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リンカーネイトリンカーネイトリンカーネイト  作者: にがつのふつか
第四章 『二月二日と少年』
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イセカイ篇 9 『メイドカフェりしえる。』

本日の1話目の投稿です!



結界に閉じ込められていた間に、

すっかり夜は明けていたらしく、

時刻を確認するとスマホも正常に戻っていて、

今が正午辺りの時間帯な事が判った。


「なんだ。まだお昼くらいなのか。

夕方まで寝ようと思っていたのに」


欠伸を繰り返しながら、彼女(ことは)はそう言っていた。

冷静に考えれば、一度襲撃を受けた後に、

眠いからと云って、

すぐさま寝てしまった彼女の事を、

俺はどうかしてるんじゃないかと疑っていた。


俺も釣られて寝てしまったんだけれども。


「そういえば。

(ナツメくん)は昨日、無断外泊をしてしまったね。未成年」


「まあ、そうだな」


「お父さんやお母さんは、心配してないかな」


「うちの親は……、まあ……、俺の事に興味無いから」


「出来の良い弟かお兄さんでも居て、

自分には注目が集まらなくて、いじけてしまったなんて、

テンプレの極みだな君は」


「ちがわい! 

……引きこもりのテンプレなのは、

違わないけど……」


「そうかい。

君と行動し易いなら、僕としては有難いかな。

時間のある時に、

リロクの仕掛けた装置を虱潰しに壊して周りたい。

僕一人じゃ大変だから」


「でも、俺は本当に強くないぞ?」


「強さなんて関係無いよ。

壊すんだって思って、

破壊するイメージを想像出来たら、

強さや過程なんて、

大した問題にならない」


「ほんとかよ……」


「ほんとだよ。それじゃ僕は部屋に戻って、

もう少し寝るから。また連絡する」


「ま……、待て!」


アッサリと立ち去ろうとする、

彼女(ことは)を慌てて引き留めた。


「普通に怖い!! 

置いてくなよ!?」


「え。まさか本当に四六時中、

僕と一緒に居るつもりだったのかい?」


「そうだよ!? ダメ!?」


◆◆


彼女は文句を言いながらも、

俺を再び部屋に通してくれて、

ベッドに潜り込むと、また直ぐに眠ってしまった。


夕方近くになって、

彼女はようやく眼を覚ましたが、

俺はその間ずっと起きていた。


「バイトに出掛ける」


そう言って彼女は身支度を整え出した。


「スイは元気にしてる?」


化粧水を顔に塗りながら、そう訊いてきた。


「元気。ウクルクの宮廷術師をやってるって言ってたぞ」


「国王に気に入られていたからなぁ。

それで、君も一緒にウクルクで働いてるのかい?」


「スイとシャオが、

女神の痕跡の調査パーティーに選抜されて、

俺とユンタも、そのパーティーに入ったんだよ」


「シャオも大きくなっただろうね。

彼女は、小さい頃からスイと仲良しだったんだ。

今も仲良くやってるかな?」


「良いよ。シャオの方が、スイの事を超好きって感じで」


「ふふ。変わらないね」


「スイのお嫁さんになるって言ってたぞ」


「あはは。GLじゃないか」


「それからさ、スイはさ、

お前(ことは)が帰って来るのを待ってて、

痕跡を探す旅の途中で、

お前の事を見つけられるんじゃないかって言ってる」


「僕も逢いたい。

君があっちの世界(異世界)に出現した事で、

女神の痕跡が発生したんだろうね。

痕跡が見つかる度に、あちこちでパーティーが組まれる」


「何で、女神は日本人に絡みたがるんだろうな?」


「さあね。僕も理由は知らないな」


化粧水を塗り終わると、化粧下地を済まし、

薄くファンデーションを塗りだした。


「あっちの世界の人は皆」


「え?」


「女神の力を手に入れようとしてるけれどさ。

そんなに大きな力を、制御出来るものなのかなって、

僕はずっと思ってる。

魔力は確かに生活を豊かにするけど、

でも本当は必要最低限だけでも充分なんじゃないかって」


「でも、お前も痕跡探しに行かされてたんだよな?」


「そう。こっちの世界と同じさ。

働かないと生活が出来ない。

魔法が使えたところで、実に情け無い話だよ」


「メイドカフェ」


「人生を豊かにするという点で、

痕跡とメイドカフェに、

一体何の違いがあるんだろうね」


「だいぶ違う様に思えるけどな」


「一つだけ、

明確に分かりやすいモノがあるとするならば、

メイドさんの服が、とても可愛いという事だね」


◆◆◆


「んで? この(男の子)が、ことはの親戚の子?」


大きな通りに店舗を構える、

メイドカフェ『りしえる』。

俺は、その二階部分に在る事務所に通され、

店長と面談をしている。

店長は二次元キャラクターの様な髪色をしていて、

少し目付きは悪いが、美人だ。



「そう。

急に親御さんが海外に行かなくてはならなくなってね、

その間、僕が預かる様に頼まれたんだ」


「預かるって。

そんな年齢でも無ぇだろ?

君、いくつ?」


俺は店長にジロッと眼を覗き込まれ、

完全に萎縮してしまった。


悠ちゃん(店長)、ダメかな?

まだ、彼は未成年だし、

夜に家に一人で居させて、

僕の部屋で良からぬ事をされても問題だ」


お前(ことは)、下着とかちゃんとしまっとけよ?」


「盗みませんけど!?」


「この通り、実に健全な男の子だ。

頼むよ悠ちゃん。僕がシフトに入ってる間だけ、

事務所に居させてくれないかな?」


「つってもな。

オーナーにも訊いてみないと」


「そこを何とか頼むよ。ね?」


彼女(ことは)は、

悠ちゃん(店長)にグイッと顔を近づけて、

たじろいだ悠ちゃんは壁に追いやられた。

そして、彼女は悠ちゃんの頭の上の辺りの壁に腕をつけ、

片方の膝で、悠ちゃんの股を割るようにして、

顔も身体もくっついてしまう様な体勢を取った。


所謂、壁ドン。

もう古いらしいけど、間近で見ると迫力があるものだ。


「ちょっ……!!」


「僕と悠ちゃんの仲だろう?

それに付け睫毛(つけま)、変えたんだね。

とてもよく似合ってる」


「おまッッ……、ズルいって……。

しかも……、変えてねぇし……。

いい加減な事言うなし……」


そして、彼女は顔を真っ赤にした悠ちゃんの顎を、

もう片方の手で持ち上げた。


所謂、顎クイ。

もう、息を呑む暇さえ、俺には与えられないのか。


「それは、

(悠ちゃん)に素敵なところがたくさん有る所為だ。

僕の眼をこれ以上忙しくさせて、

悠ちゃんは一体、僕をどうしようと言うのかな?

もっとたくさん褒めて欲しかったのかな?

欲張りだ」


「わかった……!! もうわかったから!!

居ていい!! 言っとくから!!」


「ありがとう」


彼女はニッコリと笑って、

ようやく、プルプルと震えている悠ちゃんを解放した。


「だそうだよ。良いかい?

皆働いてるんだから、

くれぐれも大人しくしておくんだよ?」


彼女は俺にそう言った。


◆◆◆◆


「あの……、

店長さん(悠ちゃん)、ありがとうございます」


「……いいよ別に。従業員の子が出入りするけど、

気にしなくていいから。

あと、そっち更衣室。

覗くなよ」


まだ少し顔の赤い悠ちゃんが、軽く凄んできた。

が、先程とは違って可愛らしいものだ。


「うす。ところで、悠さんて、

ことは姉ちゃんと何かあったんすか?」


「ブッ!!?」


彼女に、店ではそう呼ぶ様に言われていた。


「な……、なんも無いけど!!?

何で!!? てか、アイツ(ことは)モテるし!!

モテるヤツに興味ないし!!?

きっと他の子にも同じ事言ってるし!!?」


何となく、俺は全てを把握した。


確かに、彼女(ことは)はモテていた。

()にも、他のメイド()にも。


結局、俺は事務所に居ても暇なので、

皿洗いでも、

と云う事になり、

キッチンから垣間見える、

ホールの様子をチラチラと伺っていたが、

シフトの間中、彼女の周りには、

濡れた様な黄色い声援と、

好意的な視線(エロ含む)や、

恋慕の感情が目に見える程に、

(せわ)しなく飛び交っていた。


「お帰りなさいませ。

お嬢様。また来てくれて嬉しいよ。

この間に比べて今日は、

君と一緒に過ごせる時間は長いのかな?」


「うん♥️ことはがずっと傍にいてくれたら♥️」


「僕としても、君の傍に居たいんだけどね。

仕事だと云う事は理由にはならないかな?」


「ことは(くーーーん)♪♥️」


「やあ。久しぶりだね、お嬢様」


「ねーことはー♥️これ食べてー♥️」


「嬉しいな。でも、

お嬢様から施しを受けてはいけない決まりなんだ。

すまないね。君が食べて、感想を聞かせてくれる?」


「ことはさーん♥️

これってどうしたらいいんですかー?♥️」


「理央ちゃん。ちょっと悠ちゃんに聞いてみようか?」


「きゃー♥️ やさしー♥️」


もう、店内の全女子の眼がハートになっている。


時折、ホールですれ違う時に、

彼女が悠ちゃんと交わすアイコンタクトや、

頬を染めて、照れ臭そうにする悠ちゃんが、

とても意味深に見えてしまう。


悠ちゃんは、さっきの一連の流れから、

俺の目には最早、恋する乙女にしか見えていない。


本当の親子で無いとは云え、

スイと、ことはは、よく似ている。


イケメンと云うか、王子様と云うか。

メイドカフェでの接客も、

メイドと云うよりは、

執事然とした対応だったが、

見た目の中性感も相まって、

モテない要素が無いのだ。


◆◆◆◆◆


カフェの閉店時間になり、

今日も遅い時間帯のシフトだった彼女(ことは)が、

着替えを終えて、

更衣室から出て来るのを俺は待っていた。


「お待たせ」


猫耳の付いた黒いパーカーに、

黒くて細いスキニーパンツ。

今日はサンダルでは無く、

ごつくて黒い厚底のブーツを履いている。


「さて、行こうか」


彼女は店を出て、アパートとは反対の方向へ歩きだした。


「え!? 何処行くの!?」


「何処って。リロクの魔力装置を壊しに行くんだよ。

この辺りに一つ見つかったんだよね」


彼女は、そう言いながらさっさと歩いて行ってしまった。


正直、今からかよ?と思ったけど、

俺は彼女について行く他無かった。


◆◆◆◆◆◆

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