イセカイ篇 7 『刺客は突然に。』
本日投稿の2話目になります!
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世界最強と云われる彼女に、
必要とされて、勿論悪い気なんてするワケが無い。
でも、
具体的に俺が一体、何の役に立つというのかが、
俺にはよく分からなかった。
どのくらいの時間、彼女の部屋で過ごしていたのか、
ハッキリとはわからなかったが、
何故だか、いつまで経っても夜が明けていく様子が無い。
ということを流石の俺でさえ、ボンヤリとは感じていた。
───……ピンッッ……ポーーーン
突然、ことはの部屋の呼び鈴が鳴る音に、
俺は飛び上がりそうになる程に驚いた。
真夜中だ。
当然と云えば当然だ。
俺達は声を潜めるわけでも無く、
こんな真夜中まで喋り続けているのだ。
苦情の一つや二つ、
来たとしてもなんの不思議も無いのだろう。
プレッシャーを与える様な、何か嫌な感じがする。
俺は実家住まいなので、詳しい事は分からなかったけど。
この部屋の家主はスッと立ち上がると、
備え付けのモニターで、
真夜中の来客の様子を確認していた。
「ナツメくん。見てごらん」
ことはが、俺を手招きして呼び、
モニターの画面を見せてくれた。
画面に映っているのは、
上着のフードを被った、多分、男?
顔はよく確認出来ない。
「隣の人とか? 文句言いに来たとか?」
「何でそうなるのさ。
話の流れから云って、
普通の来客では無い事は明らかだろう?」
俺は彼女の、その言葉を聞いて、
身体が少し強張り、
画面越しに見える男に対して、恐怖を感じた。
「よーく、感覚を澄ましてごらん。
君も異世界で、
魔法と云うものを目の当たりにしたんだ。
感知が得意で無くても、
微量な魔力を、この男が発しているのが分かる筈だよ」
「こ……、こいつがリロク?」
「違う。
この男はリロクが操る使い魔の様なものだよ」
───ピンポンピンポンピンポンピンポンッッッ……!!
男は滅茶苦茶に呼び鈴を押しまくっている。
───ガチャガチャガチャガチャッッッ……!!
「怖ッッッ!!?
か……鍵、ちゃんと閉めてるんだろうな!?」
「そんなに怖がる必要は無いよ。
しかし、参ったな。
まさか部屋にまで来るとは思わなかった。
部屋を荒らされては困るんだけどな」
彼女は、そう言いながら玄関のドアを開け、
俺は小さく悲鳴を上げた。
当然、
男は侵入しようと勢い良くドアを引っ張ろうとしたが、
それよりも迅く、彼女はドアを閉め、
男が体勢を崩してドアにぶつかった音が聴こえると、
再びドアを勢い良く開けた。
ドアを物蹴られた男の身体は仰け反り、
アパートの手すりに腰の辺りから打ちつけられると、
一瞬動きを止めたが、
次の瞬間には、訳の分からない奇声を上げて、
彼女に襲いかかろうとした。
その男のみぞおちの辺りに、前蹴りが突き刺さる様にして叩き込まれ、
抵抗しようとした男の頸を、彼女が掴んだ、
そして、
流石に鈍い俺にでも分かった。
彼女は魔法で、
男の頸をあっさりと引き千切ってしまった。
「こんな調子でね。
リロクは度々、使い魔を寄越して来るんだよ」
頸を引き千切られた男は、
そのままアパートの中庭に蹴り落され、
散り散りの灰の様になって、あっという間に消えてしまった。
「この通り、大した相手では無いんだけれどね。
君の魔力を辿って、
部屋を突き止められてしまったみたいだ。
「お……、俺の所為!?
ていうか、俺を追っかけて来たの!?」
「もし君の家に、こいつらが現れた時には、
一人で対処出来そうかい?」
「む……、無理無理無理無理ッッッ!!?」
「それは困ったな。
僕もバイトに出掛けなきゃならないし、
四六時中、君を守る事が出来ないかも知れないな」
「どこ!? バイト先どこ!? ついてくから!!」
「えー?
お店の中で待つのかい?
それは困るよ。
店長に相談しないと」
「頼む! 店長さん! お願いします!!」
「僕に言われても。弱ったな。
ナツメくん。意外と頼りにならないじゃないか」
「期待すんなよ!! 強いなんて言ってないからな!?」
「それに君。今夜は一体どうするつもりなんだい?
その調子じゃ、家には帰れないだろう?」
「と……、泊めてよ!?」
「えー?それはダメだよ」
「何でだよ!? 襲われたらどうすんのさ!?」
「僕が君に襲われたらどうすんのさ?」
「はぁ!? 襲わないから!?
てかお前の方が強いじゃん!?」
「それに。
君は、異世界でスイと一緒に居たんだよね?
うちの娘と一体どういう関係なんだい?」
「え!? 今!?」
「僕がスイとお別れしたのは、
彼女が十二歳の時だったから、
今はもう大人になっている筈だ。
それも、とびきりの美人の筈だ」
「ちょ……、ちょまちょま!」
「まさか、
スイにちょっかいなんて掛けてないだろうね?」
「そ……、そんな訳ないだろ!?」
「スイに何かしてたら、僕は君を許さないぞ」
結局、
彼女は、俺に毛布を一枚を渡すと、
床を指差して、
自分は、さっさとベッドの中に潜り込んで行った。
「とりあえず、
今日はもう眠たいから、僕は寝る。
詳しい話は起きてからにしよう」
そして、化粧も落とさず、電気も消さないまま、
あっという間に寝息を立て始めた。
これは下心があるヤツでは無い。
俺は、自分にそう言い聞かせながら、
二月二日ことはの寝顔を確認し、
電気を消した。
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