イセカイ篇 13 『サンプリング。』
◆
悠さん曰く、
悠さんは俺達の様な出戻り組とは違い、
元々、異世界の住人だったらしい。
「つっても……、
子供の時に来たから、
こっちで過ごしてる時間の方が長いんだけど」
「言語の変換はしてるんですか?魔法で」
「変換魔法?使えないよ。日本語は自分で覚えた」
「ナツメくん。変換魔法なんて知っているんだね」
「ああ。あっちでスイにやってもらった」
「スイに?あの娘の魔法も上達してるんだね」
ことはは嬉しそうだ。
「言語の変換魔法って難しいのか?」
「日常で使う魔法と云うのは、
案外、攻撃魔法なんかよりも技術が要るものも多い」
「へえ」
「つーかちょっと待って。
君、リク君だよね?
ナツメくんって何?」
「あ。しまった」
「親戚っての、やっぱ嘘?」
「ううん。本当だよ」
「しまったって言ったじゃん……」
「僕と彼に血縁関係は無いれど、
それほど重要な問題でも無いんだ」
「変だと思ったんだよ。さらっと嘘つかれた」
「それより、悠ちゃん。
子供の時に転移して来たと言ったね?
一人で、では無いよね?
子供が、それも異世界の。
言葉も通じないのに、一人では生きて行けないだろう」
「……そうだよ。あたし達は、
まとめて、一緒にこの世界に送り込まれたんだ」
「偶然に転移した訳でも無いんだね」
「それは、ことは達も一緒だろ?」
「僕達は、
意思を持ってあちら側に行った訳では無いからなぁ。
召喚されたのか、或いは、こちらから転送されたのか。
初めの転移に関しては、残念だけれど、僕は知らない」
「こっちに戻って来れたのは?」
「僕が異世界で最後に戦った、
リロクと云う魔法使いの魔法を受けてだね。
気づいたら僕は、こちらの世界に居た」
「リロク……」
「悠ちゃんは知ってる?」
「聞いた事はあるかも。
すっごい昔に居た、魔族の名前と一緒じゃない?」
「魔族か。
彼の存在の不可思議さからして、
それなら納得がいく。
多分、同一人物だね」
「あんた、そんなのと戦ってたの?」
「好きで戦ってた訳では無いんだけれどね。
それと悠ちゃん。
あたし達、と君は言ったけれど、
一緒に転移してきた他の人達はどうしてるんだい?」
「……わかんない。
施設を出てから、誰にも会ってないから」
「施設?」
「……コレ、絶対教えちゃマズいんだけど、
嘘吐いても、どうせいずれ判るから……」
◆◆
異世界への転移。
ことはと、俺が今まさに探しているもの。
悠さんが言うには、
あっちの世界では、
既に確立されている技術らしい。
とても秘密裏に、一部の人間だけがそれを知っている。
俺達が、あちらの世界で過ごした様に、
向こう側からも、
こちらの世界で暮らしている、
転移してきた人々が一定数存在している。
悠さんが子供の時に転移させられ、
こっちで過ごした施設と云うのは、
転移者達が設営したもので、
そこで悠さんは、
日本に関する知識を身につけたのだという。
「つっても、日本を侵略しに来た訳じゃないよ」
悠さんは否定する。
「あたし達がやってるのは、
移民の為のサンプリングなんだ」
「移民?」
「そう。向こうの世界から、こっち側に」
「そんな事を考える人達がいたんだね」
「……あたしはラロカって云う、
貧しくて小さい国で産まれたんだけど、
そういう恵まれない国の子供を対象に、
サンプリングを行う人材を募ってたんだ。
報酬も凄く多く貰えるし、誰もが皆、
我先に飛びついて行ったよ」
「募集をしていた連中と云うのは?」
「『工房』って名前」
「全然わからないな」
「そりゃそうだと思うよ。
とにかく、あたし達は工房に送り込まれて、
工房の施設で育って、日本で生活をしてる」
「そして、
サンプリングの業務をしながら、
何かと敵対もしている」
「……。理央と茉央の事でしょ?
わかんないんだよ。
ここ最近、工房の動きを探ってる奴がいる。
連絡が有ったんだ。
だから、あたしが工房の人間だってバレたら、
何か仕掛けて来るかも知れないって思って。
店の子達に、なんかあったらダメだって思って……」
「魔障を防ごうと思ったんだね」
「ことはが、魔法使いなのはもう知ってたけど……。
もしかして、
その連中と戦ってたんじゃないかと思ってて……。
ことはには、
全部教えた方が良いんじゃないかと思って、
さっきの電話はそれで……」
「なるほどね。掛け直しても出なかったのは?」
「まだ悩んでたんだよ……。
今も、教えて本当に良かったのかどうか……」
「少なくとも、僕は悠ちゃんの敵では無いよ」
「ことはが戦ってた連中は、
工房を狙ってる奴らなのかな?」
「リロクからすれば。
世界間を行き来する術が、
自分だけのものでは無かったとしたら、
面白くは無いのかも知れないね」
ことはそう言った。
「リロクもそろそろ、
このイタチごっこを終わらせるつもりらしい。
悠ちゃん。工房に僕達を紹介して貰えないかな?」
「……わかった。連絡してみるよ」
「ありがとう。ナツメくん。
それじゃ僕達は行こう」
「え?何処に?」
「さては君は僕の話をあまり聞いてないな?
装置を今夜中に一つ壊すと言っただろう?
僕達が今やるべき事は、
リロクの最も嫌がる事をしてやる事さ」
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本日投稿分の1話目です!




