イセカイ篇 21 『ウーたんと代理と選択。』
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「先生。
ラロカにリロクが居るって何で知ってんの?
先生はあたしに何か隠してない?」
「何故そう思う?」
「先生が何か変だからだよ。
殺したいとか言ってるし。
リロクと先生は何が有るの?教えてよ」
「君達と工房を守る為だよ。
私にとって、この場所を造り、移民の計画を遂行して、
あの世界の子供達を一人でも多く救う事は、
生涯を懸けて行うべき使命の様なものだと思っているからだ。
リロクはその障害になり得る」
「だからって人質取るなんて」
「私にはリロクと戦える程の力は無い。
彼女の力を借りる他無いのさ。
それも出来る限り安全にね。
既に言ったが、ことはは私にとって脅威的な存在だ。
君達を守るのと同じく、
自分の身を守らなければならない」
「ことはだって、
ちゃんと説明したらわかってくれたよね?」
悠さんがことはにそう訊いた。
「アメビックスが僕にとって良くない存在だとしたら、
躊躇無く彼も殺すだろうね。
だから、彼の行動は防衛だ。間違ってはいない。
どんなにやり方が卑劣だとしてもね」
ことは淡々と返答をした。事実だけを述べて。
「あんたもどうかしてるよ……」
「リンイェ。心配はいらない。
私達は引き続き移民の計画を遂行する為に、
動き続ければ良い。
危険な事は彼女達に任せよう」
「言い方だよ……。
リロクを倒したら、
リク君に掛けた魔法は解いてあげるんだよね?」
「無論だ。
私にとってリクの命を危険に晒すのは不本意だ」
死んじゃう様な魔法なんだ、
俺はそう考えて心底ゾッとしている。
「それはそうと。
僕達が異世界でリロクを倒した後に、
ナツメくんの魔法はどうやって解かれるんだろう。
君はそれをどうやって確かめる?」
「心配はいらない。君達には私の使い魔を同行させる。
口を聞かない奴だし、小さなサイズだ。
邪魔にも手助けにもならないだろう」
アメビックスはそう言うと、
羽の生えた小さな生き物を俺に差し出した。
カワウソと何かを足して2で割ったような顔……、
何だか、決して可愛くは無いが、
好きな人は好きかも知れない。
「俺、小動物苦手なんだけど……」
もふもふとした体毛に覆われた使い魔を、
おっかなびっくり受け取ると、
すぐに翼を羽ばたかさせて俺の頭の辺りを旋回しだした。
「きもッッ!!」
「名前でもつけたら?」
ことはがそう言って使い魔を腕に留まらせて遊んでいる。
「やだよ」
「じゃあさ、ウーたんって名前にしよう。
カワウソに似ているし」
何を呑気な。と俺は少しだけ思ったが、
ことはは何やらウーたんと戯れて楽しげだ。
思いの外、動物が好きなのかも知れない。
「そんな事はしないと思うが、
使い魔が消滅した時点で、
君達は私との契約を破ったと判断させてもらう」
「契約。大袈裟だよ」
「魔族の習性の様なものだろうな。
信用を得られないから契約で繋がりたがる」
アメビックスはそう言いながら俺が投げ棄てたカップの片付けを始めた。
「それで僕達はいつ異世界に送ってもらえるのかな?」
「明日の晩にもう一度来てくれ。
それなりに準備も要るのでね」
「明日。
悠ちゃん、明日僕はシフトに入ってると思うんだけど、
休んではダメかな?」
「明日はダメ。理央と茉央が休み」
「えー」
「ズル休みかよ?
あ! 先生。
ことは達がリロクを倒した後にこっちに戻せる?」
「どうして?」
「ことはが向こうに行っちゃったら店が困るんだけど。
この娘人気凄いし。絶対クレーム来る」
「あちらの世界で転移魔法を使う他無いな」
「出発って遅れちゃダメなの?
せめて次のバイトが見つかるまでとか」
「悠、
私も出来る事なら君の要望通りにしてあげたいが。
時間は差し迫って来る一方だ」
「マジか……。どうしよ。
オーナーに何て言ったら良いんだろ」
「僕もアパートを解約しなくちゃなのか。
明日のバイトの時間までに起きて大家さんの所に……、
どうしよう。起きれる自信が全く無い」
「それなら問題は無い。
君があちらに行った後に、
私が代理で行こう」
「本人じゃ無くても大丈夫なのかな?」
「魔法で何とかするさ。
手続きに必要な印鑑やら本人を証明するものを明日の晩に持って来てくれ。もう君には不要だ。処分もしておく」
「わかった。それならお願いしようかな。
そして僕はゆっくり寝る」
魔族に代理を頼む。なんだかシュールだ。
「リク。君は良いのか?
代理で済ませれる事なら請け負うぞ?」
「いや……、俺は別に無いけど……」
何故か優しい魔族。
「もう戻って来れない可能性もあるんだぞ?」
アメビックスに言われて少しだけドキリとした。
家族の事や学校の事が頭を過らなかったと云えば嘘になる。
俺にとっては、両方共、煩わしいものだと思っている。
自分が所属している数少ない、
その二つのものから俺は、
爪弾きの状態になっている。
きっと自分でそう望んだんだろう。
俺にはこの世界との繋がりが無い。
それもきっと思い込みだろうが。
放り出して行く覚悟は全然あるんだけど、
全てを捨てると云う事に少しだけ緊張する。
全てを捨て去って、
例えこの先、この世界に戻って来る事があったとしても、
俺はきっと、
ことはの様には上手に生きていけない気がする。
俺がこの世界を捨てると云う事は、
この世界に俺も捨てられると云う事で、
それは間接的に死を意味するんじゃないかと思う。
異世界に行く事は、
もう戻らない行方不明者の一人になると云う事だ。
あくまで、俺にとってはだが。
一度目の転移は自分の意志じゃ無かった。
だけど、
次は自分の意志で異世界に行くんだ。
自分の意志で選ばなきゃならない。
俺が少し不安になっているのに、
ことはが気づいたのだろう。
少しだけ柔らかい口調で、
俺に声をかけてくれた。
「ナツメくん。今夜は一度家に戻るかい?
気が進まないなら、
僕の家に泊まったって勿論構わない。
君の自由にして良いんだ」
俺は首を横に振った。
ことはにどう伝わったのかはわからないが、
彼女は少しだけ微笑んで頷いている。
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