イセカイ篇 15 『声によると。』
本日投稿分の1話目になります!
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俺達がアパートに戻って来た頃には、
既に夜が明けてしまう様な時間だった。
玄関の鍵はしっかり掛けてあって、
部屋の中に入ると、理央と茉央は未だ、
ことはのベッドの中で重なり合うようにして、
静かに寝息を立てて眠ったままだ。
「魔法で眠らせたからね。解けるまで目は覚めない」
欠伸をしながら、ことはが言った。
「お前、全然寝てないんじゃないか?少し寝てろよ」
「そうする。悪いんだけど、毛布貸してもらえるかな」
ことはは、俺の使っていた毛布を受けとると、
床に寝転がって丸くなり、欠伸を何度かした後に、
そのまますぐに眠ってしまった。
疲れてたんだろうな。
俺は少し寝た所為か、眠気を感じてなくて、
床に座ったまま、なんとなくスマホを見ていた。
そして、理央と茉央が言っていた事を思い出して、
『○○区 高校生 失踪』
『異世界 行方不明』
『転移 魔法で』
なんて事を検索してみた。
検索の結果は、まあ、大体想像通りで、
実際に有った失踪事件のニュースの記事、
後はアニメとか漫画とかに引っ掛かった。
俺はぼんやりと、失踪事件の記事を読んでいた。
“下校途中の女子高生が行方不明。依然として安否は不明。数年前にも同区内で失踪事件。事件の関連性について警察は。組織的な反抗の可能性について専門家は……”
俺は大して印象に残らない記事を斜め読みしながら、
人が突然居なくなると云う事の異常性について考えていた。
格好良く言い過ぎたけど、
転移って、一筋縄には行かないもんだ。
(異世界でずっと暮らすって、どんなんだ?
もう、こっち帰って来なかったら、
こっちの世界はどうなるんだろうな?)
俺はそう考えて、ちょっとだけ落ち込んだ。
俺が居なくなっても、
多分、何も変わらないと思うからだ。
俺は首を伸ばして、
毛布に包って密やかに、
波打った呼吸を続けることはの寝顔を見た。
ことはと、俺は違う。
片や最強の天恵者、
俺はと云えば、なんか地味な能力でお荷物。
転移の人選、間違ってんじゃないか。
自分の身体を、
少しずつ蝕んでいく嫌なものに脚を絡め取られ、
俺は何だか、
とても独りよがりな孤独感に息を詰まらせながら、
身体を床に着けて眼を閉じた。
◆◆
そして今、俺は夢を見ている。
見た事の無い部屋の中で、
訳の分からない黒くてモヤモヤとしたモノと、
テーブルを挟んで対面で座っている。
夢だ。夢に違いない。
「夢だと思うのは勝手だけど、
そんな風に身構えてばかりだと、
お前は大事なモノをいつか失ってしまうんだぜ」
喋ったわ。
「そりゃ喋るよ」
心の声読んだわ。
「喋らなきゃ、わざわざこうやって、
お前と向かい合う必要なんて無いだろ?
茶でも出して欲しかったか?
生憎だけど、今日は用意をしていない。
次には用意しておく」
めっちゃ喋る。
「黙りを決め込んでも、
俺は別に困らないんだけどな。
口が有るんだから喋れば良い」
「何なんだよお前……?」
「当然の疑問だ。
ざっくり言うとな、俺はお前の哀れな自己憐憫と、
様々な困惑が産んだ新しいお前のスキルだ。
おめでとう」
「スキルって喋るんだ……」
「喋らない。俺は生き物じゃない。
だけど、お前がこういう形を望んだ。
だから俺はこうやってお前に喋りかけている」
「俺が?」
「まあ聞け。時間は決して無限には無い。
俺はお前のネガティヴなモノから構成されている。
息苦しくなる様な、辛くて悲しいものだ。
お前はネガティヴなモノに対抗する術が殆ど無いが、
ネガティヴなモノから産まれた俺は、
それを打破する事が出来るし、その必要もある」
「ごめん。全然わからない」
「そうか。ざっくり言うと、
俺はお前に、お前の力の使い方を教えてやれる。
お前が持て余しているスキルだ」
「マジ?」
「マジだ。自己憐憫に苦しむお前が、
そこから抜け出したくて創造したのが俺だ」
「めっちゃ格好いいじゃん……」
「どエロい狐の亜人が、
少しばかりお前を鍛えてくれた様だが、
お前の力の使い方は、
お前にしか本当の事は理解出来ない。
何故なら、それはお前の事だからだ。
お前に理解する事がまだ出来ない内は、
俺にしかそれを気づかせてやる事は出来ない」
モヤモヤは喋り続ける。
「把握しろ。
出来る事と出来ない事の、その全てをだ」
「お……、おおう……。具体的には……?」
「お前は魔力の量が少ない。
潜在していて、今後増えると予測されるものも含めてだ。
しかし、嘆く事では無い。
お前の能力は相手の能力を模写して再現をするものだ。
模写をすると云う事は、繊細で緻密な作業だ。
しかも、魔法だのスキルだのには、
原理や理屈を伴わないものも複数存在する。
それらを写し描く事が、お前の想像力では、
未だそれを補いきれない」
「だから凹んでるんだけど……」
「まあ聞け。最後まで。
想像力を違う方向へ働かせてアプローチをしろ。
相手の能力を再現しきれないのなら、
足りない分を、お前の想像で補填してやれば良い。
複製を造ると云う概念は一度捨てて、
相手の能力の美味しい所を利用してやると考えれば良い」
表面だけなぞって、
あとは自分のオリジナルに解釈しろって事か?
「そういう事だ」
心読まれたわ。
「相手が炎を使う能力なら、
炎の温度や色にまで気を取られる必要は無い。
お前が炎を放つと云う想像をする事が大事だ。
オリジナルには劣るとしても、
どんなに歪なものが出来上がるとしてもだ。
そういう力の使い方もあるという事だ。
相手の能力を拝借、副次的に相手の能力の発動を阻害、
お前に力の使い方を教える俺が現れて、
その後に浮かび上がったお前の新しい能力だ」
夢が覚めて行きそうな感覚がして、
俺の視界に居るモヤモヤが少し揺らいだ。
「今日はここまでだ。俺はまた来る。
俺の名は『二つ目の声』。
お前の自己憐憫を、
深層から保護しようとするのが役割だ」
そこで、お約束の様に俺の視界はプツリと途切れた。
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