子きたーーー!!!わーーーめっちゃ小さくて可愛いなこの子!!なんか少し違うけど日本人みたいな格好してんな?心なしかちょっとヤンキーぽい?それとスイの友達って言ってたけど……子供じゃないよな?”
「おはよう。ユンタ」
「おはよーー。朝早くからごくろーさんだねぇ。そっちの白い綺麗な子は……もしかしてクアイ君とこの娘っ子かな?えーーーと……」
「シャオです。お久しぶりですユンタさん」
「あーーー!そうそう、シャオちゃんだ。わーーーおっきくなったねーーー!!色々と。前会った時はまだ子供でちっちゃかったのにーーー!別嬪さんじゃんーーー。
えーと。それでこっちの子がニホンから来た子だね?
はじめましてーーー。ウチはユンタだよ。よろしくねー」
しっぽをゆらゆらとさせながらユンタはリクに挨拶をした。
大きな瑠璃色の瞳は見ていると吸い込まれそうになると感じる程に綺麗だった。
「あ、ああ。はじめまして。リクです(ノリ軽っ!シャオが敬語使ってるから年上なのか?なんか……やっぱりヤンキーぽいな……)」
「あーー敬語とかいいよいいよー、シャオちんもタメ語でいいからね」
「あれ?ヤンマは来てないのかな?」
「来るときに店寄ったんだけどさ?ヤンマ行かねーって言ってたよ?店あるから忙しいとか言って」
「えー。あとで寄ってみようかな?」
「そうしてあげなよー。スイに会いてーって言ってたよ?ヤンマもなかなか多忙やな」
「そうだね。コトハさんも私もいなくなってお店を一人でやってるから」
「あ。リクだっけ?君もあとで一緒にヤンマのとこ行こー。服とか装備とかまだ無いっしょ?ヤンマのとこで買えば施呪もサービスしてくれるからさ」
「施呪?」
「武器とか道具の能力の底上げみたいなことかなー?ヤンマはこの国一番の呪具師だからねー。あ、ヤンマのこと知ってる?スイのパパね」
「すげーかっこいい響きなんだが!!ヤンマさん?の話は聞いたから知ってるよ」
「リクは着の身着のまま来てしまったからね。服とかもあとで買いに行こうね。ヤンマが怒るかもしれないけど、ちゃんとした服屋さんに行こう」
「えーーー?ヤンマのとこで買わなくていいの?」
「ヤンマのところの服ってヤンマがデザインしているから奇抜なものが多いだろう?」
建物の入り口のドアを開け、中に入ると受付のカウンターがあり、スイが手続きを済ませてくれて4人は待合室のテーブルに座った。お茶が出されて、お茶を飲みながらシャオが言った。
「私、ヤンマさんに会うのも本当に久しぶりで楽しみです。スイのお家に行くのも子供の時以来ですね!……それと、イファルには呪具師がいないので、胸当てをやっぱり持って来てたら良かったです…」
「出発前にまた行ってみようか」
「施呪っていうのもスキルなのか?」
「そうだよ。ヤンマのスキルは物質に呪いをかけるんだ。呪いって聞くと怖く聞こえるけど、ユンタがさっき言っていたみたいなステータスの向上が主だね」
「強化バフみたいなことぽいな。ところでさ、みんなはどんなスキルがあるんだ?」
「ウチは得意なのは召喚術。契約してる魔獣の子たちと一緒に戦うよー。呼び出せるのは同時に三体までで、三体目を召喚したらウチはその場から動けなくなっちゃうけど」
「すごそうだなっっ!ユンタは強いんだな?」
「ウチがってゆーより呼び出す子たちが強いね」
「三体も同時に召喚出来るのは世界広しと云えどユンタくらいのものだよ。彼女はとっても優秀な召喚術師だからね」
「そんなに誉めんなよーー照れるーー」
「私はもう言ったけれど精霊魔法だよ。難点は常に精霊と接続している状態だから基本的に消費が激しくてすぐにお腹が空いてしまう」
「知ってる。お前朝もめちゃくちゃ食べてたよな?昨夜あんなに食ったのに」
リクは城での朝食の様子を思い出していた。自分の何倍も朝食を平らげるスイに、リクだけが唖然としていた。
「燃費が悪いんだ」
「シャオは?」
リクが尋ねるとシャオは少しもじもじとしながら恥ずかしそうに言った。
「あの……私は近接の格闘術全般と……補助スキルで各種筋力強化が少々………」
「か、格闘術??なんか俺の思うエルフのイメージとだいぶ違うんだけど……?」
「す、すみません……!私、どうも魔法に縁がなくて……エルフらしく後方支援の魔法が使えたら良かったんですが……」
「シャオはパワー押しのゴリッゴリの前衛タイプだからね」
「ス、スイ!!やめてください!気にしてるんですから!」
「気にする必要なんてないさ。私は運動が苦手だからシャオが羨ましいよ」
「スイ………!私、スイを絶対に守りますから!!この命と引き換えてでも!!」
「はいはい。ありがとう。でも死んだらダメかな?悲しいじゃないか。そんなことにならないように気をつけるし、私だって君を守るから」
「そ、そんな………!守ってくれるだなんて……!!はぁぁぁん!!スイはやっぱり私の………」
「なんなんだよこの無自覚王子と百合の姫」
「えーーーなになに?シャオちんてスイのこと好きなん?」
「はい!!生涯の伴侶として、スイに私の全てを捧げて添い遂げる所存です!!」
「いや、その話はもういいから……」
スイが呆れながら出されたお茶をすすった。
「いいじゃんいいじゃん。相変わらずモテモテだねーーー。詳しく聞かせてよ」
ユンタが身を乗り出してシャオから話を聞こうとした時、奥の部屋からリクが呼ばれ、スイが付き添いで行くことにした。
「じゃあ、行って来るから。ユンタはあまりシャオに何か変な事教えないでね?シャオもあまり大きな声で変な事を言わないように。リク、行こう」
「ああ」
スイに続いてリクも係の者に案内されて奥の部屋へと入っていった。期待と不安に心を踊らせて、自分のまだ知らない隠された力を早く知りたい気持ちでいっぱいだった。
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