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リンカーネイトリンカーネイトリンカーネイト  作者: にがつのふつか
第四章 『二月二日と少年』
130/237

異世界篇 16 『魔族の話と転移者。』

本日投稿分の2話目です!


更新遅くなっちゃいました!!



魔力の風が、段々と勢いを強めていく。

周囲の物が風に飛ばされ始め、

辺りに居た人々は不穏な空気を察知し、

逃げるように建物の中へと入っていった。


それでもクジンは遠慮も容赦も無く、

ハンに対して高圧的な態度で接し続ける。


「返答はどうした?悩む必要も無いと俺は思うがな」


それでも、ハンは何も答えようとしなかった。


「結界を解く様子も無いな。スイ。

これはイファルへの宣戦布告だろう。

こいつらは間違い無く何かを隠している」


「クジン。ちょっと待って。さすがに乱暴過ぎない?

確かに最初から怪しいとは思ってたけど」


「それなら躊躇する必要が無い。コイツを殺して、

隠れている転移者を引き摺り出すだけだ」


「イファル王に怒られちゃうよ」


二人が言い合ってある間に、

ハンは少しずつ後退りを始めた。


「動かないで」


スイの声を聞いて、

ハンは身体をビクッとさせて動きを止めた。


あなた達(ラロカ)が何かを隠しているとすれば、

わたし達はそれを知らなければならないんだ」


スイが穏やかな口調で、ハンにそう告げている間に、

クジンは魔力感知では無く、気配を察知するスキルで、

物陰に潜んでいる刺客の人数を割り出していた。


「25~6人と云ったところか。

何とも半端な人数を揃えたものだな」


「あなた方には分かりますまい……」


ハンは絞り出す様な声で小さく呻いた。


「これが、我が国に出来る精一杯の事です。

大国が我が国を脅かそうと知って尚、

誰もが怯えながらも、

それでも国を守ろうと立ち上がったのです。

彼らの事をあなた方が嘲る道理などありますまい」


「くだらん」


「まーーまーー。

ちょっとクジンもおっさんも落ち着けって?

歓迎にしちゃ物騒だけどさ。

ウチら別にドンパチやりに来たんじゃねーーんだから」


「我々にとって、あなた方は侵略者でしかない。

どうか、お引き取り頂きたい」


「つーー事はさ。

この国にやっぱり痕跡と転移者がいるって事だよな。

参ったなこりゃ。スイ、どうするーー?」


「ハンさん。転移者は今、この国の何処に居るのかな?」


「答える訳にはいきません」


「でも、

これは国家間同士で重大な遺恨を残しかねない問題だ。

あなた達が頑なに抵抗を続けるのは、

とても苦しい事になる。

もし良かったら、どうしてそこまで抵抗するのか、

何か理由を教えて欲しい」


()れた事を。

痕跡の魔力を理由したいだけだろう。

理由など聞いたところで時間の無駄だ」


「クジン。君はちょっとうるさいから黙ってて。

それに、この風を一旦止めて。

これじゃ話し合いにならない」


「バカな。途端に襲いかかって来るに違いない」


「だとしてもだよ。

それに君はいつも威張っているのに、

もしかして負けるのが怖いの?」


「バカか。そんな訳ない。それに負ける訳がない」


「なら風を止めて」


「……チッ」


風が止んで、スイは戦う意志が無い事をハンに示した。


「我が国はとても貧しい国です。

土地は痩せていて、

その土地でようやく出来た作物も塩害にやられてしまう、

それにこの辺りの海域は海の魔物も多く、

唯一の産業だった漁に出る事もままならない年も続き、

国はどんどんと貧しくなり、

貧困に喘ぎ国民達は苦しんでおりました」


ハンはそうやって語り始めた。


「懸命に漁に出た者達も、魔物にやられてしまい、

漁師達の数も年々減っていき、

……我々が、

生きる事を諦めてしまいそうになった時に、

()()が現れたのです」


「ヤツ?」


「アメビックスと名乗る魔族です。

あの男は突然現れて我々に交渉を持ちかけて来たのです。

“海の魔物を寄せ付けない方法を教えてやる”」


汗が滴り落ちる。


「アメビックスは、

船や港全体に魔法を掛けると言いました。

どんな魔法だったのかは決して教えませんでしたが……。

その年から、

あれ程までに猛威を奮っていた魔物達は忽然と姿を消しました。

我々は再び漁に出る事が出来たのです」


ハンは記憶をゆっくりと辿りながら続けた。


「我々は、

初めは(アメビックス)に感謝をしました。

それはもう、国を挙げて彼の功績を讃えたのです。

それから、国王から領地を与えられる事になり、

アメビックスは領主として国に迎え入れられました」


「領主?魔族が?」


「はい。ラロカにとって、彼は英雄でした」


()()()。今は違う」


「……。アメビックスが持ち掛けたのは、

交渉では無く、契約だったのです。

船や港に魔法を掛けた頃から仕込まれていて、

彼が領地に城を建てた頃には、

我々は誰も彼に逆らう事が出来なくなっていました。

契約の力を行使して、

アメビックスは魔法の研究だと称し、

多くの国民を手に掛け始めていったのです。

数えきれない程の人体実験を繰り返し、

数多の魔法を開発し、

逆らう事の無い新たな実験体を誂えさせて……、

本当に悪魔の所業の様な光景が国中で繰り広げられていたのです」


「まーー。当然そーなるわな。

んで?その魔族はどーなったん?」


「長きに亘り、契約に因って縛り付けたまま、

アメビックスはこの国を蝕み、人々を弄び、

我々は助けを求める事も出来ずに、

このままヤツに喰い殺されるのを、

ただ待つだけなのかと思っていた、

その時です。

転移者(あのお方)がラロカに現れたのは」


「ふん」


「転移者は、我らをお救い給われました。

アメビックスの契約から、我らを解放し、

あの魔族を打ち倒してくださったのです。

そして、

アメビックスの施した魔法に頼らずとも済むようにと、

海の魔物達も根こそぎ追い払い、

我々が、

願って止まなかった安寧の暮らしを与え給われたのです」


「まるで神だな」


「我々にとって、転移者は神に等しい御方です」


「くだらん。

元を辿れば、お前達の脆弱さが招いた事だ。

お前達が弱いから、魔族に付け込まれた。

それだけの事だ。

お前達は自分達を救った神だと称して、

その転移者を隠している。

俺達はその転移者に用がある。さっさと連れて来い」


「……。大国に、

我々の気持ちなど測り知る事など出来ないでしょう。

我らは神に救われた者達、

救って下さった神を、

どうして引き渡す事が出来ましょうか」


「くだらん。

それならお前達の首が()ね飛ぶだけだ」


再び魔力の風が、

先刻よりも強い突風となって吹き荒びだした。

ハンの顔は青ざめて、

物陰に潜んでいる連中に合図を出す様に、

片手を上げようとした。


その時だった。


「くらぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

なんしとんじゃおのれらぁぁぁぁぁぁぁ!!?」


とんでもない怒声が、

かなり離れた場所から聴こえてきた筈だったが、

その次の瞬間には、

スイ達の前に一人の少女が現れていた。


「イ……、イツカ様!!?」


「ハンさん!! もう大丈夫だ!!!

イツカが来たからな!!!」


イツカと呼ばれた少女は、

黒いショートヘア、ゴシックロリータの様な黒い服、

黒い蝶や花の髪飾り、手に持っている日傘も、

分厚いハードカバーの本さえも全て真っ黒だった。


可憐な外見からは想像がつかない様な、

凄まじい大声を張り上げて、

スイ達を睨み付けている。


「この娘が転移者」


「おらぁぁぁぁ!!! 

ハンさんを寄ってたかっていじめやがったな!!?

魔族か!!?

お前ら魔族なんだな!!!?」


「めっちゃ声でけーー笑」


「イツカ様!!

此方にいらしては危険でございます!!

事が済むまで王宮に居て頂けると、

約束してくださったではありませんか!!?」


「そんなんイツカが守るわけないな!!」


「困ります!!」


「ちょっと待って。

わたし達は君に話を訊きに来ただけだから。

それに魔族じゃない」


「はーーん!!? 嘘つくな!!

イツカは騙されないからな!!?」


「スイ。退け。

おい、転移者。俺達はお前をこの国から連れて行く。

大人しくついて来るなら手荒な真似はしない」


「やっぱり悪いヤツじゃん!!」


クジンとイツカが睨み合いを始め、

周囲は二人の魔力に因って、僅かに空気が震え出した。


「クジンの奴。

あのイツカって娘をわざと煽ってるねえ」


「意味わかんねーーー」


「わかんないかい?

クジンめ、戦いたくて相当昂ってるよ。

なんせ、あの娘、天恵者(チート)だろうからねえ」


シンヒはそう言って、口元だけで笑ってみせた。


◆◆

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