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リンカーネイトリンカーネイトリンカーネイト  作者: にがつのふつか
第四章 『二月二日と少年』
122/237

異世界篇 12 『同盟の定義を。』

本日投稿分の最終話です!



クジンが鼻血を噴き出しながら、

魔法の詠唱を始めるよりも先に、

シャオは間合いを詰めると、顎を狙って拳を打ち込んだ。


ほぼ直撃を喰らい、詠唱を邪魔されたクジンは、

忌々しげな表情を浮かべ、

口の中に溢れる血を唾と共に吐き棄てた。


シャオは容赦無かった。


魔法使いとは云え、クジンの体術は侮れないだろう、

そんな事は分かっていたが、どうでも良かった。


クジンが何か仕掛ける前に叩きのめす。

抑えの利かない怒りで、

思考よりも先に身体が動いている。


クジンの視界からシャオが消え、

再び顎に重たい打撃を喰らった。

一瞬、意識が遠退いたが、

詠唱はまだ止まっていなかった。



「はい。そこまで」



ラオが仲裁に入る様にして、

二人の間に割り込んだ。


「イファル王。何故邪魔をする」


「そうです。退いていただけますか」


ラオの魔力を込められた指先が、

二人の首元に突きつけられていた。


「このままじゃ、マジでどっちか死んじゃうでしょ?

シャオも危なかったんだぜ?

近接での魔法使いを侮り過ぎだ。

クジンの詠唱が終わってたら、やられてたのは君だ。

それに見てごらん」


シャオの後方で、

魔法を放とうとシンヒは構えていた。

口元には冷笑を浮かべて。


「危ないところだったんだぜ?

その子(シンヒ)も相当ヤバいぞ」


「あら。気づかれないと思ってたんですけどねえ」


「そんな魔法を室内で撃たれてたまるか」


「私は負けません。スイを侮辱した者を許しません」


「わかったわかった。

クジン。この娘(シャオ)は、

(イファル)で最強の戦士だ。

魔力の込められてない普通の打撃なんて、

久しぶりに喰らったんだろ?

魔力を伴わないから、感知して避けづらいでしょ?」


「迅いだけで単調な動きだ」


「その迅さに着いてけないだろって話してんの」


「クジン。もう止めときなよ。

鼻血ダラダラじゃないのよ。だっさ」


シンヒがクスクスと笑いながら言った。


「黙れ」


「シャオも落ち着いて。

わたし(スイ)は大丈夫だから」


「ごめんなさい、落ち着けません……。

すぐに済みますから……」


「王様の話聞いてた?」


クジンは血塗れになった顔を拭い、

血の味のする口の中、舌で奥歯を触ると、

グラグラとしていた歯は簡単に折れてしまい、

唾と一緒に吐き出した。


「だっさ。歯が折れちゃってんじゃないのよ」


「チッ。馬鹿力め」


真面(まとも)に喰らっちゃって。

躱せたんじゃないの?」


「当たり前だ。迅くて見えなかっただけだ」


「見えてないんじゃないのよ」


◆◆


「同盟の意味を、もう一度よく考えてみようか」


クジンとシャオが睨み合いを続ける中、

ラオが一同に向かって、

話を仕切り直す様にそう言った。


「根本的なところからの、お復習(さらい)だけどさ、

仲良くしようね。とまでは言わないけど、

争ってちゃ意味を為さなくなっちゃうでしょ」


「つーーか、喧嘩腰だったのって、

ソイツ(クジン)じゃん」


そこ(ユンタ)、掘り返さない」


(クジン)は事実を言っただけだ」


「あーーん!? 次はウチが鼻砕いたろかー!?」


「合う合わないは有るから、強制はしないけどね」


ラオは溜め息をついた。


「クジンはさ、僕達の戦力に疑念が有ったかもだけど、 意外とそうでも無かった(弱く無かった)でしょ?

魔力だけで推し量れるもので無いと云う事だよね。

シャオやユンタもさ、

頭にきてたかも知れないけど、

あんだけ派手にぶん殴ったんだから、

スッキリしただろ?」


「ウチ殴ってねーーもん」


「ユンタ。王様を困らせたらダメだよ」


「スイ。ありがとう」


◆◆◆


「だから、(クジン)が言いたいのは、

精霊魔法全体に通ずる、コスパの悪さだ。

精霊を介して物質を操る事に何のメリットがある?

火も水も土も、魔力を通せば、

精霊の力を借りなくても操れるんだ。

わざわざ契約を結んで、

精霊に魔力を捧げて、

俺に言わせれば無駄が多い」


「介してって。そんな言い方は失礼だよ。

それに君に精霊魔法を語る資格は無い」


「俺は使わない。そもそも精霊魔法のスキルが無い。

(いにしえ)の魔法使いは確かに精霊の介助が無ければ困っただろう。

だが、現代においては魔法の在り方も変わっている。

契約せずとも、魔力の操作のみで魔法を発動出来る、

一般魔法が主流だ。

お前(スイ)の様に精霊魔法一辺倒な方が少数派なんだ」


「やれやれ。コスパだのなんだのと、

魔法に重要なのは自由と創造だと言っていたじゃないか?

随分とケチくさい勘定をしながら魔法を使うんだね君は」


「ケチくさい勘定では無い。

人間の魔力は無尽蔵では無い。

自由と創造を発現するには制御が必要だと云う話だ。

お前の様に派手にドンパチやるのは、

古典魔法の常套手段だ」


「笑わせるね。

古典とは源流さ。

わたしは魔法の正しい在るべき姿だと考えてる。

君みたいな魔法使いが居るから、

魔法はどんどんと、

省エネでコンパクトな方面を追及してしまうのさ。

そのままでは魔法が魔法で無くなってしまう」


イファル王宮内の大食堂にて、

具現派魔術師(ソーサリースフィア)の面々との、

懇親会を込めた宴の場にて。


「なんか、あの二人けっこーー気が合うね?」


「クジンの奴、語り出すと止まんないからねえ」


「スイも……、ちょっとだけ魔法オタクだからなーー……」


「よし、分かった。そうまで言うなら表に出ろ。

古典魔法には理解出来まい。

魔法を一般的な技術にまで昇華できた先人達の、

努力の結晶である俺の術式を見せてやる」


「君の方こそ、精霊達との契約で紡がれた、

魔法の本来の在るべき姿を見るといい。

吠え面かくなよ」


「こっちの台詞だ」


「うまくやってけそうだねえ」


シンヒは愛想良く笑いながら、

グラスに注いだ酒を飲み干した。


空になったグラスに、誰かが新たに酒を注いで、

シンヒも、そうやって誰かのグラスに酒を入れてやった。


食べ尽くされてしまいそうな数々の料理と、

信じられない量の空の酒瓶、

明け方近くまで、宴は続いた。


◆◆◆◆

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