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リンカーネイトリンカーネイトリンカーネイト  作者: にがつのふつか
第四章 『二月二日と少年』
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イセカイ篇 19  『魔族と対話するということ。』



「私の名は知られていないと思うから、

君は私の事を知らないだろうと思うがね」


アメビックスは微笑みを湛えた、

優しそうな表情の筈だったが、

俺にはとても恐ろしく感じられる。


「知らない」


ことはは、アッサリと言い切った。


「そうだと思った」


アメビックスの表情は、ちっとも変わらずにいる。


「君はリロクとどういう関係なのだろうね?」


ことはがアメビックスに向かってそう言った。


「リロクも君も、

この世界にやってくる術を知っている。

本当に無関係なのかな?

君達の工房(ブティック)を探っているのがリロクだとすれば一体、彼の目的は何なのだろう?」


「魔族には、

君達(人間)が思っているほどの繋がりは無いんだよ。

我々は所詮、人の形をした獣だ。

例え相手が同族で在ろうと、優位に立ち強者である事が、我々の存在定義の一つだ」


「つまり。

君とリロクは仲間では無いと?」


「顔見知り程度ではあるよ。

何百年か前に一度、言葉を交わしたくらいのね。

ことは。

君が殺したハイエイタスやアンチセクトも同様だ」


「君はどうしても僕を快楽殺人者の様な扱いにしたいらしい」


「誤解しないで欲しいが、

私は君が同族を葬ったからと云って、

恨んだりはしていない。

私は君をとても脅威的な存在と捉えている。

それは半ば称賛に近い。

単体で我々魔族を撃ち破る様な者は、

過去を幾ら遡っても多くは存在はしなかっただろう。

天恵者(チート)だからと云ってその例外は無い、

魔族は人間よりも強いものだ」


「だから喰い物にしたって構わないと」


「そういう魔族(同胞)が大多数だろうね。

だから、

我々にとって君の様な存在は全くのイレギュラーだ。

私の様な矮小な存在にとっては、

畏敬の念を抱いてしまう様にね」


「……まあいいや。とにかく、

僕はリロクを倒して、向こう(異世界)に戻りたい。

そして、悠ちゃんに危険が及ばない様にしたい」


「私の転移魔法であちら側に送ってやる事も出来るんだがね?」


「驚いたね。そんなに容易く出来るものなんだ?」


「術式などを教える事は出来ないけどね。

私は既に世界間を転移する魔法を自分のものに出来ている」


「七年もかかったんだけどな。

リロクを倒しても、彼の能力が解除されなければ、

君に頼る事になりそうだ」


「一応断わっておくが、

リロクは私よりも強い。

魔力の制限が課せられるこの世界に於いても、

彼は私など歯牙にもかけないだろう」 


「これは仮説だけど。

君も魔力の増幅や補給をする装置を持っているんじゃないかな?」


「……どうしてそう思う?」


「転移魔法や空間を拡張する魔法を使っている時点で、

そう考えるのは普通だろう?

それにこの世界で制限が課せられると言ったのは君の方だぜ?」


「確かに私も、それに似た()()を持っている。誤解をしないで欲しいのだが、

リロクの技術を借りたものでは無い」


「君たち魔族は独自にそう云った技術を持ち合わせていて、()()()()()()、僕達の周囲に()()()()()()()()って事になるのかな?

一体どうやったら僕はそれを素直に納得出来るのだろう?」


「ことは!!! マジでやめて!!?

先生は悪い魔族じゃないんだって!!」


「悪い魔族。

悠ちゃん。誤解しないで欲しいんだけれど、

僕は別に正義の味方じゃない」


「じゃあ、もうやめてよ!! 

ことはは、そのリロクって奴を倒せたら良いんでしょ!?先生をいじめんなよ!!」


「大丈夫だよ。(リンイェ)。下がってなさい。

彼女(ことは)は私を殺したりしないから」


「だって!! 先生が困ってると思ったから助けてくれると思って連れてきたのに!!」


「リロクはこの工房の技術を奪おうと思っているのだろう。彼の転移と私の転移では術式が違う。

彼が他者を転移させるメリットが何かはわからないがね」


アメビックスは「遅くなったが、お茶でも飲むかい?」

と言って、いそいそと俺達に出すお茶の用意を始めた。


「先生! お茶なんか出さなくていいよ!

もう連れて帰るから! 行くよ!ことは!」


悠さんがことはの腕を掴んで連れ出そうとしているが、

ことはは微動だにしない。


「悠ちゃん。そんなに引っ張ったら痛いよ」


「うっさい! ことはの嘘つき!!」


「嘘なんてついてないよ。悠ちゃんだって、

先生が魔族だって教えてくれなかったじゃないか?」


「う……、うっさい!! 聞かれてないし!!」


「ほらね。僕だけ責めるなんてひどいよ」


「うっさいうっさい!!」


ことはと悠さんがギャーギャーやってる最中に、

アメビックスが俺にお茶の入ったティーカップを渡してくれた。


「口に合うと良いんだが」


アメビックスがニコッと俺に微笑みかけた。

涼やかな顔をしている、無駄に男前だ。


「ど……、どもっす」


「怪しいお茶では無いから安心したまえ。

君は……、えーと?」


「リクです」


「リク。君はことはとどういう関係なのかな?」


「えーと……、同級生でして……」


「同級生?」


「同い年で……」


「ことはとリンイェは同じ職場で働いていると聞いていたが。君もそうなのか?」


「あ……、いや……、俺はまだ学生でして……」


「学生。何を学んでいるんだい?」


俺はアメビックスに尋ねられて、

学校に行かずに引きこもっていると、即答出来なかった。


なんか、お父さんぽいんだ、この魔族。


俺は何故か少しだけチリチリとした胃の痛みを感じて、

それが自己嫌悪である事にすぐ気づいた。


◆◆

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