イセカイ篇 20 『蛇蟲。』
本日 この1話のみになります!
今週で現在進行中の第4章が終了する予定です!
もう少々お付き合いくださいー
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ことはが少しブッ飛んでいる所為なのか、
俺には目の前の魔族が少しだけ、
まともに見える。
角も生えてるし、不気味ではあるんだけど。
なんとなく、
促されるままに出されたお茶を一口啜っていた。
「ナツメくん」
俺は緊張の余り、周囲の音を聞き逃していたのか、
急にことはに声をかけられて、驚いて飲んでいたお茶を吹き出しそうになり、
慌ててそれを飲み込んでしまった。
「プフッッッ!!?」
「呆れたな君には」
ことはが本当に呆れた様な声を出している。
「何がッ!!? 急に声かけんな!!」
「魔族が出したお茶を、よく躊躇無く飲めたね?
何か盛られているかもとか考えないのかい?」
「毒ッ!!!?」
ことはが溜め息を吐いた。
「可能性の話だよ。毒は入っていない」
「ビビらせんなよ……」
「でも、
差し出す→受け取る。
と云う行為で術式を成立させる事が出来る魔法は存在する。
今、君が出されたお茶を飲んだのがそれだ。
時には毒よりも厄介かも知れない」
俺は咄嗟にお茶の入ったカップを床に投げ棄てて、
アメビックスの様子を伺った。
アメビックスは相変わらず笑みを浮かべていたが、
嘲笑や冷笑と云ったようなニュアンスに近いものに俺には見えていた。
───『隷縛の契約』
俺は口の中に微かに痺れと云うか痒みと云うか、
表現のしづらい、今まで感じた事の無い違和感を感じて、
それが口から喉を伝い、頭の中にで入り込んでくる様な映像を思い浮かべてしまった。
「すまないね。リク。
君は余り魔法に対しての知識を持っていなかったようだ。
失礼だが、非常に与し易くて助かったよ。
魂を縛る魔法を君に施した。
君が悪戯に契約を反古しようとすれば、
私は君の魂を抜き取る事が出来る。
意味は解るかな?」
俺は吐き出そうとして指を口に突っ込んだが、
ことはに首根っこと手首を掴まれて、
それを止めざるを得なかった。
「汚いから止めておくんだね。吐いたって無駄だよ」
「先生!? 魔法使ったの!!?」
「リンイェ。心配はいらない。
言い方は悪いが、リクに人質になってもらうだけだ。
彼に危害は加えない。
ことはと、お互いが対等になるには私の方には何か優位な交渉材料が無いとね」
アメビックスはそう言って、ことはを見た。
「これでようやく対等になれたのではないか?」
「対等。
僕はいつ、君とは対等では無いと言ったかな?
気にしているのは君だけだったんじゃないのかな?」
淡々としているのは毎度の事だけど、
ことはの言葉が少し冷たさを帯びている。
「そうだろうな。これは私の勝手な理屈だ。
とても卑屈ですらある」
「君は交渉と言ったけれど、
ここまでするからには僕に対して何か要求があるのかな?」
「無論だ。
私と工房には手を出さない事。
異世界に戻っても私の存在を口外しない事」
「他には?」
「リロクを殺す事。
その為に君達を異世界に戻してやる」
「三つ」
「彼の性質については知っているかな?
実体を持たない彼は他者に乗り移る事で存在する。
その為か、
リロクは自分の意識を分割して活動する事が出来る。
リロクと云う奴は意識をもって複数存在して居るんだよ」
「異世界に居るのが本体と云う事なのかな?」
「分割した意識がそれぞれ独立して存在出来る事から、
どれが本体、と云う概念は無いのだろうがね。
こちらの世界では魔力の捻出も、
装置を使わなければ儘ならない関係から、
能力を主に発動しているのはあちらの世界にいるリロクだろう」
「そこを叩けと」
「そうだ。意識だけで存在しているからには、
リロクにとって魔力と云うモノは生命維持の為の役割が、
かなり大きなシェアを占めている筈だ。
一度、流れの様なモノを断ってしまえば、
幾ら魔力を補給させる装置が有ったとしても、
こちらの世界に居るリロクは消滅せざるを得ないだろう」
「君の推測では無くて?」
「もちろん確証は無いが、試す価値はある」
「わかった。それならそうしよう」
俺は即答したことはに驚いた。
「早くない!? 信用して大丈夫なの!?」
「彼の出したお茶をあっさりと飲んだ君の台詞とは思えないな。
それに選択の余地は無いよ。
君にかかった魔法。
彼の言う事を聞いて解いてもらう他無い」
「話が早くて助かる」
「一応訊いておくけど、君の魔法を第三者が解除する事は?」
「対象の行動に制限を掛けて、
意識下から支配を行う特性上、
厭らしい程に術式を入り組ませてある。
解除には時間も手間も掛かる。
私が解除に気づいて魔法を発動させる方が迅いだろうね」
「という訳さ。
どのみち僕達はリロクを倒すし、異世界にも戻るんだ。
本質的には同じ事だよ。
君が間抜けにも彼の術中に嵌まってしまった事を除けば」
サラッと言いやがる。
不甲斐ないのは事実。
「ところで転移先は何処になるんだろう?
選べるのかな?」
「何処か希望があるのかな?
悪いが、それは叶えてやれないな。
直接リロクが居る所へ行った方が早い。
こちらの動きに気づいたリロクが仕掛けて来ないとも限らない」
「リロクが居る場所がわかるのかい?」
「無論だ。今、リロクはラロカと云う国に居る。
私やリンイェが元々居た国だ。
暖かい気候の、穏やかで良い国だ」
気持ち悪。
俺はアメビックスの笑顔を見て身震いしそうな程の嫌悪感を覚えている。
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