異世界篇 11 『無遠慮であるという事。』
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「お前は“中央の魔女”の娘だ。
魔女は、この世界で一番強かったかも知れない女だ。
俺は知っている」
「魔女。いきなり他人の親を魔女呼ばわりとは、
少し失礼過ぎじゃない?」
スイはあからさまに不機嫌だった。
「なら、何と呼べば良い?“魔人”か?」
「クジン。止めなよ。
初対面の人には、もう少し愛想を良くするもんだよ」
「お前は黙ってろ。俺はスイと喋っている」
「ちょっとさーー?口の利き方とか知らない?」
ユンタも苛ついた口調でクジンを問い詰めた。
「獣巫女、お前の事も知っている」
「その、“知っている”っての、もーいーから。
イェンといい、お前といい、
知識披露するのが具現派魔術師の仕事か?
気持ちワリんだよバーカ」
「昔は強かった」
「ああん?」
「西国で、
お前の名が馳せていたのは百年以上前だ。
鬼火が死んだ後、お前は表舞台から消え、
隠遁し続けた。
だから、今のお前は弱い」
「……試してみるかコノヤロー?」
「俺達が金で雇った使い走りの雑魚にすら苦戦した。
スイ。お前もだ。
お前の使役する精霊は強いが、
その所為で精霊を頼りにし過ぎて、
お前自身が隙だらけだ」
「なんて偉そうなんだ君は」
「俺はお前達より強い。だからだ」
「あッッたま来たー! コノヤロー!! 表出ろい!!」
「“中央の魔女”は強かった」
「しつけーよ!!」
「二百十七人」
「はーー!?」
「十四年前に中央の魔女が異世界から現れて、
七年前に姿を消すまでに、
魔女が此の世から葬った魔法使いの人数だ。
勿論、俺が把握しているだけで、
実際は、もっと多い。
当時、世間を恐怖に陥れていた、
悪名高い、おたずね者の魔法使い達の大半が、
中央諸国から依頼を受けた魔女によって倒されている」
「けっ……」
「魔法史上、俺が知る限り、
魔女はこの世界で最も強い」
「だからなんだっつーーんだよ?」
「俺は魔女の様に強くなりたい」
「はーー?」
「魔法使いは、強く在るべきだ。
此の世の理の範疇から外れた異端の力を、
魔力だの術式だのでは無く、
自由と創造に依って、
発現させるのが魔法だと俺は思っている。
今、此処に居る大半の者が、
魔法のスキルを持って産まれて来ている。
なのに、お前らは弱い。
俺は弱い魔法使いが嫌いだ」
「ウチもおめーーの事嫌いだけどね!?」
「ごめんなさいね。コイツ、頭おかしいから」
シンヒが舌を出して戯ける様に言った。
「君が相当な実力が有る事は、
此処に居る全員がわかってるよ。
だけど、
今は僕達と君達で同盟を結ぼうと云う場だ。
少し口を慎んだらどうかな?」
「それな!」
「紹介した僕の面子も丸潰れですね」
「お前の面子など知った事か。
曲がりなりにも敵は聖域教会とネイジンだ。
こんな戦力で本当に戦うつもりなのかと、
俺には甚だ疑問だ」
「乗り気だったじゃん。あんた」
シンヒは相変わらず楽しそうにしていた。
「あたしはね。
コイツと違って不満は無いんですよ?
別に、お手々繋いで仲良く戦う訳じゃ無いんだから。
足を引っ張ってもらったって、気にはしません」
「足を引っ張られるくらいなら、俺は同盟を組まない」
「あんた、ちょっと黙ってな。
主旨がズレてんのさ。
この同盟にゃメリットが有るのを忘れてない?
ネイジンに乗り込みゃ、
今までみたいにチマチマ集めなくたって済むんだ。
多少の不満くらい我慢する事を覚えなさいよ」
「お前に言われるまでも無い」
「と云う訳で。
皆さん。よろしくお願いしますね」
シンヒはそう言って、
スイに手を差し出して握手を求めた。
「魔女」
「え?」
「わたしの母を、
魔女と言った事をまだ謝ってもらってない」
「ああ。それも本当にごめんなさいね」
「君にじゃない」
「……。クジン。この娘に謝りな」
「どうしてだ?」
「いいから。凄く怒ってるのが見たら判るでしょうが」
「何故怒ってる?意味がわからない」
「ごめんなさいね。アイツ、頭がおかしいんだよ。
あたしが代わりに謝るから、許してくれないかな?ね?」
「魔女は魔女だ。
それ以外の名称が必要だったのか?
誇れ。
お前は魔女の娘だ。お前は強くないが、
お前の母親は強い」
「あんた、いい加減に……!」
───ドゴッッッッッ!!!!
シンヒがクジンを叱責しようとした刹那、
その場に居た誰もが眼で追えない速度で、
シャオがクジンの顔面に、
正面から拳を叩き込んでいた。
信じられないくらいに、重い一撃だった。
噴水の様な鮮血が周囲に飛び散っていく。
クジンは少しよろめいて、
後退りをしながらシャオを睨み付けた。
「“白銀”」
「先程から……、どう考えても無礼でしょう……?
スイの大切な方を愚弄するのならば、
この白銀が相手になりますけど……?」
シャオの周囲を取り囲む様にして、
冷厳な闘気が漂い始めている。
必死に堪えているらしかったが、
その眼は殺意で凍てついていた。
「お前は魔法使いでは無い」
「魔法使い相手でないと、戦う事が出来ませんか?」
「戦う必要が無い」
「臆病ですね。
ご覧になる勇気が有れば、
自慢の魔法を、貴方ごと粉砕して差し上げますけど」
「待った待った。
ちょっと二人共落ち着きな?」
クジンは鼻と口から溢れ出て止まらない流血を、
腕で拭い、口の端を舌で舐めた。
「お前は、
物理攻撃一辺倒だと解釈しているが、
魔法を侮辱しているのか?
ならば、
これで戦う必要が出来たな。“白銀”。
俺はお前の事を知っている」
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