イセカイ篇 10 『理央と茉央。』
本日投稿分です!
すみません!今日はこの1話のみになりますー
◆
段々と人気が少なくなったのを見計らって、
ことはが、歩きながら煙草にライターで火を灯した。
そのまま勢い良く煙を深く吸い込むと、
旨そうに、ゆっくりと、
白い息の様に煙を口から溢れさせた。
「おい。灰皿無いぞ」
「誰も見ていやしないよ」
彼女は、
帰り際に事務所の冷蔵庫から拝借して飲んだ、
エナジードリンクの空き缶に、
煙草の灰をポンポンと落とした。
「マナー悪!」
「うるさいな」
彼女は挑発する様に、俺に向かって煙を吐いた。
「やめろ! てか!
もう結構歩いてんだけど、
何処に在るんだよ?
俺も今日働いたんで疲れてるんですけど」
「それは僕が悠ちゃんに口を利いたお陰だろう?
つべこべ言わないで黙って歩く」
彼女はそう言いながら、
キョロキョロと辺りを見回しながら歩き続けた。
煙草が短くなると、灰皿代わりの空き缶の中に落として、
ジュッ、と火の消える音がした。
「ここじゃ無い。移動してるね」
「は!? こんなに歩いたのに!?」
「僕のせいじゃない」
彼女は用心深く、周囲の様子を探っている。
「ならもう帰ろうぜ。流石に疲れたわ」
「文句が多いな君は」
俺達は引き返して、同じ道をまた歩き、
再び『りしえる』の前を通った。
店はもう電気も消えて、
大勢の客で賑やかだったのが、
嘘の様に静かで真っ暗だった。
「お前、凄かったな」
「何がだい?」
「モテてたじゃん」
「そうかな?メイドさんだからかな」
「どっちかって云うと、王子様だったけどな」
「ちょっとコンビニに寄っても良いかな?」
『りしえる』から、
一番最寄りのコンビニに俺達は寄って帰る事にした。
コンビニの入り口に、
女の子が二人居た。
缶のアルコール飲料に、ストローを差して飲みながら、
何やら楽しそうにスマホで自撮りをしている。
「あれー?ことはさーん♥️
まだ帰ってなかったんですかー?」
見覚えのある女の子達だと思ったら、
『りしえる』の従業員の理央と茉央だった。
メイド服から着替えた、私服の彼女達は、
所謂、量産型女子のゆるふわっとした服装だった。
ほんのりと顔が赤いのは、チークでは無い。
理央達は酔っている様子だ。
「おつかれ理央ちゃん、
茉央ちゃんもおつかれさま。
こんな遅くまで起きていて、悪い娘達だな」
「きゃー♥️」
理央と茉央は手を繋いで楽しそうにはしゃいでいる。
事務所に居た時に、本当に挨拶程度だったが二人とは、
言葉を交わした。
その時に彼女から、紹介をされている。
二人は双子の姉妹だ。
「リク君もおつかれさまー。
今日忙しくて大変だったでしょ?」
「おつかれさまです。
初めてだったんで戸惑ってて……、
疲れました」
俺は店に居るときから既に気づいていたが、
この二人は、かなりスタイルが良い。
返事をしながら、俺はそう考えていた。
巨乳だ。
「まだ高校生だっけ?
遅くまで出歩いて補導されちゃうよ?」
「ことはさんが一緒だから捕まんないでしょ」
「えー羨ましい♥️
こんな綺麗な親戚のお姉さんが居てくれるとか、
神懸ってるー♥️」
「一緒に暮らしてるんでしょ?
その辺、高校生男子的にどーなの?
お風呂とか、着替えとか!
刺激強すぎないの?」
「えーと……、理央さん?」
「ブー。茉央だよん」
かわえッッ、楽しッッ。
「あ……、すみません。お二人とも本当に似てますよね」
「左の胸の下にホクロがあるのが、理央ちゃんだよ」
「きゃー♥️ことはさんえっちー♥️」
「何で知ってんだよ……」
「あ、でもー。リク君も、
一人で出歩く時は、本当気をつけた方が良いよー?」
「そうそう。この辺でも、最近よく聞くよね?
高校生シッソーー。とか?怖いよねー」
俺は薄らと、
流れていたニュースの話題を憶えていた。
「何かテレビで見ましたね」
「フリとかも無くて、
急に居なくなっちゃうらしいよ?」
「家出とかと違うんじゃないかー、
って噂もあるよね?」
俺はどうだったのだろう?
俺の両親は、残念ながら俺に本当に興味が無いので、
おそらく、特に何の騒ぎにもなっていないのだろう。
それに、
異世界と、こっちの世界では、
時間の経過の様子が、どう考えてもおかしい。
俺が異世界で過ごした時間は、
ほとんどノーカウントに近いのだ。
俺は、ことはをチラリと見た。
彼女は、
七年も異世界で過ごしたと言っている。
だけど、こっちの世界で実際には、
そんなに時間は経っていない。
それに、彼女は戻って来て、七年も過ごしているのだ。
タイムスリップしてないと、説明がつかない。
そんな俺の考えを、
見透かす様な表情で彼女は俺を見つめてきた。
オーケー。
SF的な考察なんて、必要では無いのだ。
俺はそこで初めて実感が出来た。
「君達も、
例外では無いかも知れないよ?」
「きゃー♥️こわいー♥️」
「ことはさんが守ってくれますか?♥️」
「勿論さ」
「きゃー♥️♥️」
「でも、悪い狼って云うものは、
この世界の何処にでも潜んでいるものだからね、
僕が駆けつける前に、
君達が食べられてしまわないと良いのだけれど」
「えー♥️こわいー♥️」
理央と茉央は、そう言いながら彼女に抱きついている。
俺は何を見せられているんだ。
しかし、二人ともけしからん身体をしているので、
彼女の身体に押し付けられて、
柔らかな物体の形が変形している事を、
勿論俺は見逃していなかった。
「あれ?何か、ことはさん煙草の匂いがする?」
「悪いね。
先刻、仕事終わりに一本だけ吸ってしまったんだ。
お店では吸わない様にしているから、
知らなかったかな?」
「ことはさんカッコいいー♥️」
もう、何言ってもオッケーじゃねぇか。
羨ましい。
◆◆
その時、
彼女のスマホが鳴った。
スマホが鳴るのは大体が唐突だ。
「悠ちゃんからだ。すぐに切れたけど」
彼女は掛け直したが、悠ちゃんは出ない。
「出ないな。何か用事があったのかな?」
「悠さんってー……、ことはさんと何かありました?」
少し意味深に、理央がそうやって聞いた。
「いいや?どうしてだい?」
「えー……、少し噂しててー……、悠さん、
ことはさんのシフトを、
自分が居る時間帯に合わすじゃないですかー?
だからー、何かあるんじゃないかって」
「それに、ことはさん、悠さんに誘われて、
うちに来たんですよねー?
もしかして……、よからぬ関係だったりして♥️」
「きゃー♥️」
「あはは。そんな事は無いよ。
とても可愛い人だとは思っているけど、良い上司だ」
「えー……、でも悠さんて、ちょっとケバくないですか?」
「そうそう、すぐ怒るし」
「本人の居ない所で、
そういう事を言うのは感心出来ないな。
君達、少し酔っ払ってしまったかな?」
「もー酔っ払っちゃったー♥️」
「今日ことはさん家に泊まるー♥️」
「家は狭いよ?この子も居るし」
「やだやだー♥️お泊まりしたいー♥️」
「ねー♥️リク君は良いよねー?」
「リク君が良いって言ったら、
お泊まりしていいですか?♥️」
「君達は少し刺激が強いからね。
貞操を守れる自信があるなら、僕は止めないよ」
「やだぁ♥️ことはさん守ってくださいー♥️」
「ことはさんになら捧げるー♥️」
「襲いませんけど!?」
「ところで。
君達は先刻から随分と美味しそうなモノを飲んでるね。
良かったら、僕にも飲ませてもらっても良いかな?」
「えー♥️間接ちゅーになっちゃうじゃないですか♥️」
「ことはさん、理央の飲んで♥️」
「ありがとう」
彼女が理央から缶を受け取り、
ストローに唇をつけて、一口飲む姿を、
何かの奇跡にでも出会した様な雰囲気で、
俺達はうっとりと眺めていた。
「美味しい。余り見ない銘柄だけど、
此処のコンビニで買ったのかな?」
「えーそうですか?
珍しいやつなのかな?
悠さんが、
間違えて買っちゃったからって呉れたんですよ♪」
「そうなんだ。僕には何故くれなかったんだろう。
仲間外れにされてしまったな。
これは悠ちゃんにお仕置きしないとだね。ニヤリ」
「きゃー♥️きゃー♥️」
◆◆◆
理央と茉央は腕を組んで、縺れながら、
千鳥足で俺達の前を歩いている。
時折、大きな声で笑ったりして、
相当に酔っているらしかった。
「おい……! 本当にこの人達泊めるのか!?」
「君が我慢したら良いだけの話だろう」
「ていうか布団も無いじゃん!!?
何処でどうやってどういう風に寝るんだよ!?」
「少し狭いけど、僕と、あの娘達がベッドで、
君が床。
代わってあげようか?」
「ちょまッ!?」
「たった一晩さ」
「待て待て待て!?」
「冗談に決まってるだろう。
本当に変な事を考えていたんだね」
「お前が、変な事とか言わなけりゃな!?」
「あの娘達、ああいう事を言えば悦ぶんだ」
「いかがわしいわ!!」
「それにね」
───ペッッッ!!
そこで、彼女はいきなり道端に向かって唾を吐いた。
「汚ッッ!!? 何!!?」
「あの娘達が飲んでた酒さ。
飲み込んではいないんだけど、口の中が気持ち悪くて」
「飲みたくなかったのに貰ったの!?」
「ごく僅かだけど、魔力が込められてた」
「嘘!!? マジ!?」
「マジ。
それに、きついアルコールで薬の味を分からなくさせてる」
「薬入ってんのかよ!!?
理央さんと茉央さん、
そんなもの飲んでて大丈夫なのかよ!!?」
「あんなに酔っ払ってて平気そうなんだ。
身体に害は無いと思うけど」
「誰がそんな事を?」
「いずれ解るだろうね。
それに、見ただろう?
曲がらないタイプのストローだったんだぜ?
こういう時の僕の予感は、よく当たるんだ」
「ど……、どういう意味だよ!?」
「ナツメくん。
知ろうと思う事は良い事だけれど、
何でもかんでも他人に聞いてちゃダメだ。
大まかな定義で云えば、
君も立派な魔法使いだ。
考えるんだよ。
思考するって事が、
僕はこう云う場面で最も大切な事だと思うよ」
彼女は楽しそうに言った。
一体何が起ころうとしてるのか、俺には分からないが、
彼女が言っている事を、少しでも理解しようと、
俺は頭を全速力で回転している。
◆◆◆◆




