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リンカーネイトリンカーネイトリンカーネイト  作者: にがつのふつか
第四章 『二月二日と少年』
124/237

異世界篇 13 『ヤエファ、イファルを発つ。』

本日投稿分の最終話になります!


明日から2話ずつ更新していく予定です!



『果ての大地』と、

激しい潮流に因って隔てられた大陸の最北端。

溶ける事の無い、凍てついた大地が広がる、

極寒の地域にネイジンは存在する。


古来より、氷や雪に関する魔族や魔物の被害が多く、

人々はその度に、火の神や精霊に助けを求め、

信仰を深めていった。


聖域教会本部大聖堂。


女神を最高神として崇める教会の本拠地の、

巨大な門には、古来から続く雪除けの慣習として、

火の神や精霊たちのレリーフが彫られている。


大聖堂の中では、

教会のトップである始教皇と、

現在ネイジンに駐留して居ない、

各司教(幹部)達を除いた面々による、

月に一度の定例報告会が行われていた。


「それで結局、教会で飼っていた亜人の死霊術師は、

イファルに捕らえられたままな訳か」


「イファルに送った使者からの報告によれば、

そういう事らしいですな」


不死者(アンデッド)とは云え、

鬼火を使役していた能力者だろう?

イファルに利用されては厄介だぞ」


「亜人なんぞを信用するからだ。

さっさと始末するべきだ」


大聖堂の中で不穏な空気を纏った、

司教達が議論をする声が響いている。

僅かな灯りだけを灯して、

影の様な姿だけを浮かび上がらせて、

その声達は喋り続ける。


誰もが呆れ果て、苛立ち、

見透かして、

見下す様な口調で、

そのような議論が進展を見せる事は無く、

闇雲に結論づけようとするだけの、

非常に無駄な時間である事を、

その場の誰もが理解をしている筈だった。


兎も角(ともかく)

イファルに密偵を送るべきだろう。

向こうの動きを把握しなければ。

戦力を増やされでもしたら面倒だ」


「密偵の人選はどうする?

不死者とは云っても、

鬼火を撃破した連中が居るんだぞ?

生半可な者では太刀打ち出来まい」


「使者の報告では、亜人の群れが居たそうだ。

しかも率いていたのは、鬼火の妹だ」


「殺しておくべきだったんだ」


「中央の魔女の時と同じ様にすればいい」


「ネイジンに誘き寄せて、始末するべきだ」


「殺すべきだ」


「教会に歯向かう者には永劫の虚無を与えるのだ」


「女神の加護を阻む者達を赦すな」


「我々こそが世界の救済者なのだ」


「悪だ」


「そうだ」


「世界は救済されるべきなのだ」


「そうだ」


「滅ぼすのだ。

イファルも、我々に逆らう者も、その全てをだ」


「殺すべきだ」


「私もそう思う」


「私もだ」


口を揃えて吐き出される言葉は呪詛よりも禍々しく、

不吉の象徴の様に身体を揺らし続け、

荒ぶった、狂躁的な熱を帯びて、

影達の声は大聖堂に響き続けた。


◆◆


「と云う訳での。わっち(ヤエファ)は、

義妹達を連れて、暫く別行動を取ろうと思うとるけ」


イファル王宮内の大食堂にて。


朝食の席で、ヤエファが突然にそうやって告げた。


「ヤエファが行ってしまうと寂しいな」


「スイちゃん。

そげ(そんなに)切ない声出されたら敵わんの。

頼むけ抱いてくれ」


「抱かない。でも、すぐに帰って来るんでしょ?」


「戦力になる亜人達を集めて回る約束じゃけの」


「えー。ヤエちゃんー……。

ミンシュは残っちゃダメですー?」


「ミンシュ、わがまま言うなし!知らんけど!」


「メイちゃんは黙ってて下さいー。マジでー」


「気持ちは解るがの。すぐ終わらせて帰りゃ済む話じゃ」


「やだー……。ロロロも連れてくー」


「ミンシュ。ゴメンね。

ロロはわたし達の大切なパーティーの仲間だから。

君達が帰って来るのを待ってる」


「ほれーー。ロロ子もちゃんとバイバイしなー?」


「やだやだーー。

ロロネスも、ミンシュ達のパーティーに入ったら良いじゃないですかー」


じら(ワガママ)言い出したら聞かんからの」


「あの……、ミンシュちゃん。

そんなに受け入れてくれて、とっても嬉しいッス。

でも、またすぐに逢えるッスよ」


「やだやだやだーー。

ロロ美はミンシュと離れても平気なんですかー」


「ものすごく答えづらいんスけど……。

自分はミンシュちゃんの事、

とっても良い人だと思ってるッス!!

離れちゃうのは寂しいッスけど、

仲間なんスから、また一緒に居れるッス!!」


「……」 


「ほれ。ミンシュ。あんまり(なご)うなったら、

いたしく(辛く)なるけ」


「……」


支度の済んだヤエファ達は、

程なくして、イファルを後にした。


◆◆◆


「ヤエちゃーん……」


「ミンシュ。

そげ(そんなに)心配せんでも大丈夫じゃ。

()()()()()()()()()()()()()()()()()

ミンシュは悪う無いと言っちゃるけ」


「ロロちゃんに嫌われたくないよー……」


「連れてけりゃ、連れてったけどの。

中々、そこまでは上手くはいかんもんじゃ」


ヤエファは残念そうに言ってはいたが、

顔は笑っていた。


ほじゃけど(だけど)

ようやく聖域教会も、

この世界もブチ壊せるかも知れん、

またと無い好機じゃ。

半ば諦めとったがの。

あの娘らとは、上手に付き合ってかにゃいけん」


ヤエファは義妹達にそう言った。


「人外も人間も、人も神も区別無い、

真っ平ら(まったいら)な世界じゃ。

誰に遠慮するでも無い、

好きな様に生きて死ねる、

そんな世界ん中で、

祝言を挙げれる様にしちゃるけ」


イファルの地で、

(くすぶ)っていた筈の自分の感情に、

火が灯っていく様な確かな感覚を、

ハッキリと確信めいたものとして、

ヤエファには捉える事が出来ていた。


◆◆◆◆

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