異世界篇 9 『もどき、くそたわけ。』
本日 最終話です!
明日も、夜に投稿しますー
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ジンガは、自分の能力に絶対的な自信を持っていた。
予想していたよりも、遥かに速度も手数も上回っていた、
ミンシュの猛攻も、自分には通用しない。
先刻から何度も攻撃を加えられているが、
ジンガは無傷だった。
ヤエファと、ミンシュは高い魔力を持っている。
その事が裏目に出ているのだ。
ジンガの能力は、
魔力に反応して身体を液体にさせる事が出来た。
ヤエファとミンシュの攻撃には、
必ず魔力が込められていたので、
攻撃が当たる瞬間に水に変化する事が出来たのだ。
水になってしまえば、
ダメージを受ける事は無い。
天恵者の中には、
自然物に変化する能力を持つ輩が多いが、
ジンガのそれは、チートとは仕組みが違うのだ。
しかし、
ジンガは自分の優勢を確信し、
水の攻撃魔法でジリジリと二人を追い詰めた。
「僕の能力は厄介だよねぇ。
警戒して、隙を衝こうとしているから、
先刻までの勢いも無くなったよねぇ」
地下牢の広さはそこまで無い。
ミンシュとヤエファの機動力は高かったが、
彼女達が間合いを取ろうとして離れれば、
壁に追い詰めて、得意の中距離攻撃魔法で狙い撃ちにし、
接近して来れば水に変化する。
実にいやらしい攻守を、
ジンガは自分の能力に忠実に徹底した。
───それに。
もう一人のグラスランナーは戦闘要員では無い。
ロロを守る為に、
二人の動きに微かに乱れが起きている事を、
ジンガは見逃していなかった。
──このまま、削って行って確実に仕留める。
ヤエファの方を見て、ジンガはそう思った。
(あっちの人外は、侮っては駄目だねぇ)
その時、ジンガの水魔法が、一瞬だけ勢いを衰えさせた。
「隙ありー♪」
ミンシュが魔法を掻い潜る様にして、接近を試みた。
───『水人形』
従者の一人が身体を水に替え、
ポンプの様な役割を果たす様にして、
ジンガに補給を施した。
「残念だったねぇ。抜かりは無いよねぇ」
───『底より這い出る水撃』
ミンシュの足元から爆発した様な勢いで水飛沫が上がり、
彼女の身体を宙に打ち上げた。
「ミンシュちゃん!?」
「魔力切れを狙ったんだろうけどねぇ。
水人形は魔力の込めた水を貯めた、
僕の生きる貯水庫だからねぇ。
君の方が隙だらけだねぇ」
ミンシュは天井に叩きつけられる寸前に、
空中で体勢を変え、脚を天井に向けると、
スキルを発動した。
───『跳ネル翔ル!!』
跳弾の様に、天井を蹴り上げたミンシュが、
そのままジンガに再度スキル攻撃を放った。
───『蹂躙スル兎ダゾ!!』
跳躍して勢いをつけた反動で、
そのまま踵落としを叩き込んだ。
しかし、やはりジンガの身体は魔力に反応し、
その身体を液体化させて、ミンシュの攻撃を躱した。
離散したジンガの身体は、再び間合いを取って、
復元を始めた。
「なかなか当たらんの」
「キーーッ!! キモいキモいキモいキモい!!」
水人形の従者は、ヤエファとロロを捕らえようと、
二人を追いかけ回していた。
ヤエファはロロを小脇に抱え、
水人形に指一本触れさせずに逃げ仰せていた。
半分程、復元したジンガは、
水人形の片方を呼び寄せると、
再び補給を始めた。
「あ! また水足してるッス!!」
「ふむ。無限にゃ無さそうじゃが、
それでも貯めてある水が多いの。
補給の間隔が短うなったけ、
本体の方は、疲れてきとるの」
「だからと云ってねぇ。
このまま僕にダメージを与えられなかったら、
貴女達の方が先に死ぬよねぇ」
ジンガは、水人形一体の水分を殆ど吸収し、
身体から滴るほどの水に、
余す事無く魔力を張り巡らせた。
───『暗渠瀑布!!』
魔力の通った水が、真っ黒に見える程に濁り、
ジンガの身体から放たれると、散弾となって、
隙間無い弾幕を張り、三人を襲った。
「汚!! マジNGですー!!」
「わっち達の勝ちじゃの。
あのアホ、焦りよるけ。
あんたなら躱せるじゃろ。
魔力を込めんで殴ってみんさい」
「なるー♪」
蜂の巣になりそうな程の、水の弾幕を、
ミンシュは全て躱した。
その眼には狂喜的に、輝かしい光が宿っていた。
「嘘だよねぇ!?」
自分の最大の攻撃魔法を、
容易く躱されたジンガに向けて、
ミンシュは固く拳を握り締めると、
犬歯を覗かせて笑った。
「いっくよー♪」
───ガッッチィィィィッ!!!!!
ガコゼの身体は水に変化する事が出来ずに、
ミンシュの、魔力の込められて無い、
通常の打撃で、真面に喉を殴りつけられた。
「……ゲェッッ!? ゲッ……!? ボべェッッ!?」
「これで詠唱出来ないですー♪」
(喉!? 喉潰された!! クソ!! クソ!!)
「ヤエちゃーん♪ いつでもオッケーでーす♪」
「怖ッッ!! 躊躇無く、喉殴ったッス!?」
「『歩く地雷』の通り名は、
伊達じゃなかろ」
喉を潰され、詠唱が出来なくなったジンガは、
すぐさまに逃亡を図り、
地下牢から、地上へ上がる階段へ駆け出した。
「逃がす訳なかろ」
ヤエファは人差し指の先の、皮を噛み破ると、
指先から流れ出た血で、
空中に向かって複雑な図形を描いた。
真っ赤な鮮血が発光し、
ヤエファは詠唱した。
───『尾裂の獣焔』
空気が、チリチリと灼ける様な感覚がして、
尾の裂けた、火焔に包まれた獣が、その場に姿を顕した。
「ちゃちな弱点じゃったの。このクソたわけが」
ヤエファは冷酷な笑顔を浮かべて、
ジンガに向かってそう言った。
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