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リンカーネイトリンカーネイトリンカーネイト  作者: にがつのふつか
第四章 『二月二日と少年』
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イセカイ篇 8 『リロクの仕業。』

本日投稿の1話目です!!



「おい……。起きろって……」


俺は、ことはを起こそうとして声を掛け続けた。

消していた部屋の電気をつけて、

少し肩を揺さぶってみたが、

彼女(ことは)が起きる様子はまるで無い。


「んー……」


迷惑そうに俺の手を払うと、

毛布を頭から被って丸くなり、

彼女はまだ寝ようとする。


場面の展開から云って、こういう時に起こされるのは、

多分、俺の方だと思うんだが。


「んー……、じゃないんだって!

おい!

起きろ! おーきーろーー!」


「嫌だ……、ここは僕の家なんだよ……?

好きな様に寝かせろよぅ……」


彼女は、まだグズグズと言いながら、

まるで起きようとしない。 


「マジ起きろって!? 変なんだって!!

外がずっと夜なんだよ!?」


俺は彼女を起こす少し前に眼を覚ましていた。

そして、すぐに異変に気付いた。


夜が明けない。


彼女の部屋には時計が無くて、

俺は自分のスマホで時刻を確認したが、

“2"₩:□*”

といった具合に、

意味の無い記号が表示されているだけ。


カーテンを開けて、外を確認したが、

外は、俺達が寝る前と変わらずに、

真っ暗のままだった。


俺は怖くなってきて、起きない彼女に声を掛け続けた。


◆◆


「……。本当だ。時間がわからない……」


欠伸混じりに彼女がそう言った。


彼女は、まだ起き上がろうとはしないで、

寝転がったまま、スマホをいじって(操作)いる。

俺も色々なアプリを起動しようとさせたが、

どれも固まって(フリーズ)しまい、

殊更に不安を掻き立てられた。


「電話も通じないね……」


ポイッと、枕元にスマホを投げると、

毛布にくるまったまま、ようやく身体を起こした。


「結界魔法で分断されたのかな……。

今、何時なんだろうね?

今日もバイトがあるんだけれど、

これじゃ出掛けられない」


そんなに慌てている様子も無く、

彼女は立ち上がると洗面所に歩いて行った。


しばらく水の出る音がした後、


「ナツメくん。ねえ、ナツメくん」


「な……なに?」


「悪いんだけれど、タオルを持って来てもらえるかな?」


俺は部屋をキョロキョロと見回し、

畳んであった洗濯物から、

イラストがプリントされているタオルを取った。

勿論、下着はそのまま一緒に置いてある。

黒。


タオルに顔を埋める様にして、

水を拭き取った後の、

化粧を落とした彼女の顔つきは、

少しだけ幼くなり、

印象が、また少し変わった。

俺は少しだけ、

昔の二月二日ことはの姿を、

思い浮かべる事が出来る様な気がしていた。


それにしても、美人だった。

スイとは、勿論似ていないが。


彼女は、タオルをポイッと俺に投げて寄越すと、

さっさと玄関の方へ向かって歩いて行った。


「ど……、何処に行くんだよ?」


「何処って。

いつまでもこうして居られないだろう?

結界を壊しに行かないと」


彼女は、そう言うと玄関から表に出て行ったが、

またすぐに戻って来ると、

扉を少し開けて、

顔を覗かせながら俺に言った。


「何してるんだい? 君も行くんだよ。

それとさ、悪いんだけど、鍵。取ってもらえる?」


ベッドの枕元に、鍵、スマホ、財布、眼鏡……、

きっと忘れない様に置いたつもりなのだろうが、

全てそのままにしてあった。


俺はキーホルダーやら、

カプセルトイのキャラクターやらが、

ジャラジャラと付いた鍵を彼女に渡した。


「何でコレを忘れられるんだよ?」


「何だよ?僕がだらしないって言いたいのかい?」


彼女はそう言いながら玄関の鍵を締めて、

パーカーのポケットに鍵を突っ込んだ。


「それじゃ行こうか」


俺は歩きだした彼女の、

少し後ろをついて行った。

アパートの二階部分から、

手摺(てすり)の付いた階段を降りて、

道路に出た後に、

彼女としばらく真っ直ぐ歩いていると、

前を歩いていた彼女が、

ピタッと止まり、

足で自分の目の前を軽く突いて、

探る様な動作をした。


そこは何も無い筈の場所なのに、

コンコンッ、と壁を叩く様な音がした。


「ここだね。

アパートを中心に、半径15メートルってところかな。

結界を張って、外と遮断してしまう魔法だ」


俺は彼女の指差した辺りを、手のひらで触れてみると、

そこには確かに見えない壁があった。


感触的に、かなりの厚さと硬さがありそうだ。


「敵の仕業なんだよな?」


「勿論。でも、そんなに怯える必要は無い。

大した魔法じゃないよ。

コレを今から壊す」


「どうやって?」


「方法は二つだよ。

物理的、或いは魔法的に直接、結界を破壊する方法と。

結界を構成しているモノを破壊する方法。

この場合、結界を構成しているモノと云うのは、

術者だったり、結界を発動している主だったモノの事だ」


「どっちでやるんだ?」


「直接、

攻撃を加えて破壊するのは、

とてもコスパが悪い。

結界と云うのは大体が頑丈に出来ているからね。

効果的な点を集中して狙え無い限り、

只、消費していくだけだから。

だから、結界を構成しているモノを狙うのがセオリー、

とされているね」


「結界を張っている奴が近くに居るって事?」


「居ないよ。

多分、自動で結界を発生させる装置が近くにある。

それを壊すんだ」


「装置?」


「装置。

君のイメージしている、

機械的な外見では無いかも知れないけど」


「全然何も思い浮かばん」


「そうしていた方が良い。

先入観なんて無い方が良い」


「その装置って云うのも、リロクが?」


「そういう技術に長けた人物でね。

魔力の消費があっちの世界(異世界)に比べて、

著しく大きいこの世界で、

活動し易くする為に、

実に様々な趣向を凝らしてくる」


「他にもなんかあるのか?」


「リロクが世界間をあっちこっちに移動して、

両方の世界で活動出来ている事を、

不思議に思わなかった?

幾ら、膨大な力を持っていたとしても、

個々の魔力の量と云うものは上限が有るからね。

リロクは魔力を補給する地点を、

こっちの世界のあちこちに隠しているんだ」


「卑怯な奴だな、

自分だけ回復出来るポイント作ってんのかよ」


「と云ってもこっちの世界じゃ、

魔力の消費はあっちの世界(異世界)に比べて、

遥かに多い。

補給出来ると云っても、たかが知れてるんだけどね」


「じゃあ、この結界は、

限られた魔力で、

精一杯の嫌がらせって訳か?」


「そう。

こんな事をしても、

決定的なものにはならないとわかっているだろうけどね。

君の言う通り、殆ど嫌がらせに近い。

僕達をこっちの世界に閉じ込めておきたいと云う、

彼の願望かも知れないな」


彼女は壁のある辺りから引き返し、

たまに立ち止まりながら、何かを探している様子だった。


そして、

何回目に立ち止まった、

ゴミ捨て場に置かれたマネキンを指差した。


「あれだ」


「マネキン?」


「うん。あのマネキンが、結界を発動させる装置だ」


そして彼女はマネキンに触れた。


「こんなものでもね、

探すのにも、壊すのにも労力が要る」


マネキンは彼女に触れられた箇所から、

真っ二つに割れ、

先程アパートを襲撃してきた男と同じく、

灰の様になって崩れ去って行った。


辺りの風景が、ぐにゃぐにゃと曲がり、溶け出し、

変形して行った景色の端から、

光に当てられる様にして、真っ黒だった暗闇が、

明るく色づいていった。


「これで一丁上がり」


「何か楽勝に見えたんですけど……?」


「僕も魔力が制限されてるからね。

見た目程、楽勝って感じでも無いんだ。

言っただろう?

七年間も泥試合をしてるって」


彼女は欠伸をしながらそう言った。


結界が解かれ、

明るくなり始めた辺りの景色は、

何事も無かった様に俺達を迎えた。


◆◆◆


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