イセカイ篇 12 『悠さんは魔法使い。』
本日投稿 2話目です!
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結局、三十体近く居たリロクの使い魔達を、
ことはが片付けるのに殆ど時間は懸からなかった。
使い魔は灰となって跡形も無く消えて、
俺達の周囲を取り囲んでいるのは、
また元の暗がりだけになっている。
「僕にばかり戦わせて、ひどいじゃないか」
俺は本当に身動きひとつ取れずに、
ことはが使い魔達を次々と打ち砕く姿に、
圧倒されていただけだった。
「強くないって言っただろ」
「少しは君の能力も見てみたかった」
ことはが居るのに、
俺が戦闘で役に立つ訳無いじゃないないか。
◆◆
『りしえる』の灯りは消えたままで、
スマホで時刻を確認したが、
今回はちゃんと時間も経っている。
つまり俺達は、きちんと夜の中にいる。
「リロクの結界は、
対象を中に閉じ込める性質のものだ」
ことはが、俺にそう説明してくれた。
「結界を発動させる装置は、結界の中に置けても、
術者は結界の外に居なくちゃならない」
今、正常に時間が経過していると云う事は、
結界を張られていないと云う事の様だ。
「一般人に目撃されるのを、
嫌がってるのかと思ってたけれど、
そうでは無いらしい」
「魔法って、こっちの世界で見られるとマズいのか?」
「人それぞれだろうね」
「お前は?」
「僕は、別にどっちでも良いかな。
自分から見せたりはしないけど」
ことはが店の入り口で、俺に手招きをしている。
「中にどうやって入るんだ?」
「じゃーん。鍵を持って来ている」
じゃらじゃらと色々なものをぶら下げた、
カラビナに付いた鍵を俺に見せてきた。
何故、これを忘れられる。
「それ……、さっき部屋に忘れてたよな?」
ことはは、俺を無視して入り口の鍵を開けた。
「……いきなり、リロクと遭遇とかしないよな?」
「それならそれで好都合じゃないか?」
「心の準備が……」
「足元に気をつけて」
ことはが電気のスイッチを探り、
ホールの灯りを点けた。
「二階だ」
俺は頷いて、ことはと一緒に二階の事務所へ向かった。
「魔力を消すのが上手いね。
注意して探っていても、
気を抜いたら直ぐに見失ってしまう」
ことはが独り言の様に言った。
「消すと云うより、存在感が元々薄いのかな?
スキルの類いでも無さそうだ」
階段を上がって、二階の廊下の灯りも点けた。
事務所のドアの前に立ち、
ことはが軽くノックをした。
返事は無い。
「本当に誰かいるのか?」
「居るね。魔力は感知しづらくても、気配は感じる」
そう言うと、ことははドアを開けた。
「悠ちゃん。僕の予感は当たっているかな?」
その声は暗闇の中に吸い込まれたが、
直ぐに事務所の蛍光灯の灯りに依って、
影に隠れる様にして、
息を潜めていた悠さんの姿が露になった。
「ことは」
悠さんは眩しそうにしながら、名前を呟いた。
「同じメイドカフェで、
魔法使いが二人も働いていたなんて、
すごい偶然だと思わないかい?」
「あんたも内緒にしてただろ?」
「僕にも色々事情があってね。
悠ちゃんもそうなのかな?」
「魔法使いでーす。なんて、自分から言う訳ないじゃん」
「それはそうだ。
僕が魔法使いだと云う事を、元々知っていたのかな?
知っていて、僕に近づいたのだろうか?」
「……最初は分かんなかった。
魔力の感知なんて殆ど出来ないし。
魔法使いって云っても、私はハッキリ言ってショボい。
自分で言うのも何だけど」
「じゃあ、いつ気づいたのかな?」
「……。ことはが変な奴らと戦ってたのを見た」
「見られてたんだ」
「こっちの世界に居ない生き物だったろ」
「そして君は、やっぱり異世界から来たんだ」
「……まあね」
「一人で来たの?」
「……そう」
「どうやって来たのかな?」
「質問ばっかだな」
「それに」
ことはが、「フッ」と微笑んで、
一つ間を空けた。
「……何?」
悠さんが恐る恐る尋ねる。
「もしかして、悠ちゃんは僕の事を尾けてたのかな?」
「へ!? な……、何で!?」
「僕が変な奴らと戦ってたのを、
どうして見れたんだろうか?
僕はお店の周りで戦った記憶は無いし、
悠ちゃんの家と僕のアパートは反対の方向だ。
もしかして……」
「ちがうッッ!? ストーカーとかじゃないから!?」
「ははーん」
「違うから!!?」
悠さんは顔を真っ赤に否定していたが、
おそらく、ことはが言っている事で間違い無いのだろう。
擽ったいような、
ほくそ笑んでしまう様な、
想像をすると、
むず痒くて、ニチャニチャと顔が弛んでしまう。
俺は二人の様子を見ていた。
「さて、
悠ちゃんにそういう気質があるのが分かったところで」
「違うんだって!!」
「本題に移ろう。
君は、この世界で一体何と敵対しているんだろうか?」
ことはが、悠さんに訊いた。
「理央ちゃんと茉央ちゃんを守ろうとしていたのは、
その何かからなんだろうね。
それに、あの時の電話。
僕に何か伝えたい事があったのだろう?」
悠さんは答えるかどうかを、
迷っている様に俺には思える。
彼女は、しばらくの時間黙り込み、
やがて、ゆっくりと話を始めてくれた。
失言に注意して、
自分の言葉をとても厳選しながら、
俺達と、他の誰かを警戒し続けている様子だった。
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