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リンカーネイトリンカーネイトリンカーネイト  作者: にがつのふつか
第四章 『二月二日と少年』
133/237

イセカイ篇 18 『工房にて。』

本日投稿の1話目になります!



工房(ブティック)

名前からして、

何となく俺は戸建てで煉瓦造りでオシャレで、

と云った外観をイメージしていた。


「ここだよ」


仕事終わりの悠さんと合流した俺達が連れて来られたのは、左右の棟に四部屋ずつが別けられた二階建ての普通のアパートだった。


なんか、めっちゃ普通の灰色のアパート。


「想像してたのと違う」


ことはが俺の思っていた言葉をそのまま口にした。


「どんなの想像してたんだよ?

異世界感丸出しだとバレちゃうだろ」


悠さんはそう言って左の棟の二階部分へ上がって行った。


陽当たりが悪いのか、

廊下部分に並べられた鉢植えは全て枯れたままにして置かれていて、

なんか少し埃っぽいし、

よく見たらわりとボロい。


「けっこうボロボロだね。僕の家の方がマシだ」


お前(ことは)は俺の心の代弁者か。


「うるっさいなぁ。住んでる人が居るんだから失礼だろ」


悠さんが鬱陶しそうに反論した。


204。


表札のかかっていないヘアのドアを悠さんがノックした。


「先生。先生居る?連れて来たよ」


「インターフォン押さないのかい?」


「壊れてんの」


コンコンコンコン………。


「……鍵は開けてあるよ」


部屋の中から声が聞こえた。

おそらく“先生”の声だ。


悠さんがドアを開け、俺達は部屋の中へ入った。


玄関に上がると、()()()()()()()が、

ずっと奥にまで続いていて、

廊下の両端には無数にドアが連なっている。


部屋の奥行きは訳が分からない程に広かった。


「なんだコレ……!?」


俺は思わず言葉を口に出してしまった。


「空間を拡張させる魔法だね。

表からは絶対に解らない様に巧妙に張られている。

高度な術式だ。

まさか、全ての部屋がこうなっているのかい?」


「そうだよ。

一時期に比べて人も減ったから、

今は全部の部屋を使ってる訳じゃないけど」


悠さんはそう言いながら、

廊下の奥へずんずんと進んで行った。


「一番奥の突き当たりが先生の部屋」


随分歩いた気がする。

歩けど歩けど、一番奥の部屋が遠退いて行く様な、

幻の中を歩かされている様な感覚。


ようやく、突き当たりの部屋のドアの前に着いた時には、

俺はもうバテてしまっていた。


時間を計っていた訳では無いから、

よく分からないけど、体感ではとても長く感じられた。


「……入りたまえ」


部屋の中から、また先生の声が聞こえた。

か細い、消えてしまいそうな声なのにも関わらず、

よく通る不思議な声だった。


「いらっしゃい。久しぶりだね。(リンイェ)


部屋の中に居たのは、

白髪の長髪をポニーテールの様に結んだ若い男だ。


「先生。この二人が例の」


「うん。はじめまして。リンイェのお友達。

よく来てくれたね」


「は……、はじめまして」


「驚いた。悠ちゃんの先生は()()()()()()


ことはの、その言葉に俺が一番驚いた。


「魔族!?」


「ふふ。リンイェのお友達は鋭いな。

角は巧く隠せていたつもりだったが」


先生がそう言って、俺がもう一度先生の方を見た時には、

先刻まで無かった筈の、

山羊の様な二本の角が先生の頭に生えていた。


「別に隠す必要も無かったんだけどね。

試す様な真似をしてしまってすまない」


先生は可笑しそうにクスクスと笑っている。


工房(ここ)は先生と呼ばれている君が設立したものなのかな?」


ことはが先生にそうやって訊いた。


「そうだよ。私が造ったものだ」


あちらの世界(異世界)から転移する魔法も、

君が独自に編み出したのかい?」


「そうだ」


先生はそう言って優しそうな表情で微笑んでいたが、

頭の角にどうしても目が行ってしまい、

俺にはどことなく不気味なものに見える。


「一体、何が目的で君達は、こちらの世界への移民を計画しているのだろうか?」


「リンイェから聞いては無かったかな?」


「君達が移民の為の調査を行っている事は聞いたよ」


「救いたいと思ったのさ。

リンイェの産まれた国や、あの世界の貧しい国の、

そこに暮らす全ての哀れな子供達を」


「魔族の君が」


「私が言うと、さぞ白々しく聞こえているのだろうな」


先生は笑っている。


「魔族だからと云って、

人間といがみ合っている者が全てでは無いんだよ。

しかし。

君が訝しく思う通り、

大半の魔族がそうでは無いのが事実だ」


「僕は向こうで何度か魔族と戦った事がある。

その戦った魔族達は全員、

人間の命を玩具にする様な輩ばかりだった」


「そうだろうな」


「君は違うと?」


「魔族と接した事のある君は、

私達の種族が持つ残忍で狡猾な本質を知っている。

だから、そう思われても仕方がないと思うよ」


「君が危険な魔族では無いと証明は出来るかな?」


「ちょっと!? ことは!? やめてよ!」


「この工房に魔族は私一人だ。

私は人間と共に長い時を過ごした。

リンイェもその一人だ。

私にとって、この工房に居る人間達は家族同然だ。

それで君が納得するかは分からないが」


「先刻、君は自分の本質を残忍で狡猾だと言った。

人間で喩えるなら、

残忍で狡猾な者は、平気で嘘を吐いて、

他人を欺いて利用するものだと僕は思っている」


「やめてってば!!」


「手厳しいな」


先生は苦笑いをする様な表情をして顔を俯けた。


「流石は『中央の魔女』だ」 


「僕の事を知っていたのかい?」


「無論だ。同胞を幾人も手にかけた、

恐ろしく強い転移者の噂は聞いていた。

私も魔族の端くれだからね」


「語弊があるね。

それじゃまるで僕が殺人鬼の様に聞こえるじゃないか。

君は……、えーと」


ことは(中央の魔女)。名乗るのが遅れたね。

私の名前は、アメビックスだ」


◆◆

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