イセカイ篇 16 『淫魔二人と同級生のそういう事情について。』
本日投稿分の1話目です!
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重たい。
奇妙な夢から醒めた筈の俺は、
未だ夢の中に居る様な身体の重たさを感じている。
寝起きのダルさとかでは無く、
触れられている様な感覚から、
俺の身体の上に、何かが乗っかっている。
主に下腹部辺りに感じる、ズシッとした重み。
暖かくて柔らかいそれは、
時折艶かしく捩る様にして動き、
俺を逃がさない様にしっかりと上から押さえつけて、
金縛りみたいに身動きを取らせなくしているようだ。
微かに、骨が擦れる様な感触と甘い香りが。
重いとは言ったが、
おそらくこの重量は、
世界で一番好ましい重さなんではないだろうか。
それに、何かが、俺の股関に指を這わせている。
俺は、きっと今天国にいるんだ。
◆◆
「ちん○ん勃ってたの治った?」
そして今、地獄にいる。
「理央ー。いじめたら可哀想だよー?ふふ」
茉央が口を手で隠しながら、ニヤニヤと楽しそうに言う。
要点だけ述べると、
俺は寝ている時に不覚にも勃起していて、
それを面白がった理央と茉央が、
俺の事を悪ふざけで弄んでいたのだ。
エスカレートして、諸々と結構寸前のところまで。
「リク君もちゃんと男の子なんだね♥️」
意地悪そうに言う理央と茉央は、
スウェットだけ着て太腿を露にして、
扇情的、もしくはエロい。
それ以外の表現が思い浮かばない。
「すんません……」
「朝だからしょうがないんだよね?」
「まあ……、ほぼ自動的に……」
「リク君てさ」
「はい」
「ちん○んおっきいね?♥️」
「すごい辱しめ!!」
「朝起きたらドーン!となってて、
茉央、ビックリしちゃって、
二度見しちゃったよ笑」
「もうやめて!!」
先刻から、ずっとこの調子でいじられ続けている。
巨乳の双子のメイドさんに。
ひょっとしたら、
最高のシチュエーションかも知れないのだが。
家主のことはは、
一度目覚めたが俺達の事をチラッとだけ一瞥して、
何も言わずにベッドに潜り込んでまた寝てしまった。
「ことはさんって寝起き悪いんだね?」
「そうみたいですね」
「いっつもキリッとしてるから新鮮ー♥️
なんか可愛いー♥️」
「リク君がいつも起こしてるの?」
「いや、俺は」
と言いかけて、止めた。
一緒に暮らしてる親戚の設定を忘れてた。
「……逆に起こしてもらってます。
ことは姉ちゃんに」
「きゃー♥️羨ましいんだがー♥️」
「毎朝リク君の元気なとこ見られちゃうね?♪」
「いや、もういいすから……すんません……」
不甲斐無い。
何一つ巧く返せなかった。
巨乳双子メイドはとにかく楽しそうだ。
きっとこの二人は性欲の強いビッチに違いない。
俺は悔し紛れにそう思い込む事にした。
理央と茉央がサキュバスに見える。
その錯覚は当然エロい方向のヤツだ。
◆◆◆
「やめろよぉ……、寝かせろよぅ……」
俺は、ことはの毛布を剥いで彼女に声をかけ続けている。
そろそろ昼過ぎの時刻になる。
「起きろって。悠さんに連絡取らなくて良いのか?」
「うるさいなぁ……、今日はバイト休みだよぅ……」
「違うって、工房の事、
どうなったのか聞かないと」
「工房……?」
「忘れちゃったの!?」
「声大きい……、ナツメくん嫌いだ……。
あっち行ってよぉ……」
「子供かよ……」
俺は愚図ることはを何とか宥めながら起こし、
理央と茉央が帰った事を伝えた。
「……ああ、そう」
ことはは不機嫌そうだった。
まだベッドに座り込んだままで、
気だるげな表情で、呟く様に言った。
寝癖がついていて、アホ毛の様になっている。
寝起きですら、
浮世離れした様な美しい雰囲気を醸し出しているのに、
そのアンバランスな感じがとても可笑しかった。
俺がそう思ったのに気づいたのか、
ことはは寝癖を隠すようにパーカーのフードを被った。
「寝起き悪いよな?」
「悪いよ。起きなければならない時間なんて、
この世から無くなれば良いんだ」
「そんなに」
「ところで。君はずっと起きてたのかい?」
「いや、俺も寝てた」
「そうなんだ。理央ちゃん達と、
大きいだのなんだの楽しそうにやってたから、
起きていたのかと思った」
「きッッ!!? 聞こえてた!!?」
「そりゃ聞こえるよ。
君のが大きいとか何とかの話だろう?」
「やめて!!」
「別に僕にはどっちだって良いから、
何とも思って無いよ。
彼女達は悪ふざけが好きだから」
欠伸をしながら、ことはが言った。
「それはそれで微妙な心境なんだが……」
「そんな事で人に優劣はつかないさ」
「そんな事って……。お前に分かるのかよ?
その……。比べる程、見た事とか……」
セクハラ。
「分かるさ。
僕はあっちで結婚してたんだよ?」
そうだった。
「あ……。経験者……」
「何をおぼこい事を」
「お前そりゃ……、俺は……、無いから……。
そういうの……」
「まあ、結婚していたと云っても、
僕だって一回か二回くらいのものだよ。
それにヤンマしか知らない」
「なんか生々しい……」
「それに、その一回だか二回だかも、
最後まではしてない」
恥ずかしげも無く言ってくれるわ。
「……何で?」
「一度も濡れなかったんだよ。僕は不感症らしいんだ」
「へ……、へぇ~……」
何て返事すれば良いのか分からずに、
アホみたいな声を出してしまった。
俺は頭の中で自動的に、
ことはの服を脱がす妄想をしていた。
綺麗な白い肌に指が触れる事も、
身体をまさぐられても、
淡々と、それを受け入れることはの表情も。
「でもヤンマも若かったからね。
悶々としている彼を見るのは偲びなかった。
別に彼の事を身体が拒絶しているとか、
そういう事では無くて、
体質だったんだろうね」
マジで淡々と説明してくれるこの人。
「じゃあ……、ヤンマさん、どうしてたんだ……?
その……、ムラムラしちゃった時とか……?」
「僕はそういう事に疎いから、
どうにもしてあげられなかったんだ。
よく分からないけど、
男の人はそういう時大変なんだろう?
だから、彼にはお金を渡して色街に行ってもらってたよ」
「色ッッ!? なんだよその夫婦……。嫁公認……」
「心身ともに不健全だって、ユンタが言っていたから」
「ユンタか……。
大体、そんなの、ウクルクに有ったんだ?」
「大昔の転移者が、
日本から持ち込んだハウトゥーを駆使して、
造られたみたいだよ。
僕は行った事無いからよく知らない。
君も向こうに戻ったら、一度行ってみれば?
後学の為に」
何を言っているんだこの人は……。
でも……、ちょっとだけ覗いてみるね……。
「それよりさ、喉渇いた。
ナツメくん、お茶汲んできてよ」
ことはにそう言われて、
俺は冷蔵庫からペットボトルのお茶を出して、
並々にグラスに注いだ。
少しだけ溢してしまって、
俺は夢の話をことはにしようと思っていた事を、
ようやく思い出した。
今聞いた話の衝撃が過ぎて、
思い出した事はまた脳裏に隠される様にして引っ込んでしまったが。
ことはの裸の妄想は相変わらず、
俺の頭を支配する様にして居座り続けた。
重要な部分は、靄がかかった様に不明瞭で、
俺の脳ミソはそれを補完しようとして、
記憶の中にある映像の裸体を、すげ替える様にして、
嵌め込もうとする。
下衆だとは思うけど、
俺もオスなのだ、許して欲しい。
一体誰に許しを乞うているのか、よくわからないけど。
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