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リンカーネイトリンカーネイトリンカーネイト  作者: にがつのふつか
第四章 『二月二日と少年』
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イセカイ篇 11 『足音と夜が。』



「お邪魔しまーす♪」


理央と茉央は上機嫌だった。

ことはの言う、

薬の効果が出ちゃってんじゃないかなと思うくらいに。


部屋に上がってからも、ことはが何かを言う度に、

キャーキャーと騒いで、

「夜中だから」と(たしな)められながら、

悪ふざけを続けていた。


アパートに戻る前に、適当に買ったお菓子やら、

惣菜やらをツマミ代わりにして理央達は酒を飲んで、

俺は勿論ジュースだったが、

悪い大人の集いに参加しているみたいだ、

となんとなく思っていた。


「ていうか、二人(ことはとリク)って、

あんまり似てなくないですか?」


「茉央も思った。親戚だから?」


「親戚だから似るんじゃなくて?」


「えーわかんない。リク君て彼女居るのー?」


「そういや平日なんだけど学校は?」


二人の会話は脈絡が無く、

俺の返事を待たずに、答えようとした瞬間には、

もう次の話題へと替わってしまう。


俺は途中から答えようとする努力を諦めた。


理央と茉央がシャワーを浴びに行き、

彼女(ことは)は換気扇の下で煙草を吸っている。


「なんか……疲れた……」


(ナツメくん)は意外と真面目なんだね。

あんなにコロコロと替わる話を、

ちゃんと聞こうとしてた」


「無視したら失礼だろ……」


「真面目だ。

だけど、そのまま寝てしまってはいけないよ?

彼女達が上がったら、次は君がシャワーを浴びて来て。

眼を覚ましておいで」


「おう……」


何だか扇情的なフレーズ。

だけど彼女が口にすると、

何かの説明書みたいに無機質に聞こえた。


「マジ眠たいんだけど……」


シャワーの音が止まり、

理央達が脱衣所で話している声が聞こえてきた。

俺は床で丸くなり、

ぼんやりと、その声を聞いている。


「あれ?リク君寝ちゃってる」


「ほんとだ。ことはさーん♥️

シャワーありがとうございましたー♥️」


二人共、キャラクターがプリントされたスウェットを、

ことはに借りて着ていて、

濃い化粧をすっかり落としてしまった彼女達は、

それなりに印象が違って見える。


「少し酔いが覚めたかな?」


ことはが、

理央達の濡れた髪をタオルで拭いてやっている。

彼女達は代わりばんこに、

ことはに髪を拭いてもらって楽しそうだ。


「きゃー♥️ことはさん彼氏みたーい♥️」


ほんとだよ。なんだよコレ。


「ことはさんイケメーン♥️」


「僕は一応女だよ。

それにしても、君達はお酒が強いんだね。

知らなかった」


テーブルの上に並べられた空き缶の量。

俺は飲んだ事が無いからわからないけど、

相当な量なのだろう。


「えー?そうですか?」


「ことはさんと飲みに行った事って無かったっけ?」


「ことはさんの歓迎会の時だけ?」


「あ、そうそう! 

悠さんがベロベロに酔っちゃった時!」


「意外とお酒弱いんだよねー」


「そうなんだよ。悠ちゃんは、お酒に弱いんだ」


理央と茉央が、うんうん、と頷いている。


「それなのに。

何故あんなにアルコール度数の高いお酒を、

間違えて買ってしまったのだろう」


「あはは。悠さん意外とドジだからー?」


ことはが探りを入れているんだと思って、

俺は話を聞いていた。

理央と茉央の飲んでた酒に、

魔力と薬を混ぜた、

その犯人は悠さんじゃないのか?

状況的に。

ていうか絶対に。


でも、薬はまだ良いとして(良くないけど)、

魔力なんて。

悠さんは魔法使い?

メイドカフェの店長さんが?


それに、

何の為に二人(理央と茉央)にそんな事を?


当然、俺はミステリーが得意じゃ無い。

謎解きや考察をしたとたころで……。


「悠ちゃんの陰謀かな。

君達を酔わせて、一体何をするつもりだったのかな」


「えー♥️理央、ことはさんが良いー♥️」


「茉央もー♥️」


もうええて。


◆◆


───ぺちぺちぺちぺちぺち…………。


頬をずっとぺちぺちと叩かれて(やられて)いる。


「ナツメくん。起きて」


ことはだ。


彼女達(理央と茉央)は、もう眠らせたから。

すぐに出かけるよ」


「……何処に?」


お店(りしえる)だ」


「は?今から!?」


「今から」


ことはは、そう言って、さっさと出て行ってしまった。

鍵やらスマホやらをテーブルに置いたまま。


俺は溜め息をついて、それらをポケットに突っ込んで、

ことはの後を追いかけた。


一応確認したが、理央と茉央は、

ことはのベッドで一緒に眠っていた。


「おい。忘れてる」


「鍵をちゃんと掛けてくれたかい?

今夜中に装置を一つ壊す事になるから、

少し長くなるかも知れない」


「でも、

どこに有るかわかんなくなったって言ってただろ?」


「罠だと思ってたんだ。

装置の場所が、わざとらしく移動してあって、

偶然出会した、あの娘達の飲み物に、

分かりやすく魔力が込められていた、

意図までは分からなかったから、

様子を見てたんだよ」


「まさかあの二人敵!?」


「最初は僕もそう思ってたけど、違った。

二つの出来事は偶然だった。

あの二人は身体に微量の魔力を帯びていたけど、

それは飲まされたモノの影響であって、

彼女達は普通の人間だった」


「じゃあ、やっぱり犯人は悠さん!?」


「ふふ。君はミステリー小説とかが好きなのかな?」


思わず大きな声で、

それらしい事を言ってしまった事を後悔した。


「悠ちゃんも違うね。

飲み物に込められてた魔力を解析してみたけど、

防御魔法の術式に依るモノだった。

おそらく悠ちゃんは、二人を守ろうとして、

あの酒を飲ませたんだよ」


「へ!? じゃあ悠さん魔法使い!?」


「一緒に混ぜてあった薬は、

魔法の耐性が無い人の為の導入剤で、

防御魔法の効果を上げようとしたんだろうね。

お陰で眠らせる魔法がよく効いてくれた」


「なんだよ……、良かった。

悠さんが敵なのかと思ってドキドキしてたんだよ」


「でも悠ちゃんは何かを隠してる。

魔法使いだった事も隠していた。

それに、おそらく悠ちゃんは異世界の人間だ」


「マジ!? 転移する人多すぎない!?」


「それは僕に言われても」


「それにお前、一緒に働いてたのに、

悠さんが魔法使いって気づかなかったのか?」


「わかんなかったね」


「へー……」


「……なんだよ?」


「別にー……」


急に、ことはが立ち止まって、

俺に“止まれ”と合図した。


暗がりの中から、足音が聴こえた。

俺達を取り囲む様に、四方からだ。


足音から人数を割り出すなんて事は、

俺には出来ない。

姿を現した敵の数は、

俺が思ってたよりもずっと多かった。

ざっと見ても、二十人以上は居る。


現れたのは、

勿論リロクの使い魔だ。


敵が更に間合いを詰めようとして、

段々と近寄ってくるよりも先に、

いつの間にか、

ことはが俺の傍から消えて、

気づいた時には、

何体かの使い魔が頭部を砕かれ、既に灰になっていた。


「お店に向かおうと思った途端にコレだ。

余程、知られたくない事が有るらしい」


ことはが、そう言った瞬間、

また何体かの使い魔の、身体の一部が砕かれていった。


その迅速な動作の、余りに人間離れした速度に、

俺は何ひとつ言葉が浮かばなかった。


「ナツメくん。やっぱり僕の予感は当たってるみたいだ」


彼女(ことは)はそう言って、嬉しそうに笑った。


◆◆◆

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