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リンカーネイトリンカーネイトリンカーネイト  作者: にがつのふつか
第四章 『二月二日と少年』
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イセカイ篇 15 『声によると。』

本日投稿分の1話目になります!




俺達がアパートに戻って来た頃には、

既に夜が明けてしまう様な時間だった。


玄関の鍵はしっかり掛けてあって、

部屋の中に入ると、理央と茉央は未だ、

ことはのベッドの中で重なり合うようにして、

静かに寝息を立てて眠ったままだ。


「魔法で眠らせたからね。解けるまで目は覚めない」


欠伸をしながら、ことはが言った。


「お前、全然寝てないんじゃないか?少し寝てろよ」


「そうする。悪いんだけど、毛布貸してもらえるかな」


ことはは、俺の使っていた毛布を受けとると、

床に寝転がって丸くなり、欠伸を何度かした後に、

そのまますぐに眠ってしまった。


疲れてたんだろうな。


俺は少し寝た所為か、眠気を感じてなくて、

床に座ったまま、なんとなくスマホを見ていた。


そして、理央と茉央が言っていた事を思い出して、

『○○区 高校生 失踪』

『異世界 行方不明』

『転移 魔法で』


なんて事を検索してみた。


検索の結果は、まあ、大体想像通りで、

実際に有った失踪事件のニュースの記事、

後はアニメとか漫画とかに引っ掛かった。


俺はぼんやりと、失踪事件の記事を読んでいた。


“下校途中の女子高生が行方不明。依然として安否は不明。数年前にも同区内で失踪事件。事件の関連性について警察は。組織的な反抗の可能性について専門家は……”


俺は大して印象に残らない記事を斜め読みしながら、

人が突然居なくなると云う事の異常性について考えていた。


格好良く言い過ぎたけど、

転移って、一筋縄には行かないもんだ。


(異世界でずっと暮らすって、どんなんだ?

もう、こっち帰って来なかったら、

こっちの世界はどうなるんだろうな?)


俺はそう考えて、ちょっとだけ落ち込んだ。


俺が居なくなっても、

多分、何も変わらないと思うからだ。


俺は首を伸ばして、

毛布に(くるま)って密やかに、

波打った呼吸を続けることはの寝顔を見た。


ことはと、俺は違う。

片や最強の天恵者(チート)

俺はと云えば、なんか地味な能力でお荷物。


転移の人選、間違ってんじゃないか。


自分の身体を、

少しずつ蝕んでいく嫌なものに脚を絡め取られ、

俺は何だか、

とても独りよがりな孤独感に息を詰まらせながら、

身体を床に着けて眼を閉じた。


◆◆


そして今、俺は夢を見ている。


見た事の無い部屋の中で、

訳の分からない黒くてモヤモヤとしたモノと、

テーブルを挟んで対面で座っている。


夢だ。夢に違いない。


「夢だと思うのは勝手だけど、

そんな風に身構えてばかりだと、

お前は大事なモノをいつか失ってしまうんだぜ」


喋ったわ。


「そりゃ喋るよ」


心の声読んだわ。


「喋らなきゃ、わざわざこうやって、

お前と向かい合う必要なんて無いだろ?

茶でも出して欲しかったか?

生憎(あいにく)だけど、今日は用意をしていない。

次には用意しておく」


めっちゃ喋る。


(だんま)りを決め込んでも、

俺は別に困らないんだけどな。

口が有るんだから喋れば良い」


「何なんだよお前……?」


「当然の疑問だ。

ざっくり言うとな、俺はお前の哀れな自己憐憫と、

様々な困惑が産んだ新しいお前のスキルだ。

おめでとう」


「スキルって喋るんだ……」


「喋らない。俺は生き物じゃない。

だけど、お前がこういう形を望んだ。

だから俺はこうやってお前に喋りかけている」


「俺が?」


「まあ聞け。時間は決して無限には無い。

俺はお前のネガティヴなモノから構成されている。

息苦しくなる様な、辛くて悲しいものだ。

お前はネガティヴなモノに対抗する術が殆ど無いが、

ネガティヴなモノから産まれた俺は、

それを打破する事が出来るし、その必要もある」


「ごめん。全然わからない」


「そうか。ざっくり言うと、

俺はお前に、お前の力の使い方を教えてやれる。

お前が持て余しているスキルだ」


「マジ?」


「マジだ。自己憐憫に苦しむお前が、

そこから抜け出したくて創造したのが俺だ」


「めっちゃ格好いいじゃん……」


「どエロい狐の亜人が、

少しばかりお前を鍛えてくれた様だが、

お前の力の使い方は、

お前にしか本当の事は理解出来ない。

何故なら、それはお前の事だからだ。

お前に理解する事がまだ出来ない内は、

俺にしかそれを気づかせてやる事は出来ない」 


モヤモヤは喋り続ける。


「把握しろ。

出来る事と出来ない事の、その全てをだ」


「お……、おおう……。具体的には……?」


「お前は魔力の量が少ない。

潜在していて、今後増えると予測されるものも含めてだ。

しかし、嘆く事では無い。

お前の能力は相手の能力を模写して再現をするものだ。

模写をすると云う事は、繊細で緻密な作業だ。

しかも、魔法だのスキルだのには、

原理や理屈を伴わないものも複数存在する。

それらを写し描く事が、お前の想像力では、

未だそれを(おぎな)いきれない」


「だから凹んでるんだけど……」


「まあ聞け。最後まで。

想像力を違う方向へ働かせてアプローチをしろ。

相手の能力を再現しきれないのなら、

足りない分を、お前の想像で補填してやれば良い。

複製を造ると云う概念は一度捨てて、

相手の能力の美味しい所を利用してやると考えれば良い」


表面だけなぞって、

あとは自分のオリジナルに解釈しろって事か?


「そういう事だ」


心読まれたわ。


「相手が炎を使う能力なら、

炎の温度や色にまで気を取られる必要は無い。

お前が炎を放つと云う想像をする事が大事だ。

オリジナルには劣るとしても、

どんなに歪なものが出来上がるとしてもだ。

そういう力の使い方もあるという事だ。

相手の能力を拝借、副次的に相手の能力の発動を阻害、

お前に力の使い方を教える俺が現れて、

その後に浮かび上がったお前の新しい能力だ」


夢が覚めて行きそうな感覚がして、

俺の視界に居るモヤモヤが少し揺らいだ。


「今日はここまでだ。俺はまた来る。

俺の名は『二つ目の声(インストラクター)』。

お前の自己憐憫を、

深層から保護しようとするのが役割だ」


そこで、お約束の様に俺の視界はプツリと途切れた。


◆◆

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