イセカイ篇 14 『君はいいヤツだ、と褒められて。』
本日投稿分の1話目です!
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ことはの言葉を聞いて、
俺は少しだけ、
本当に少しだけだが、
“もう、歩くのやだ!!!”
と思ってしまった。
俺の思惑を知ってか知らずか、
ことはは、さっさと事務所を出て行ってしまった。
ドアも閉めないで。
なんで……、勝手に先に行くかな。
「待て待て待て!」
俺は慌てて後を追いかけた。
ことはは、立ち止まらず、
俺の方を振り返る事もしなかった。
「待って! 二月二日! ことはさん!?」
「聴こえてるよ」
「場所わかんないんじゃなかったかな!?」
「わかんないけどさ。
何もしないでいるよりはマシだろう?」
「えー!? ノープランだったんかい!?」
「何だよ。じゃあ、君が見つけてみなよ」
「逆ギレ!?
でも、今夜中に一つ壊すんだって出てきたんだし、
何か目星くらいは……?」
「無いよ。
リロクが使い魔を放って来た辺りまでは、
良かったんだけどなぁ。
色んな事が巧く重なって、
尻尾が掴める筈だったんだ。
でも。
魔力を辿って、
出所を探知してやろうと思ったけど、
うまくいかなかったんだよ」
「えー……」
「何だよ」
この人……、
直感で動いちゃうタイプ……。
「じゃ……、じゃあさ?一旦、アパートに戻って、
対策を建て直すってのはどうかな……?
それか、悠さんとこの、工房に先に行くってのは……?」
「……悪かったよ。不安にさせて」
ことはが、ようやく立ち止まった。
「歯痒いのさ。こうも制限をかけられていては、
何をするのにも儘ならない。
異世界では万能に近い力が有ったせいで、
余計に無力さを感じてしまうんだよ」
「万能だったんだ」
「それに、君の前で格好をつけたかったのかも知れない」
「へ?なんで?」
「だって、君は異世界から突然戻って来て、
不安だっただろう?
君は安心して良いんだって思って欲しかった」
「……なんだよ。母娘揃って……、ええ子達や……」
「同級生のよしみさ」
俺とことはは、暫くあてもなく歩いた。
ことはが煙草を吸い出し、
溜め息と一緒に煙を吐き出した。
「あー。思いっきり魔法使いたい」
危ない人の言葉にも聞こえる。
「そう云えば、
悠ちゃんを置いてきぼりにして来てしまったな」
「本当だよ」
「格好良く出て来てしまった手前、戻りづらいね。
今夜はもう止めにしようか」
とても残念そうに、ことはが言った。
「あのさ。二月二日」
「ん?なんだい?」
「あんま、無理しなくても大丈夫だからな?
俺は役に立たないし……。
向こうに戻りたいのは事実だけど、
焦り過ぎなくても、良いんだからな?」
「ふ。気を使ってくれているんだね」
「そんなでも無いけどな。
それにさ、工房の人達って、
転移する魔法が使えるんだよな?多分。
もう、それ使って帰っちゃダメなのかな?」
「僕も出来たらそれで帰りたいけど、
リロクをこの世界に、
のさばらせて置くわけにもいかないからね。
彼はこの世界にとって災いになる」
「そっか……」
「ナツメくん」
「何?」
「ありがとう。同級生と云うだけで、
僕は君の事をよく知らなかったけれど、
君はとてもいいヤツだ」
「急に」
「こういう事は、大体にして急に言うものだよ」
「わからん」
「それに。
魔法を思うように使えずに、
歯痒い思いをしてるのはリロクも一緒だから。
君の言う通り、焦り過ぎも良くないね」
「おう。お前が連絡くれるまではさ、
マジでどうしたら良いのか全然わかんなくて、
パニクッてたけど、今は何か、
希望も見えてきてる気もしてるぞ?」
「そういう考え方は僕は好きだ」
「急に」
「何を赤くなってるんだい?君はアレか?
ひょっとして、
女の子に褒められる事には慣れてないヤツか?」
「……見りゃわかるでしょうよ」
「君、
向こうでスイの事好きになってしまってないだろうね?」
「ぬぁ!? な……、なんで!?」
「君は女の子に免疫が無さそうだし、
一緒に居たら、きっとそうなってしまうだろうから」
「めっちゃ偏見!」
「……。変なこと本当にしてないだろうね?」
「してない!!」
「冗談だよ。
ところでさ。
大人になったスイはやっぱり美人だったかな?
あの娘は小さい時からすごく可愛かったから」
「それは……、まあ、そうだったよ……」
「やっぱり。
早く逢いたいな。
それから向こうに戻る前には、
髪の毛の色を元に戻しておかないといけない、
スイが見たら驚いてしまうかも知れない」
嬉しそうに、ことはがそう言っている。
大体、感情の起伏が無さそうに見えるので、
きっと本当に楽しみにしていて、
さぞかし嬉しいのだろう。
「お前とスイって、どうやって出逢ったんだ?」
「スイから聞いてない?」
「うん」
「彼女との出逢いは、
それはそれは運命的なものだと、
思えるものだったよ。
大体、僕が向こうに行ったのは十五の時だよ?
自分だって子供なのに、
スイが僕の前に現れて、
彼女を見た瞬間に、
あっという間に心を奪われて、
彼女と共に暮らして行きたいと思ったんだ」
「そんなに可愛かったんだ」
「可愛かった。それに」
「それに?」
「もしかして、君もそうだったんじゃないか?」
「まだ疑ってんの!?」
「そういう意味じゃなくて。
幼い頃から彼女の事を見ていて、ずっと思ってたんだ。
彼女は、何か惹き付ける力のようなものが、
とても強い。
それもおそらく、
僕達の事を。
親バカの僕の贔屓目を引いたとしても、
彼女には外見の魅力だけでは無い、
何か不思議なものが備わっていると僕は考えていた」
俺は、そう話すことはの、
言葉の意味はよく分からなかった。
でも、
スイと初めて出逢った時の事を思い返せば、
自分にも少しだけ思い当たる節が無い訳でもなかった。
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