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リンカーネイトリンカーネイトリンカーネイト  作者: にがつのふつか
第四章 『二月二日と少年』
118/237

異世界篇 10  『クジンとシンヒ。』

本日投稿分です!


本日分も1話のみになります!

日曜日から、また複数話更新を再開しようと思ってますので

よろしくお願いします!



「げぼッ……、ひょ……、ひょっほはっへほひいひょへぇ

(ちょ……、ちょっと待って欲しいよねぇ)」


ヤエファの魔法に因って顕れた火焔を纏った獣は、

ジンガにとって、

死の気配のする絶望を運ぶ存在でしか無かった。


「殺しゃせんけ。安心しんさい」


もう一体の水人形も、

既にミンシュの通常攻撃で破壊されてしまっていた。


お前(ジンガ)にゃ少し訊きたい事もあるけ」


そう言って、笑うヤエファの(かお)を見て、

ジンガに底知れぬ恐怖と戦慄が訪れた。


「手こずらせてくれましたー♪

しかもー、亜人とか人外とか偉そうに()かす、

人間様万々歳のクソヤローですー♪」


頭部を破壊されて、

再生をしなくなった水人形の足を持って引き摺りながら、

ミンシュが、どんどんと近づいて来ている。


「ひッッ……!?」


そげ(そんなに)脅かしてやるな。

面白い手品を使うとったが、

実力は端役も()えとこじゃ」


ジンガは助けを請うようにして必死に頷いた。


ほじゃけど(だけど)

その程度でイファルに単身で乗り込む様な奴じゃ。

何か裏が有るのか。

よっぽどのアホか」


ヤエファは、

座り込んで動けなくなったジンガの顎を手で持ち上げた。


「何か隠しとるんなら、

洗いざらい吐いた方が楽じゃと思うがの」


(違う)


喉を潰されて、声が出ない。


(こんなに強い奴らが居るなんて知らなかった)


ジンガはそう訴えたかった。


「そのままじゃ喋れんじゃろうがの。

回復させちゃっても良えが、

また魔法を使われると困るけ」


ヤエファは(おど)ける様に言った。


「わっちは指切り姫と云うての、

物騒な噂が飛び交っておった事も有ったが、

約束事を(たが)えさせん様にするスキルのお陰で、

最初(はじめ)はそう呼ばれとったんじゃ」


ヤエファは小指をジンガに差し出した。


「ゆーびきーりげーんまんー♪と云うヤツじゃ。

わっちと約束事が出来るかの?」


ジンガはヤエファの言葉の真意を探ろうと必死だった。

返答を間違えれば、直ぐ様、自分の首は飛ぶのだろう。


「殺しゃせんと言うとるじゃろ?

わっちとの約束を守れりゃ、死にはせんよ」


どちらにせよ、逆らう事などは出来る筈もない。

ヤエファの後ろで、ミンシュが放つ殺気の凄まじさが、

眼に見えて圧を増してゆく。


「ん?どうするかの?」


両手は震えて仕方無かったが、

なんとか小指を差し出す事は出来た。


「わっちはの」


ヤエファは先程とは違い、

静かな口調で言葉を紡ぎ出した。


「兄の亡骸と魂を、喰い物にし続けた、

其処におるガコゼを、

最初は殺したくて仕方が無かったんじゃがの」


◆◆


「百年振りに、

死人ではあったが兄と再会しての。

なんとなくじゃが、

少しだけ気持ちが変わってしもうたんじゃ。

あれ程憎かった、人間に向けていた気持ちも、

(おんな)じでの。

わっちは随分、

牙も抜かれて丸くなってしもうたみたいじゃ」


ヤエファは(うっす)らと笑っている。


「ほじゃけど。

イファル王から、面白い話を聞いての。

管理者(ミニチュア)とか云うたかの。

その、いなげな(怪しい)連中と、

聖域教会が繋がっとる。

此処に居る小心者(ガコゼ)謀叛(むほん)も、

もし、管理者と教会の指金(さしがね)じゃとしたら、

わっちは、その真実が知りとうて仕方が無い。

手伝ってくれるかの?」


ジンガは既に呆気なく失禁していた。

ヤエファの、

憎悪と悪意に満ちた笑顔を目の当たりにして。 


───『複合スキル“尾裂の獣焔+指切り”』


ヤエファと結んだジンガの小指に、

炎が纏わりつき、ジンガは悲鳴を上げたが、

炎は身体に染み込んで行く様にして、

直ぐに消え失せた。


「わっちはロウ兄程、炎が上手に扱えんけ。

ほじゃけど。

これで、お前(ジンガ)が約束を違えて嘘を吐けば、

何処に居っても、

わっちの炎が、お前を必ず業火で焼き殺す」 


これは命を喰い破る呪いだ。


「お前を生かすか否かは、

イファル王の権限に在るが、

わっちは、お前を逃がしちゃる。

その代わり、教会に戻ってから、

わっちの為に働いてくれるかの。

言うとる事はわかるじゃろ?」


「ちょッッ!? ヤエファさん!?

そんなの勝手に決めちゃったらマズいッスよ!?」


「すまんのロロちゃん。

どうにも、わっちの性分での」


「ダメッスよー!?」


「いんやの。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


「ッッ……」


ヤエファの幻術に因って、ロロの意識は、

伽藍堂(からっぽ)の、

空虚なものに取って代わられていた。


「ヤエちゃん。

幻術まで使わなくたって良かったと思うですー」


「ロロちゃんは素直じゃけ。

仲間にはきっと、ありのままを伝えてしまうじゃろ」


「ロロやんなら、分かってくれると思うけどなー」


「わっちの性質(たち)じゃの。

可愛い娘を苦しめとう無い。

卑怯で悪どいやり方じゃ」


ヤエファはジンガを立ち上がらせて、

こう言った。


「人間。ジンガとか云うたの。

わっち達(人外)の事を嫌うとると言うたが、

わっちもお前(差別主義者)が大嫌いじゃ。

それでも、

わっちの傀儡になる事で許してやる。

見つからん様に、無事に(ルーファン)を出て、

とっとと()ね」


◆◆◆


ヤエファ達はバラバラに引き裂いた、

水人形の残骸を仲間達の元へと持ち帰った。


「やり過ぎてしもうての。

誰が誰だか、わからんくなってしもうた」 


ヤエファは悪戯っぽく笑って、そう言った。


水人形が魔力で造り出したモノで無かったので、

消えずに残ったのが幸いした、とヤエファは思った。


「これで、聖域教会はイファルに対して、

堂々と敵対を宣言した訳だね」


ラオが、水人形の残骸を手にとって繁々と眺めながら、

そう言った。


「それは此方(こっち)も一緒じゃろ。

もちいと(もう少し)、巧くやりゃ良かったが。

出過ぎた真似をしてすまんの」


「謝る必要なんて無いさ。

むしろヤエファには感謝してる。

僕達(イファル)の意志はもう決まっているしね。

それに中央諸国にも、聖域教会に不満を持つ国は少なく無い。

これを機に対教会に関する同盟でも結んでみようかなー」


国王様(ラオ様)

わたし(スイ)は政治の事はよくわからないけど、

同盟がもし叶うなら、そっちの方が良い」


「どうしてだい?」


「ガコゼの能力(亡骸を操る)は、

とても残酷だと思うから、出来たら使って欲しくない」


「お前は優しいな。

確かにガコゼの能力は使えると言ったが、

気に病む必要は無いよ。

僕の傲慢な考えだ。

アイツの事だ。身体が自由になれば、

すぐに裏切るだろうね」


ラオはそう言って笑った。


「それに、

バカみたいにデカい魔力が此方に向かって来てる。

イェンの奴だね。ソーサリースフィアとか云ったが、

こんな連中を引き連れて来るつもりだったとはね」 


スイも感知できた魔力は三つ。

一つはイェンのものだったが、

あと二つはイェンよりも更に強大で、

此方に到着を知らせる様にして、

魔力の反応はどんどんと強まって行った。


◆◆◆◆


イェンが連れて来たのは男女の二人組だった。

男の方は背が低く、

上着のジッパーで口元を隠していたが、

まだ少年の様な顔つきをしていて、

女は長い髪をハーフツインテールに結んだ、

整った顔立ちの器量の良い長身の女だった。


どちらも、

手練れの魔法使いであることはすぐに解った。


「遅くなってすみません。

イファル王、こちらが、

ソーサリースフィアの最高幹部の御二人です」


「イェン。その言い方(最高幹部)やめなさいよ。

二人しか居ないんだから、誤解を招くでしょうが」


女の方が笑いながら言った。

強大な魔力を包み隠ずに、威圧を続けているが、

気さくな笑い方をする女だった。


「イェン。構うな。対等に接して行くんだ。

こっちにも箔と云うものがあった方が良い。

無ければ舐められる」


一方、男の方は無表情で無愛想だった。

こちらも威圧感の在る魔力の持ち主で、

その場に居る者達を品定めでもする様に、

睨み続けている。


「女性の方が、シンヒさん。

男性の方が、クジンさんです」


イェンは二人の言葉を聞き流して、そう言った。


「驚いたな。二人ともまだ若そうに見えるが、

未だこんなに強い魔力を持ってる子達が居たなんてね。

ほんとに人間かな?」


「イファル王。

研鑽(けんさん)を積み重ねる事に、

年齢などは大した障壁にならないと俺は考えているが?

長い時を生き続ける貴方には解るだろう」


クジンは表情を全く変えずにそう言った。


「まあ、それはそうだね」


「王様。

あたしら只の魔法狂いですから。

馬鹿の一つ覚えでも、

毎日やり続けりゃ厭でも上達します」


シンヒは、クジンとは対象的に愛想が良かった。


「そうやって軽く言えるところが恐ろしいね。

それに君はとても美人だな。

何処かで逢ったことが有ったかな」


「イヤですね王様。何処にでも居る顔ですよ」


シンヒは相変わらず愛嬌良く言ったが、

眼はずっと笑っていない。


御二人(クジンとシンヒ)共、

人間性の方は破綻していますけど、

実力の方は問題無いかと」


「本題の方に移って良いか?」


クジンがそう訊いた。


「勿論」


「俺達は女神の痕跡が一つでも多く欲しい。

それなのに、聖域教会は痕跡を独占しようとしている。

俺達にとっては教会は邪魔な存在でしか無い。

厄介な相手だ。

だが、

此度の共闘で、貴方方(イファル)に、

俺達の戦力を貸す代わりに、

報酬として、教会の保有する痕跡の一部を俺達に渡す。

と云うことで間違い無いか?」


「間違い無いよ」


「承知した。

もう一つ確認して良いか?」


「いいよ」


「俺達は聖域教会の死霊使いが、

鬼火のロウウェンの亡骸を使役していると知っていた。

ところが今回、

イファルが鬼火を倒したと云う連絡を受けた。

間違い無いか?」


「それも間違い無い」


「倒そうと思って倒せる相手では無かった筈だ。

俺達が聖域教会を厄介だと考えていたのは、

鬼火の存在が在ったからだ」


「僕が倒したんじゃないよ。

此処に居る、スイ達のパーティーが倒したんだ」


「スイ……。俺はお前の名を聞いて知っている。

中央諸国で最も優れた精霊術師だ。

それに、“中央の魔女”の娘だ」


クジンはそう言って、

相変わらず睨み付ける様な目付きのまま、

スイの瞳を真っ直ぐに見据えていた。


スイは“中央の魔女”と聞いて、

少しだけ眉を潜める様な表情を浮かべた。


◆◆◆◆

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